全世界で800万部の大ヒットの北欧ミステリー『窓から逃げた100歳老人』ってどんな話?

ダ・ヴィンチニュース / 2014年12月4日 12時30分

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『窓から逃げた100歳老人』(ヨナス・ヨナソン:著、柳瀬尚紀:訳/西村書店)

 スティーグ・ラーソンの『ミレニアム』(早川書房)に、ヘニング・マンケルの「クルト・ヴァランダー」シリーズ(東京創元社)、そして60~70年代における警察小説の金字塔であるシューヴァル&ヴァールーの「マルティン・ベック」シリーズ(KADOKAWA)の新訳刊行と、ここ数年ブームを迎えている北欧ミステリー。

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 そんな中、今年最も可笑しな北欧小説として話題になったのがスウェーデンのヨナス・ヨナソン『窓から逃げた100歳老人』(柳瀬尚紀:訳/西村書店)だ。全世界で800万部突破、11月にはこれを原作にした映画『100歳の華麗なる冒険』も公開されている。

 100歳の誕生日を迎えたアラン・カールソンは、居住先の老人ホームの窓から飛び出した。ホームでは彼の100歳を祝うためのパーティが用意されていたというのに、突如アランは逃走したのだ。

 辿りついたバスターミナルで、アランは無作法な若者からスーツケースを持ち逃げし、バスで行けるところまで行ってみようと思い付く。スーツケースを奪われた若者は憤慨し、アランを捕まえようとする。実は若者は犯罪組織〈一獄一会〉のメンバーであり、スーツケースのなかには組織が取引で得た大金が詰まっていたのだ。アランは様々な人びとと出会いながら、行く先々で大騒動を巻き起こすことになる。
 
 のんびりとした装丁画とは裏腹に、アランの逃亡劇は突拍子もないユーモアと、ほんのちょっぴりバイオレンスを持って派手に展開していく。アランが会う人間はことごとく変人ばかりで、おまけに何故かゾウまで逃亡の仲間に加わってしまう。凶悪な犯罪組織が次々とアランを襲うものの、ある者は冷蔵庫に閉じ込められてカチンコチンに凍ってしまうなど、有り得ないほど悲惨な目に。思わず不謹慎な笑いが吹き出してしまう、スクリューボール・コメディ調の犯罪小説として楽しませてくれる。

 だが、本書の魅力はそれだけではない。逃亡劇と並行してアランの100年に渡る生涯の記録が綴られるのだが、これがまた虚実を大胆に織り交ぜた、とてつもなくスケールの大きい歴史改変小説になっているのだ。

 1905年に生まれたアランは満足な教育を受けずに育ったが、ひとつだけ優れた才能を身につけていた。それはダイナマイトを自在に爆発させる技能である。24歳のときに旅立った内戦真っ只中のスペインで、アランはこの能力を買われることになる。そこからアランと、20世紀の大事件や偉人たちの意外な関係が明かされる物語が始まるのだ。

 フランコ将軍、トルーマン、スターリンと、歴史に名を残すビックネームが次々と登場し、アランの運命は世にも不可思議な道を辿る。この有名人たちのつながり方もまた笑いを誘うのだが、なかには辛辣なブラックユーモアを備えた社会風刺的な描写も感じられるのが、現代パートと異なる読みどころだ。作者ヨナソンは爆破することしか芸のない平凡な男の人生を描きつつ、暴力に彩られた20世紀という歴史の姿を記そうとするのである。

 笑いながら世界史にも思いを馳せる奇妙奇天烈な小説、どうか読み落としなきよう。

文=若林 踏

ダ・ヴィンチニュース

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