百貨店の好調続く、M&A増えるも再建型は消滅へ 「2024年アパレル業界大予想」
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年1月15日 20時55分
2024年は、元旦から能登半島地震、2日はJAL機炎上と辛い事件が続いた。一方、そうした事件をあざ笑うかのように株価は4日連続(本稿執筆は1月12日)で最高値を更新し、バブル期に迫る勢いだという。明暗入り交じる状況の中、アパレル業界の状況はといえば、百貨店の売上がインバウンドを背景に好調を続け、それに伴い百貨店アパレルも好決算を迎えた。こうした中、2024年のアパレル業界はどうなってゆくのだろうか。24年度の産業界の予想をしてみたい。
広がるM&Aも
再生型案件激減の理由
本連載で何度も紹介した中国シーイン、韓国Dholicなど、激安アパレルがZ世代をしっかり握り、次世代のセンターポジションを狙ってきた。報道によれば昨年末、シーインは米国で上場申請をしており、早ければ24年の今年、シーインの巨大上場を目の当たりにすることができるだろう。
次に日本のアパレルはどうだろう。日本の中価格帯アパレルは、ファーストリテイリングを除き、日本人と一緒に老齢化している。つまり高齢者相手の商売を続けているわけだが、100億円程度のブランドがごまんと乱立する現在のアパレル市場の整理整頓が進むことになるだろう。具体的には、ファンドや中国資本によるM&A(合併・買収)だ。23年は、象徴的な事件としてマッシュスタイルホールディングスをベインキャピタルが2000億円という破格の値段で買収したが、このような動きは活発化することだろう。
実際、私は昨日、某ファンドに呼ばれアパレル産業の話をしてきたが、彼らは「アパレルの案件が増えてきています」といっていた。M&Aは固い守秘の扉に守られ、決して表に出ないが、私たちのような職業は、あちこちで「買う」「売る」の話に翻弄されている。今年のM&Aの特徴は、「ターンアラウンド(事業再生)が少ない」というものだ。これは、過去の統計をみればわかるのだが、結局M&Aで成功するのはそもそも成長する種をもっている企業であり、その使命を終えた衰退企業を立て直すターンアラウンドはほとんどなくなってきているし、ファンドも避けるようになってきた、ということなのである。
また、異業種のM&Aも増える。アパレルが飲食業やコスメ企業を買うなどの異業種統合、また、小売がアパレルを買う、アパレルが商社を買うなど垂直統合も進むだろう。産業末期にはさらなるダブルコストを下げるため、垂直統合が増えるからだ。このように、先進的アパレルは社長室にM&Aの専門家を招聘しM&Aを強化しようとしている。この3年でアパレル企業はまったく異なるビジネスモデルをひっさげる形になるかもしれないが、その最初の年が今年というわけだ。
さらに増える中国人インバウンド客に依存
そしてデジタル騒動の末路
1ドル150円という円安により、外国人にとって「お買い物天国」と化した日本。だが本格的な「爆買い」は、中国人インバウンド客が本格的に復活してからだ。今、中国はフクシマの汚水問題や自国の消費を拡大する国潮ブームにより日本と距離を置いている。つまり今の百貨店の好況は、中国人の「爆買い」に頼ったものではないということなのだ。したがって、中国人観光客の第2波を産業界は期待しており、彼らこそ今から日本のアパレル産業に「神風」を吹かす消費者なのだ。これは、もう少し日中関係を見ておかないとどうなるかはわからない。
数年前から各社が強化してきた「デジタル」だが、一周回って痛い目にあってようやくアパレル各社もデジタルの恐ろしさを学んだことだと思う。デジタル導入で絶対にやってはならないのは「値切り」だ。デジタル導入費用の仕組みを解説すると、Sier (デジタルを導入する人)の単価と人数でデジタル導入費用が決まる。産業界は、我々コンサルやデジタル企業のフィーをいい加減な計算に基づくものだとか、人件費相当だとか勘違いをしていることが多いのだが、これがあやまりだ。例えば、5000万円のフィーがかかった場合、一人 100万円のSIerが50人必要になるわけだが、これを4000万円に「値切る」とどうなるか。10人分の人間がいなくなり、40人で50人分の仕事をしなければならなくなるか、一人単価200万円などのプロジェクトマネージャーができる高額な人間を100万円程度の人員に替えるなどして品質が一気に悪化するのだ。それでも、これまでは50人で働き、社内数字を調整して工数インプットすることでごまかしてきたのだが、それも最近は一切できなくなっている。
そもそも、デジタル・トランスフォーメーション(DX)というのは、「業務コンサル」と「デジタル導入」が一緒になったものだ。そのバランスはプロジェクトの性質によるが、例えばパッケージ導入になると「コンサル」の役割が非常に重要になる。なぜなら、パッケージというのは様々な企業に導入されてできあがった最大公約数的業務プロセスが前提になっており、個別の企業は独自のやり方をしており、そのままではパッケージに入らないからだ。したがって、何が正しいのか、どうすればよいのか、ということをしっかり考えた上でBPR (Business Process Re-engineering: 業務改革の意味)を最高効率で行えるスキルが必要になるのだ。
これを「デジタルとは関係ない」とうそぶき、コストを下げて省略すると悪夢のような底なし沼に入ってゆく。ベンダーは常に弱い立場だから、クライアントから強く言われれば聞かざるを得ない。そうして、一回のカスタマイズ(パッケージのパラメータを超えたシステム改修)を行えば、「あれも、これも必要」となり、最後にはシステムが思ったように動かない、ということになるのだ。こうならないためには、デジタルのカバー範囲をよく理解し、できることとできないことをしっかり理解しながら、業務に対する深い知識を持つコンサルはリード役に徹することが必要となる。
23年は、実際に痛い目にあった会社が慎重になってデジタル導入を進めてゆくことになるだろう。
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百貨店好調もファッションビルアパレルは体力勝負へ
業態別2024年の動向
それでは、業態別に24年の予想をしてみよう。まず、中国人インバウンド客がさらに増えることにより百貨店は相変わらず好調を維持し、したがって、百貨店アパレルもその恩恵にあずかるだろう。ただし、日中関係がこじれたり、台湾有事、フクシマ汚水問題などはマイナス要因だ。
次にセレクトショップは、円安によりインポートの価格が高騰。二極化が進む消費市場のアッパー層を狙った商品展開をするため価格を上げ、より上質感を出すことも考えられる。その他、ファッションビルSPAアパレルはオペレーションと体力勝負となり、わずかなコストダウン、利益拡大を巡って血のにじむ努力が続き、優勝劣敗がハッキリすることになるだろう。
体力がなく業績が悪いアパレルはM&Aのえじきとなり大きな企業に吸収されることになるだろう。その他、ローワーエンドを受け持つマス・アパレルは頭角を現すだろう。だが、ここではシーインや韓国企業とのガチンコ勝負が待っている。このセグメントはもっともボリュームが大きいため、SDGsトレンドの広がりにより中価格帯の価格が上がることが予想されるため、価格上昇を敬遠する中間層が中価格帯からローエンドに降りてくることも考えられ、意外にも好調になるかもしれない。
商社は、財閥系は繊維・アパレル事業から撤退。伊藤忠、丸紅を加えた専門商社同士の戦いとなるが、上記のような「儲かる客」を選別してOEMを強化するだろう。優良顧客の囲い込みに敗れた商社はOEM以外の方向に道を見つけるか、違う事業を打ち出すが、なかなかうまく軌道にのらないのは今までと変わらない。
最後に、ファーストリテイリングだが、相変わらずの強さはますます磨きがかかり、過去最高売上、最高益を更新し、「世界ナンバーワン」の射程距離が見えてくるだろう。同社の強さは経営環境、プロダクト、人材などすべてにおいて隙が無く、また、時代の変化に沿っているからだ。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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