魅力的な夜が昼と交じり合って誕生した熱に浮かされるようなファンタジー

ダ・ヴィンチニュース / 2014年7月29日 13時30分

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『夜よる傍に』(森泉岳土/KADOKAWA エンターブレイン)

 静かな深夜には作業がはかどってしまうもので、それが連日続くと、気づいたら体が昼夜逆転に慣れてしまっている、という経験がありますか。夜には頭が冴えてパフォーマンスを発揮できる替わりに、日中は体がだるく気分もイマイチ。太陽が真上にある時間帯に外を歩こうものなら、まるでボーっと夢遊病のような感覚。ここは現実か夢の世界か、ときに曖昧に感じたりすることも。

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 このように、夜の住人になってしまうと、弊害もあったりするわけですが。本作『夜よる傍に』の若い男女は、理由あって夜に生きる人間であり、そんな自分に問題意識を抱えていたりします。そんなわけで必然的に夜のシーンが大半を占める本作ですが、じつに魅力的な夜が描かれています。水で描き、墨を落とし、細かいところは爪楊枝や割り箸を用いる。そんな作者こだわりの描き方をしていたら、当然、制作時間はかかります。しかしながら、作者は「時間をかける」ことを「自分に向いている」と公言するとおり、最後まで前述の画法で描き直しを繰り返すことにより、“思いも寄らない線を描ける”(あとがきより)らしく、この手間により、読者は確かに今まで見たことがない夜を目の当たりにできるのです。

 物語序盤は、夜のアンニュイとした雰囲気が漂う静かな展開ですが、中盤からは一転、現実なのかファンタジーなのか、夜と昼が混ざり合い、ダイナミックでスリリングな世界が広がっていきます。芸術的で、たとえるならまさにポエム。“漫画の新たな可能性を拓く”と高く評された才能が存分に発揮されて、読後も読者を魅了し続けます。

 あとがきで「家族も友人も、僕の大事な夜空の道しるべである」と書かれているとおり、人と夜に愛を傾けて止まない作者の心地良い思想が、私たちに夜に対する新しい価値観をもたらしてくれます。

文=猫梳なりや

ダ・ヴィンチニュース

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