恋愛小説としても、超極上! 西尾維新初心者、ミステリー入門者にもオススメしたい、「最初の1冊」

ダ・ヴィンチニュース / 2014年11月6日 12時10分

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『掟上今日子の備忘録』(西尾維新、VOFAN/講談社)

 伝奇ミステリーとキャラクター小説の面白さを融合させた、西尾維新の〈物語〉シリーズが全18巻で完結を迎えた。間髪入れずに開幕した新シリーズはなんと、探偵小説だ。

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 第1作のタイトルは、『掟上今日子の備忘録』。1話完結型の短編がゆるやかに繋がっていく本作は、本格ミステリーとして充実の完成度を誇る。

 密室状態の研究室から、実験データが入ったSDカードが消えた。いったい誰が、どこに隠したのか?

「お前の百万円は預かった。返してほしければ一億円用意しろ」。前代未聞の脅迫事件はなぜ起こったか?

 日本を代表するミステリー作家が、遊び心で新作原稿を隠した。宝探しのヒントは4つ。隠し場所はどこだ?

 トリックの質、ドラマの密度、解決に到るロジックの感触、サプライズの妙……。ミステリーならではの快感が、どの短編にもこれでもかと詰め込まれている。

 そのうえで、だ。

 本作には、超ド級の個性を持った名探偵が登場する、キャラクター小説としても抜群に面白い。その探偵の左腕には、黒色の太いマジックペンでこう書き込まれている。「私は掟上今日子。25歳。置手紙探偵事務所所長。白髪、眼鏡。記憶が一日ごとにリセットされる」。

 彼女はひとたび眠りに落ちれば、その日の記憶を無くす。そもそもの依頼内容も、関係者への聴取や推理の経過もすべて、きれいさっぱりと。そんな彼女が探偵業を営むためには、絶対条件がある。「どんな事件でも一日で解決する」。そう、「忘却探偵」の異名を持つ彼女は、「最速の探偵」でもある。

 かくして〈忘却探偵シリーズ〉は、西尾作品史上かつてないスピード感を手に入れることとなった。〈物語〉シリーズで全面展開されていた、文字の演出や言葉遊びの妙もごく控えめ。続々と謎が登場し、サクサクと事件が解決する。

 そのうえで、だ。

 この名探偵だからこそ可能となったテーマが、物語の後半でクローズアップされる。それは――「働くってなんだ?」。

 彼女は記憶喪失という過酷な運命にさらされていながらも、悲劇の気配をほとんど感じさせない。事件の依頼を引き受け、解決のために全力を尽くし、謝礼を得る。究極の巻き込まれ体質を持った常連依頼人にして助手役、隠館厄介もまた、「働くこと」に対して前向きだ。

 人はみな、ハンディキャップやコンプレックス、弱点を持っている。誰もが大なり小なり、十字架を背負っているのだ。それを無視することなどできやしない。だからといって、嘆いて暮らしていてもしょうがない。十字架を背負っている自覚を持ちながらも、そんな自分ができること、今日の自分ができることを、ちゃんとやること。つまり――。

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