絵画版サブリミナル“図像術”を18歳の天才少女が読み解く『異人館画廊』第3弾

ダ・ヴィンチニュース / 2015年9月5日 17時30分

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『異人館画廊 幻想庭園と罠のある風景』(谷瑞恵:著、詩縞つぐこ:イラスト/集英社)

 サブリミナル効果。この本を読んでふとこの言葉を思い出した。潜在意識に何らかの刺激を与えると何かしら意識を誘導させる効果があるらしい、といわれて、日本のテレビ界では禁止されている映像手法だ。

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 この本の核をなす「図像術」はまさにサブリミナルの絵画版だ。それも効果は劇的! 西洋絵画の歴史のなかで生まれ、発達したが、悪魔的な魔術としてその技を用いて描かれた絵の多くは焼かれ、今では技術も知識も失われた、という。本当にそのような技術があるのかどうかわからないが、「魂の深いところに作用して、人を操る絵画」なんて、怖いけれどすごく魅力的だ。そして主人公の「此花千景」は、18歳ながらイギリスで西洋美術史の学位を取った天才図像学者であり、この呪われた「図像術」を読み解くことができるという天賦の才を持つ「選ばれし者」。しかし誘拐事件の被害者という過去が、彼女に暗い影を落として…。想像力をかき立てる伏線が張り巡らされている感じで、ついわくわくしてしまう。

 本書『異人館画廊 幻想庭園と罠のある風景』(谷瑞恵:著、詩縞つぐこ:イラスト/集英社)は、そんな「異人館画廊」シリーズの第3弾。毎回実在する画家が取り上げられるが、今回の「謎」の鍵を握るのは「ブリューゲル」だ。16世紀のフランドル絵画を代表する人物で「農民画家」とも呼ばれている。確かに農村ののどかな景色を描いたものもあるけれど、魔物がうごめく絵画も多い。500年も昔の人なので、現存する作品は多くはないし、本人の作品といわれていたものが弟子や子供による模写だったりと、その全貌は五里霧中、生涯も謎に満ちている。「図像術」を自在に操り、呪われた絵画を残した、といわれても、不思議ではない人物だ。

 事件はこのブリューゲルによる「図像術絵画」が、日本にあるらしいという情報が、此花千景のもとにもたらされたことから始まる。その真偽を確かめるべく、彼女は幼なじみの若き画廊経営者・西ノ宮透磨と、瀬戸内海の離島で人を避け隠遁者のように暮らす、ブリューゲルの世界的コレクター・波田野靖史のもとを訪れる。波田野の謎掛けを見事看破した千景は、波田野が精魂傾けてつくらせた「ブリューゲルの庭園」を見せられる。そして「この庭は未完成だ。欠けているピースを見つけてくれたら、お望みの絵を見せる」と言われ――。

 波田野とその息子の確執、千景を忌み嫌う父が仕掛けた罠、謎のドラッグパーティのうわさ、行方不明の島の女性、千景の祖父の偽作問題など、一見何の関係もなく見えた問題が、実はすべて「庭園の謎」というジグソーパズルのピースであり、それが正しい場所にはめこまれたとき、すべては別の意味を持ち、事件はまったく違う容貌を見せ始める。果たして本当に「人を操る呪われた絵画」は存在するのだろうか?

 それぞれのエピソードはおどろおどろしいけれど、話のテンポがいいのでページをめくる手は止まらない。千景と透磨の、ちょっと少女マンガチックな展開や、ふたりを取り巻くユニークすぎる人々など、謎解き以外の楽しみも満載だ。そして忘れてならないのが、次から次へ登場する、ブリューゲルの代表作たち。解説もわかりやすく、ちょっとした「ブリューゲル入門」としても楽しめる。画集を片手に謎解きすれば、いっそう話が深みを増し、おもしろくなること請け合いだ。

文=yuyakana

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