フラウ文芸大賞受賞作!この夏、女子が読むべきキュートでダークな短編集

ダ・ヴィンチニュース / 2014年7月29日 13時30分

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『おはなしして子ちゃん』(藤野可織/講談社)

 いくら食べてもいくら寝ても満たされない時、子どもは、「何か面白いお話して何か面白いお話して」と人にねだる。大人だって同じようなものだ。単調な生活だけでは物足りない時、人はいつも面白い話を求める。人に元気を与えてくれる「お話」がたくさん入った本がもしあるならば、ぜひとも手にとりたい。そんな願望を叶えてくれる作品がある。

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 『おはなしして子ちゃん』は『爪と目』で芥川賞受賞した藤野可織氏の最新作だ。第2回「フラウ文芸大賞」を受賞した本作には10個の短編が入っているぜいたくな作品だ。

 小学校の理科準備室にあるホルマリン漬けの小猿が話し出す表題作「おはなしして子ちゃん」。学校に立て続けに起こる殺人や事故を呪われた転校生のトランジとともに解決していく「ピエタとトランジ」。撮る写真すべて人間よりもくっきりと心霊が写る少女を描いた「今日の心霊」。後遺症で1日に1回嘘をつかなければ死んでしまう体になってしまった少女の命を守るため、街の人々が多くの犠牲を払っていく「エイプリル・フール」…。この作品はどんなジャンルが好きな人にもフィットするあらゆる物語がギュッと詰めこまれている。全体としてはホラー調だが、ミステリー的なものから、SFやファンタジーまで、どの話をとっても燦然と輝く作者の才能が感じ取れる。

 そして、どの話も「生」の息づかいとともに「死」の匂いが薫っているのがこの作品の特徴だろう。おまけに、恐ろしさの中には何処か可愛らしさがあるのだ。作者、そして主人公たちが女性だからこそ醸し出せる怖さなのか。その不可思議な展開に背筋がゾクッとするのは、ファンタジックな展開でありながらも、どこか日常で起こり得そうな題材ばかりを扱っているためだろうか。

 特に私は、猿と鮭の死骸をくっつけて人魚を作る工場で、人魚になりきれないものの心の葛藤に迫った「アイデンティティ」が気に入った。猿でもなく鮭でもないモノが人間に認められようとあがく姿は、不気味でもあるが、どこか愛らしくもある。

「生きていると、ときに自分の像を押し付けられることがある。また、自分が理想の自分とはまったく違うものに成り果ててしまうこともある。しかし、人生でいちばん大切なのは、ありのままの自分を受け入れてくれるパートナーに出会うことだ。そして、自分自身でもありのままの自分を受け入れること。それが死骸であれ、ゴミであれ、なんであれ」

 日常の中に潜む、非日常。見えそうで見えないもの、見て見ぬ振りをしているもの。そんな世界がこの本の中にはある。今話題のこの作品、読まない手はないだろう。

文=アサトーミナミ

ダ・ヴィンチニュース

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