小林薫「“ドラマ”って、みんなそれぞれ抱えている。大きなものも、 小さなものも、どっちが重いかということはないと思うんです」

ダ・ヴィンチニュース / 2014年11月9日 12時0分

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『三文役者あなあきい伝』(殿山泰司/筑摩書房)

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、3年ぶり、待望の新シリーズがスタートしたドラマ『深夜食堂 3』で、マスターを演じる小林薫さん。来年1月31日(土)には映画作品も公開。その製作の裏側と内側にある“ドラマ”とは――

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「“一度でいいから出たい”と言って、本当に出演した方がいますよ。レギュラーの方々は“必ず声掛けてくださいね”と。魅力っていうのかな、『深夜食堂』は役者にとっても、何か引きつけられるものがある作品なんでしょうね」

 役者だけではなく、監督もスタッフも。観る人たちが惹かれ、集まってくるように、作り手たちも集まってくる。端を発したのは、テレビドラマで一般的な“全あかり”と呼ばれる陰翳の出ない照明が、この作品にはそぐわないんじゃないかという小林さんのひと言だったという。

「1作目でお話をいただいた時、これだといわゆる存在感のないめしやになっちゃうんじゃないかと感じて。僕がもらしたその言葉を、言わなくてもいいのに、うちのスタッフがたまたま松岡監督と飲んだ時に話しちゃったんですよ。そこから話がころころと転がって、カメラマンも美術も照明も、映画界の、しかも重い腰をあまり上げないスタッフが集まってきて。深夜枠の30分ドラマなので予算も限られているのに、そのなかでみんなが楽しんで。このドラマは本当に偶然の産物というか、奇跡的というか」

 そんな裏の“ドラマ”は、きっと観る側へも知らず知らずのうちに浸透してきているに違いない。

「ドラマってそれぞれみんな抱えているもの。『深夜食堂』で語られるのは、エピソードにも近いちょっとした人の悲哀。けれど、たとえば殺人者だけに大きなドラマがあって、我々にドラマがないというのは間違いだと思うんですよ。どんな小さなことでも、抱えている本人にしてみたら、そこから抜け出せないことで苦悶している。それはどっちが重いとは言えないでしょう。そういう意味で、今回の新シリーズでも、そして1月に公開される映画でも“人間のドラマ”が描かれます」

 映画作品では四季を通した“めしや”、そして小林さん演じるマスターの私生活も描写されるという。

「私生活と言っても洗濯物干したり、八百屋に買い物に行ったりするだけ(笑)。ここで顔になっているのは背景の新宿なんです。そこが映画の妙で。僕を撮っているかのように見えて、小さな密集地、ぽーんと見上げると高層ビルという街の風景を。実は1作目の時に映画化のお話があったんですけど、もう少しこの深夜の安物テイストをしみじみとやりたかった。すぐに腰を上げちゃうと辛抱が足らない気がして(笑)」
“めしや”の世界観に観る人も馴染んだ今だからこそ、さらにじんわり響いてくる一作になりそうだ。

 小林薫さんが選んだ1冊は、『三文役者あなあきい伝(PART1、PART2)』(殿山泰司/筑摩書房)――「日本帝国の糞ったれ! あ、いけねえ、鉛筆が折れてしもうたがな……」イキで、ライブで、泣けて、あたたか。抱腹絶倒の精神がそのまま文章に。“三文役者”と自称していた名バイプレーヤーが語る半生。生まれ育った銀座、戦前・戦後の日本映画界、戦争、映画人との交流……人間の魅力が伝わりくる極上エッセイ。



取材・文=河村道子

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