中国からみた秋葉原? オタクこそ読むべきな漱石風小説

ダ・ヴィンチニュース / 2014年7月29日 13時30分

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『吾輩ハ猫ニナル』(横山悠太/講談社)

 「私は死ぬまで進歩し続ける」。これは夏目漱石が遺した名言であるが、漱石はきっと死後もずっと進化し続けるのだろう。第151回芥川賞候補作に選ばれた横山悠太氏著『吾輩ハ猫ニナル』は芥川賞ノミネート作品の中で異彩を放つ作品だ。惜しくも授賞は逃したものの、もし漱石が生きていたら、「この発想はなかった!」とたまげるに違いない壮大なパロディ作品である。

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 そもそもアナタは漱石の『吾輩は猫である』を読んだことがあるだろうか。英語教師の珍野苦沙弥の飼い猫が先生の取り巻きの会話や世間に対して痛快なツッコミを入れていくというストーリーは実は当時の知識人にとって腹を抱えて嗤わずにはいられない爆笑必至の小説だった。今となっては若者には「なんだか文体が固いし、漢字ばかりで読みにくい…」と感じさせる作品だが、横山氏の『吾輩ハ猫ニナル』はそんな漱石の文体をマネしながら、若者やオタク達こそが抱腹絶倒できる作品を生み出してくれた!

 この作品は、夏目漱石の本を「古くて読みにくい」と批判した中国人のために書かれた「日本語を学ぶ中国人」を読者として想定した小説だ。主人公は、上海に住む日中混血の青年、カケル。彼はビザの更新のため日本に来たのだが、母や友人へのお土産のためにオタクの聖地、秋葉原へ行くことになる。カケルが秋葉原で見たのは一体どんな世界なのだろうか。

 中国人のために書かれた小説ということで、この作品はカタカナを一切使わず、作品の随所には見たことのないルビを振られた漢語が出てくる。雷帝・嘎嘎(レディー・ガガ)や機械猫(ドラえもん)、阿凡達3D版(アバター3D版)といった表記は中国では本当にこんな漢語が使われているのだろうかと驚きを覚えさせられる。そんな中国語風の文字の中に、厠所(うんち)や好基友(ホモ達)というルビまで登場するのには思わず苦笑。漢語で遊び過ぎだろうと呆れてしまう。

 おまけに日本のカルチャーに対するコメントが辛辣だ。銀狐犬(スピッツ)の名曲・魯濱遜(ロビンソン)は主人公やその仲間たちに言わせれば、「失恋した跟踪狂(ストーカー)」の歌か「神経病者か或いは酒精(アルコール)中毒者の胡話(うわごと)」だという。秋叶原(秋葉原)に出掛ければ、女僕珈琲店(メイドカフェ)の店員の甘い誘い声も主人公にすれば、らーめん屋の店員と同じ間延びした声と同じ。動漫迷(アニヲタ)の友人の土産を買うために訪れた「とらのあな」では、黄色録像(アダルトビデオ)コーナーに案内され、驚愕することになる。普段見ている日本の景色を中国からの視点で改めて見ると、なんだか滑稽に感じられる。

 そして、この作品は近代文学ファンにもたまらない仕掛けがなされている。随所に他の漱石作品や正岡子規の作品など、他の文学作品のパロディを織り交ぜているのだ。たとえば作品内で登場する女は「K」と呼ばれるし、猫は「先生」と呼ばれる。「おいおい、ふざけ過ぎだろ…」とツッコミを入れているうちあっという間に読み終わってしまう。

 日本語と漢語を大胆不敵に混交したこの作品は、文学好きもそうでない人もお腹を抱えて笑える1冊。文学界に新たな風を吹かせている。

文=アサトー ミナミ

ダ・ヴィンチニュース

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