もし放射能が目に見えたら、アナタはどうしますか?

ダ・ヴィンチニュース / 2014年7月29日 13時30分

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『マダム・キュリーと朝食を』(小林エリカ/集英社)

 どこかの国では多くの人たちを死に至らしめる“火薬”で作られているはずの花火が夜空に大輪を咲かせるのを見ていると、一体何が危険で何が安全かなどわからなくなってくる。私たちの生活はきっと絶妙な均衡を保って、いつでも平静を装っているのだ。その裏にどれほどの危険が隠されているかなんて知らない。危険なはずのものが時には輝いてみえることだってあるし、どうしても手に触れたくなってしまうことだってある。

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 『マダムキュリーと朝食を』は小林エリカ氏著の幻想小説だ。三島由紀夫賞にも芥川賞にもノミネートされた今話題の本作品のテーマは「放射能」。「震災後文学」と呼ぶにふさわしい内容は読む者に「放射能」について、「故郷」や「私たちのルーツ」について、「目に見えないものの存在」について考えさせられる。主人公たちとともに目まぐるしくあらゆる時空を行き来しているうちに、ふと胸のうちに湧き上がるこの感情は一体なんなのだろうか。

 舞台は、震災から数十年が経過した未来の街。震災後の原発事故によって人間が住むことができなくなった地域には猫が多く住み、猫だけの街「マタタビの街」を作っていた。わけあって「マタタビの街」から「東の都市」へと移動してきた猫には、目に見えないはずの「放射能」が「光」のように見えていた。「光」あふれる故郷を恋しがる猫。一方で、震災の年に生まれた少女・雛の祖母も「放射能」を「声」として聞き取っていた。キュリー夫人やエジソンなど、実際のエネルギー史を織り交ぜながら、主人公たちは時空を超えた旅へと出かける。

 猫は故郷でたくさん見た「光」を追い求めて、100年の時空を超えた旅に出る。「危険だからやめろ」と止められても猫は決してやめることができない。猫は「光」を恐ろしいと思いながらも、抑えきれないほど、「光」に強い魅力を感じている。猫は「光」の中に故郷の風景を見、思わず「光」の中に飛び込んだり、自分自身の中に「光」を取り込もうとする。故郷に恋い焦がれて「光」を貪り食らう猫になぜか共感してしまうのは間違っているのだろうか。猫と同じように、身体を危険にさらしてでも、私たちは壊された自分の大切な場所を、大切な思い出を永遠に求め続けるだろう。

 この本の中では、主人公の猫が時空を超えた旅をする中で、電気や放射能を人間が見出し、生活へと役立てていくまでの歩みについて描かれている。その変遷を見ながら、「光」の「声」を聞いていくこの物語はファンタジーでありながら、どこかリアリティに溢れている。

 「どうして目に見えないもののことは、みんなこんなにも簡単に忘れてしまうんだろう」。震災を経験したすべての人、必読の1冊。

文=アサトー ミナミ

ダ・ヴィンチニュース

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