値上げで異変の「スシロー」親会社、海外・中国シフトでめざす成長戦略とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年1月7日 20時59分
2月18日、スシローグローバルホールディングスと日本政策投資銀行は、次世代の「食」に関連した産業の構築と育成を図るための業務協力協定を締結したと発表した。埼玉県で2016年撮影(2019年 ロイター/Issei Kato)
回転寿司店「スシロー」などを展開するFOOD&LIFE COMPANIESが海外出店を加速する。2024年9月期から開始する3カ年の中期経営計画では海外事業の強化が最大の柱だ。中計最終年度(26年9月期)には海外店舗を23年9月期の3倍となる400店舗以上に増やす。売上高に相当する売上収益の7割を占める国内スシロー事業が今後の人口減や競争激化を受けて伸びしろが限られるなか、海外シフトを鮮明にする。
国内スシロー既存苦戦も 海外好調で営業利益は計画通り
「スシロー」などを展開するFOOD&LIFE COMPANIESの23年9月期連結業績は、売上収益3017億円(前期比7.3%増)、営業利益110億円(同8.7%増)と増収増益だった。売上収益は計画値の3200億円に及ばなかったが、営業利益は計画値の110億円に達した。
連結売上収益の約7割を占める主力の国内スシロー事業は、売上収益2059億円(同5.5%減)、営業利益110億円(同18.6%減)と減収減益で苦戦した。円安や水産資源の減少による食材調達コストの上昇、物流費・地代・資材費の高騰が響いた。コスト増を吸収するため、22年10月に実施した値上げでは、客単価は上昇したものの客離れを起こしその後、既存店売上が低迷した。23年9月期の既存店売上高は、上期が15.2%減、下期が1%減で通期で8.4%減であった。
23年1月には、来店客による迷惑動画がSNS(交流サイト)で拡散された。これを受け回転レーンに商品を流すサービスを2月に中止。23年9月には、選ぶ楽しさをデジタルで再現し来店を促そうと、店舗にデジタルモニターを設置し回転レーンを表示する「デジタルスシロービジョン」(通称デジロー)を3店舗で試験導入している。
一方、連結売上収益の2割を占める海外スシロー事業は、香港・台湾・タイが牽引し、売上収益661億円(同72.7%増)、営業利益73億円(同116.5%増)と大幅な増収増益だった。積極出店を続け、中国大陸は成都、武漢をはじめ各地に25店舗を出店したほか、他地域・国も台湾8店舗、香港8店舗、タイ6店舗、シンガポール1店舗と出店し、店舗数は47店舗増加した。23年8月に開始された東京電力福島第1原子力発電所の処理水放出の影響で23年9月は中国大陸を中心に客数が落ち込んだが、「影響は一時的で回復していくと期待している」(同社水留浩一社長)という。
24年9月期の連結業績は、売上収益3500億円(23年9月期比 16.0%増)、営業利益115億円 (同4.5%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益65億円 (同17.7%減)を見込む。国内スシロー事業は売上収益2196億円(同6.7%増)、営業利益130億円(17.1%増)、海外事業は売上収益1000億円(同51.3%増)、営業利益95億円(同30.1%増)という計画だ。
怒涛の海外出店で、26年3月期の海外営業利益は国内越えへ
人口減などを背景に国内スシロー事業の売上成長は限られるなか、今後の成長の柱となるのが海外事業だ。同社は11年韓国に進出したのを皮切りに、18年台湾、19年シンガポールと香港、21年に中国本土に進出した。23年9月期末で135店舗(韓国9、台湾38、香港28、シンガポール9、タイ17、中国大陸34)を展開する。
新中計では、この135店舗を26年9月期末403〜416店舗と3倍以上に増やす。ポテンシャルの高いエリアを選定して出店する考えだ、最も出店数を増やすのが中国大陸だ。23年9月期末34店舗の6倍近い201〜203店舗に増やす。海外全体の400店舗強のうち5割を占めるのが中国大陸だ。
中国大陸は投資する地域を見極めながら店舗を拡大する。貿易規制対策で現地調達・加工の商材を増やすほか、すでに進出しているエリアでは複数ブランドを展開するという。処理水放出に対する中国の反発は一時的との見方は変えず出店を継続する。
既存の進出国・地域での出店だけでなく、新たにインドネシア、米国への出店にも乗り出す。東南アジア最大の経済規模を有するインドネシアは初のハラル圏への出店となる。インドネシア独自のハラル基準に則った商品開発と自社調達力で、おいしさと信頼感の両立を実現していくという。米国については、外食市場の成長が見込まれ、高級日本食ブームが続くなかで、中所得層をターゲットに寿司レストランビジネスを展開する。すでに市場調査を目的に23年6月に米国子会社を設立している。さらには、欧州やハラル圏への拡大も見据える。グループ内の全ブランドの海外展開する準備も開始する。
新中計最終年度の26年9月期は売上収益5200億円、営業利益350億円を見込む。売上収益は23年9月期の72%増、営業利益は3.2倍となる。このうちスシロー、京樽などの国内事業の計画は売上収益2950億円(23年9月期比25%増)、営業利益110億円(同91%増)だ。国内は979店舗を1046〜1063店舗に増やす計画で、増店数は3年で70〜80店舗にとどまる。新中計3カ年に計画する総投資額905億円のうち国内は395億円を振り向ける。店舗の統廃合を進めるほか、新店から既存店への投資にシフトするとしている。
これに対し海外事業は26年9月期に売上収益2250億円、営業利益280億円をめざす。売上収益は23年9月期の3.4倍、営業利益は3.8倍を計画する。海外事業は売上収益の4割を稼ぎ、営業利益では国内を上回ることになる。さらに、「売上収益1兆円に達したときに海外比率は60%になる」(水留浩一社長)見通しだ。国内での成長が頭打ちに近づくなか、海外事業の成否が同社の成長を左右することになりそうだ。
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