斉藤和義のために書き下ろした伊坂作品! 音楽とのコラボから生まれた小説が〈幸せ〉を届ける

ダ・ヴィンチニュース / 2014年10月6日 5時50分

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『アイネクライネナハトムジーク』(伊坂幸太郎/幻冬舎)

 この物語の始まりは、ちょっと変わっている。本書には6つの短編が収録されているが(そしてそれらはもちろんリンクしているのだが)、冒頭の「アイネクライネ」は2007年、シンガーソングライター斉藤和義の新曲のために書き下ろされたものなのだ。斉藤ファンを公言していた伊坂は、最初は作詞を頼まれたものの、「詞は書けないけど、小説なら」と短編を書いたという。

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 斉藤がその短編を原案にして曲を作った。それが「ベリーベリーストロング~アイネクライネ~」である。本書を読んでこの曲を聴けば(あるいはPVを見れば)、小説の世界がそのまま斉藤和義の歌として立ちのぼるのを体感できるだろう。これぞコラボ、である。

 アルバム『紅盤』に収録されたこの曲はのちにリカットシングル「君は僕のなにを好きになったんだろう/ベリーベリーストロング~アイネクライネ~」として発売された。そのCDには特別付録として、伊坂幸太郎の短編「アイネクライネ」とその続編「ライトヘビー」が封入されたのである。ちなみに「ライトヘビー」には、1回100円で斉藤和義の歌をパソコンで再生する〈斉藤さん〉が登場する。その後、その続編が一編また一編と発表され、1冊にまとまったのが『アイネクライネナハトムジーク』(幻冬舎)である。本書がかなり特殊な始まり方をしていることはご理解いただけたと思う。

 収録作はどれも小さなエピソードが積み重なるタイプの物語だ。決して派手な話ではない。「アイネクライネ」はサラリーマンがある偶然の出会いをする話だし、「ライトヘビー」は美容師が客から弟を紹介される話だ。「ドクメンタ」は妻に逃げられた男の話で、「ルックスライク」は父親に似ているのが嫌な男子高校生の話。「メイクアップ」は高校時代に自分をいじめたクラスメートに再会する話で、「ナハトムジーク」はボクシングのチャンピオンの回顧談──とまあ、ごくごく簡単にまとめればこうなる。これがしみじみと、いい、のである。人と人が出会うちょっとしたきっかけであったり、その出逢いがいろんなところに転がって別の人の人生にかかわるおもしろさや不思議さであったりが、伊坂幸太郎独特の筆致と構成力で紡がれる。その技術と味わいこそが読みどころで、それは隅々までみっちりとフル充填されている。期待していい。

 中に、登場人物のこんなセリフがある。モテモテの女友達が、変な男と結婚して二児の母になった。その友達に「彼の何を好きになったのか」と聞いたときの答だ。「うまく言えないけど、あの旦那とわたしと子供たちの組合わせがね、わたしは結構好きなんだよ」──このくだりを読んだとき、いいなあ、ステキだなあ、と思った。そんな組合わせがたくさん生まれれば、きっとこの世界はとても幸せなものになるだろうなあ、と。
 この物語は、実に伊坂らしいユーモアと、絶妙な言葉選びと、緻密な伏線の妙(「ここでこうつながるのか!」と何度も驚かせてくれる)で構成されている。読者はクスリと笑いつつ、時にビックリしつつ、次第に心が満たされていくことだろう。読者を幸せにする──それが伊坂幸太郎の小説なのだ。アイネ(ある)クライネ(小さな)ナハト(夜の)ムジーク(曲)というタイトルそのままに、静かな夜に一編ずつ読んで、幸せな気持ちで眠りにつける。そんな作品である。

文=大矢博子

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