シニア女性に絶大のカーブス 安定の“物販収入”依拠と躍進チョコザップの影響とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年1月31日 20時59分
まさに堅調。女性専用フィットネス「カーブス」を展開するカーブスホールディングスがさきごろ発表した2024年8月期第1四半期決算は、売上高75億円(対前年同期比8.8%増)、営業利益10億円(同63.9%増)と大幅増収増益となった。会員数は80.9万人となり23年8月期末比で3.2万人純増となった。店舗数も1971店舗となった。激戦のフィットネス業界で安定した強みを際立たせている。
なお昨年10月に発表した23年8月期通期決算は、売上高300億円(前年比9.1%増)、営業利益38億円(同40.4%増)でコロナ前を超え、過去最高としていた。
強みが隠されたチェーン売上
コロナ禍、多くが苦戦を強いられる中、大崩れせず、手堅く歩を進めてきたカーブスホールディングス。その強さを示す数字が、「チェーン売上」だ。これは、フランチャイズ店を含めた末端売上、全店の会費・入会金売上および会員向け物販売上の合計額を示す。
23年8月期は通期で713億円はコロナ前を超え過去最高、直近の24年8月期第1四半期は189億円で、対前年同期比11.1%増となった。実はこの数字の中に、コロナ禍でも堅調だった同社の秘密が隠されている。
どういうことか。カーブスホールディングスの売上構成比で多くを占めるのは会員向け物販で、実に56.8%(24年8月期第1四半期)となっている。次いでロイヤルティ収入、直営事業と続く。つまり、同社はジムに多くの会員が通うこと以上に、その後、同社のプロテインなどの物販収入が大きな収益源となっているのだ。ジム通いに制約が出たコロナ禍でも大きなブレがなかったのは、そうしたことも一因といえる。なお、これはジムの会費は一部直営を除けば、フランチャイズオーナーのもとに入りその一部がロイヤルティ収入のかたちでカーブスホールディングスの売上として計上される一方、ジム会員に販売した物販の売上はカーブスホールディングスの売上として計上され販売手数料をFC店に支払うためだ。
際立つターゲット設定と運営の巧みさ
こうした同社の売上構成を支えるのが、ターゲット設定と運営の巧みさだ。女性専用のカーブスのターゲットは主に60歳以上のシニア。だからこそあえて、ハードなトレーニングではなく、負荷の少ないマシンによる30分限定のサーキットトレーニングを提供。さらに必ず指導員が常駐するスタイルをとることで継続性をサポートしている。
女性専用で通いやすく、負担なく続けられるメニューで続けやすく、指導員がいるから安心でき、近所にあるために知り合いもいて気軽に行けるーー。もうこれだけで、大崩れしない理由の説明はつくだろう。さらにプロテインを購入し、会員同士でその効果や感想を情報共有しやすい環境も揃っており、全てが理にかなっている。
その意味では同社はジムではあるものの、実質的にはシニア女性の活き活きをサポートする憩いの場といえるだろう。早い段階から高齢化時代を見越した緻密で巧みな戦略が、うまくはまった結果が今なのだ。
猛烈に迫る「chocoZAP」は脅威か
とはいえ、足元では、ライザップの「chocoZAP(チョコザップ)」が急激な勢いで迫ってきている。2022年7月の一号店オープンからわずか1年強で1000店舗を突破、会員数はすでに100万人を超え、なんとカーブスを抜き去っている。この勢いは脅威というほかないだろう。
もっとも、無人で、それなりに負荷が必要なマシンが設置され、格安で24時間利用できるchocoZAPとカーブスは、コンビニと百貨店くらいに完全に棲み分けられており、大きな影響はないと見るのが正しいだろう。実際chocoZAPの利用年齢層はカーブスよりも若い。
安泰を阻害するいくつかのリスク要因
だからといって、この先カーブスが安泰かは不透明だ。なにせchocoZAPの価格競争力は破壊的であり、それと比べるとカーブスの施設はコスパ的に劣るとみる人もいるだろう。その分、専任スタッフが常駐しているものの、ある程度、体力がついてくれば、会員がchocoZAPへ”移籍”するリスクもゼロではない。
chocoZAPは26年までに2000店舗を目指し、引き続き店舗拡大を加速しており、エリア的にはカーブスの”縄張り”を確実に侵食する。それに伴い、chocoZAPが無人のデメリットを解消する施策を打ち出せば、カーブスとて会員を引き留め続けることは困難になるかもしれない。
現状は拡大を優先し、最低限のサービスに抑えることで、値段の安さにフォーカスしているchocoZAP。これは逆に、伸び代がいくらでもあるということでもある。それこそが本当の脅威だと捉えれば、カーブスは今後、かなり強力な会員引き留め策を打ち続ける必要がある。
さらなる成長へマストとなる多店舗化
カーブスホールディングスが課題としているのは、50代の「ヤング層」の獲得。この層はトレーニングに求める強度が「ハード」か「ソフト」かの分岐点ともいえ、中途半端な施策では取り逃がしかねない。この点についてカーブスホールディングスは会員向け物販商品の磨き上げやマーケティング施策の強化などを挙げているが、料金に敏感な世代でもある。したがって、価格も包含したかなり踏み込んだ施策を打つことができれば大きな効果を得られることだろう。
そうしたことも見越してか、同社はメンズ・カーブスなど新業態を創造し、ターゲットを拡大。多店舗化へ向けたビジネスモデルの構築も打ち出しており、さらなる成長に余念はない。
高齢化と健康志向の高まりで活気付くフィットネス業界。まだ伸びしろもある激戦区の中で、独自のポジションを構築する米国発のソフト系ジムがこの先、どんな進化を遂げながら、シニア会員のモチベーションを維持し続け、さらなるすそ野の拡大を進めていくのか、大いに注目だ。
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