講談社「ボンボンTV」、その華麗なる「復活劇」の軌跡:漫画編集者はなぜ ユーチューバー を志したのか?

DIGIDAY[日本版] / 2018年6月11日 8時50分

デジタル化が、ブランドの復活劇に、大いなる後押しを加えた。

講談社がマルチチャンネルネットワーク企業UUUM(ウーム)と共同運営している「ボンボンTV」。2018年1月に、開局2年6カ月にしてチャンネル登録数が100万人を超えた(2018年5月現在、登録数は127万人)。この巨大YouTubeチャンネルは、すでに総動画再生数も16億回を突破している。

ボンボンTVのターゲットは、中高生、および小学生を含むファミリー。よっち、りっちゃん、えっちゃん、なっちゃん、いっちー、なる という6人のメンバーが、実験や工作をはじめとした「やってみた動画」などを毎日5本以上配信している。YouTubeクリエイターを独自にランキングしているサイト「Wiztracker」によると、ボンボンTVは国内15位にランクイン。同ランキングの上位を見れば、はじめしゃちょーやフィッシャーズ、HIKAKINなど、いまや誰でも知っているカリスマユーチューバーばかりが名を連ねている。

ある一定以上の年齢の男性なら、講談社の「ボンボン」といえば、「コミックボンボン」のことを思い浮かべるだろう。80年代に『プラモ狂四郎』でガンプラブームを巻き起こし、以後も『SDガンダム外伝』『王ドロボウJING』『メダロット』『サイボーグクロちゃん』などの話題作を多く輩出していた人気月刊コミック誌だ。ところが、同誌は2007年、業績の悪化を理由に撤退。その8年後の2015年、名前を少し改め、ボンボンTVというYouTubeチャンネルとして復活を遂げた。現在では、このボンボンTVをモチーフにしたマンガ書籍、イベント、工作キットなども次々とヒット。いまやYouTubeを見ている小中学生のあいだで、「ボンボンTV」の名を知らぬものはいない。

コロコロのライバルを

この復活劇をゼロから描き起こし、指揮してきたのが講談社 第三事業局 動画事業チーム編集長の安永尚人氏だ。同氏は、入社以来20年ものあいだ「週刊ヤングマガジン」の編集者を経験してきた。『彼岸島』『COPPELION』『AKIRA』『3×3 EYES』『攻殻機動隊』などのヒット作品も担当し、「月刊ヤングマガジン」も創刊。アメリカでKodanshaUSA新設に携わったり、BeeTV(現:dTV)配信のムービーコミック「Beeマンガ」という新ジャンルの立ち上げにも尽力した。またグラビア担当でミスマガジンなどに関わり、自動車業界においても日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員を10年以上務めている。さらに紙媒体だけでなく、2014年には同誌の電子版「ヤングマガジン海賊版(現:e-ヤングマガジン)」もローンチさせた。

「そろそろ、次のことをやりたいと思っていた時期だった」と安永氏は、ボンボンTVを企画したキッカケを振り返る。そのころちょうど、子どもにせがまれて、小学館の「月刊コロコロコミック」に登場するキャラクターのグッズを手に入れるため、行列に長時間並んだことがあったという。「そのとき『これが自社のマンガ雑誌の作品であれば……』と、ふと思った。それと同時に、講談社には小学生向けの定期刊行物がひとつもないことにも考えが及んだ」。

そこで、コロコロのライバルとなる小学生向けメディアを構想した安永氏は、まず想定スポンサーとなる玩具企業などをめぐり、ニーズを探る。結果、どこも新しいコミック誌を望んでいることがわかった。小学生をターゲットとしたコミック誌は、コロコロ以外になく、他の選択肢があれば嬉しいという話だった。

「ボンボンTV」イタリア編のために、バチカン出張した際の安永氏

「ボンボンTV」イタリア編のために、バチカン出張した際の安永氏

「『おはスタ』に負けた」

想定スポンサーたちは、他の選択肢が欲しいといっている。だが、ボンボンはコロコロに押されて、撤退した身だ。そのままの形で復活を遂げていいものか。そこで安永氏は、当時コミックボンボンに関わっていた社員にも、意見を聞いて回った。そうしたら、彼らは『コロコロに負けたのではない』と、答えたという。

「では、何に負けたのかと聞くと、『おはスタ』に負けた、と答えた」。

おはスタは、テレビ東京系列で平日の早朝に放映されている、子供向けバラエティ番組。小学館は、おはスタに企画・制作から提供まで、深く関わっている。そのため、コロコロで紹介したゲームやグッズは、おはスタでも紹介されて、爆発的に売れるのだ。ボンボンには、そんなエコサイクルが構築できなかった。そこが大きな敗因なのだという。

「だから漫画誌を作るよりも、おはスタをつくるほうが先だと思った。ただ、いまの子どもたちは、テレビよりYouTubeを見ている。それなら、YouTubeでやろうと思った」。

パートナーと役員たち

そこで、安永氏はつてを頼り、UUUMを訪ねる。代表取締役の鎌田和樹氏に、協業を直談判しにでかけたのだ。

「驚いたのは、話しはじめてものの数分で、鎌田さんが『一緒にやりましょう』といってくれたこと。そのときに具体的な企画の話も何もしていなかった。その後、2カ月ほどで『ボンボンTV』が立ち上がり、これがネットのスピード感か、と驚いた。コミックの世界では意中の漫画家を口説くのに数年かかることもある」。

「ボンボン」というブランドを、コミックではなく動画で復活させることに、自身もそして社内も抵抗はなかった。講談社の役員は、むしろ後押ししてくれたという。

「役員は高い目線から見ているから、変わらなければという危機感がむしろ強い。だから、『チャレンジしろ』といってくれた。(出版社としての)課題は山積されているが、それはチャンスだ、という考え方だ。自分自身、ボンボンは漫画でなければならないとは思っていない。『マガジン』が講談社のひとつのブランドであるように、『ボンボン』は小学生向けのコンテンツを提供するためのブランドだ。そういう意味では、むしろわかりやすいと思った」。

「おっさんはダメだ」

ボンボンTVの開局は、2015年7月31日。社内外の後押しを得て、ローンチしたのは良かったが、当初は暗中模索の状態だった。現在は削除になっているが、ローンチ当初1年目までは、安永氏自身もユーチューバーとして、ボンボンTVに動画を投稿していたという。そのころは、動画1本の視聴回数は数百、ハネても数千というレベルだった。

「当時はマックスむらいさんとHIKAKINさんの時代。むらいさんの年齢(2015年当時は33歳)で子どもたちが支持してくれるなら、おっさんの自分にも可能性があるかなと思った。それで、ユーチューバーをやってみたというのが正直なところだ」と、安永氏は当時を振り返る。「そのときは、自分でUFOキャッチャーやミニカーで遊んでいる動画を作った。だが、結局、おっさんはダメだということがわかった」。

「身をもって証明したが、おじさんの感性が入れば入るほど、(視聴回数は)落ちる」。

しかし、この自分でもやってみた経験は大きかった。当時、子ども向けのこういった動画はなかったからだ。そうした努力が実を結び、2016年3月7日に公開した動画「【実験】ペットボトル丸ごとグミにしてみた!」が、初の100万再生を記録する。

ユーチューバーという才能

レギュラーメンバーのよっちとえっちゃんが登場するこの動画。2018年5月現在、再生回数は1000万を超えている。動画に寄せられた3000件以上のコメントを見ても、「この動画がボンボンTVと出会ったきっかけ」「この動画でボンボンTV見る人続出」といった内容が多い。社員クリエイターのふたりが生み出したこの反応を見て、安永氏は思い知る。

「(自分に)ペットボトルをまるごとグミにして、という発想はない。いままで何をやってたんだろう、と目からウロコだった(笑)」

このグミ動画が公開された2016年3月に、ボンボンTV全体の月間再生回数がはじめて2000万回を突破する。同年2月の同数字は、500万回程度だったのが、一気に4倍伸びた計算だ。開局からわずか9カ月で達成したこの記録は、当時のUUUM史上最短のものだという。以降、ボンボンTVにはずみがついた。

その後、口コミで広まり、開局2年目で黒字化も達成した。チャンネル登録数もすでに127万を越えている。企業とのタイアップ動画は、現時点で90本以上を制作。講談社の関連アニメのPVも流しており、シナジー効果も生まれはじめた。「この黒字化へのスピード感もデジタルならではと感じた」と、安永氏は語る。

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ボンボンTVの媒体資料からの抜粋

「育てる気持ちはない」

開局当初は、はじめしゃちょーやフィッシャーズなど、すでに名前が売れているUUUMのクリエイターをゲストに呼び、メディアの成長を頼っていた。だが、その後、いっちー、なる といったオリジナルメンバーだけでも数字を稼げるようになる。また、UUUMの社員クリエイターとしてボンボンTVに登場していたえっちゃんは、2018年5月よりUUUM専属クリエイターとして活躍するようになった。

「どのようにクリエイターを育てたのか、という質問をよく受ける。だが、育てる気持ちはない。なぜなら自ら育つから」と、安永氏はクリエイターとの接し方について説明する。「面白い動画を作るのが最優先。なので、育てるというのはおこがましい。彼らが企画して、出演し、撮影・編集もしている。我々ができることは、彼らが自由に動画を制作できる環境を提供することぐらいだ」。

そうした想いの背景には、危機感もあるという。毎回最適化していかないと、あっという間に手法やセンスが古くなってしまうからだ。だから、きちんと動画は見てはいるが、極力口は出さない。

漫画編集者の距離感

「中心にいるクリエイターたちが頑張ることが大事だと認識している。このプロセスは漫画編集者と漫画家の距離感と、とても似ている。だからこそタイアップ動画でも、身をもって感じた『クリエイターに任せる』ことを大事にしている」。

先述のグミを固めるという企画を、安永氏は例に挙げる。あれをおじさんが面白がってやれるかというと、そうではない。グミを固めるだけでも4~5時間かかり、おじさんだと途中でばかばかしくなるからだ。

「社員が就業中にそんなことしていたら、何やってるんだという気持ちに苛まれるはずだ」と、安永氏は続ける。「しかも、それが面白いという確信もまったくない。でも、まだ20代前半の若者たちなら、これが子どもたちには面白いんだという感性が残っている。そこはクライアントにもわかってもらえたらと思う」。

「そのときの最適解」

コロコロとおはスタの関係を参考に、デジタル動画と出版という新しいエコサイクルを目指したボンボンTV。事業としての黒字化も果たし、関連イベントやグッズも人気だ。いまや「キッズボンボンTV」という兄弟チャンネル(登録者数16万人[2018年5月現在])も誕生し、未就学児までリーチを広げている。この状況を見れば、十分に成功していると表現してもいいだろう。だが、安永氏は簡単に肯定しない。

「我々もわからず手探りでやっていることもあり、成功している実感はあまりない。何を持ってしたら成功なのか……。難しいのはマーケットのスピードが速すぎて、今年の最適解が来年の最適解ではない、ということだ」。

成功の定義は毎月変わり、クリエイターの人気もダイレクトに数字で視聴者に見えてしまう。だから環境を整え、クリエイターととことん向き合っていく。これは出版社として編集者がやってきたことにほかならない。安永氏は最後に、好きな小説家のひとりであるという志賀直哉の短編小説『宿かりの死』を引き合いに出した。

「『宿かりの死』では、主人公の自信満々なやどかりが、次々と大きな貝を求めてく。貝の大きさに合わせて、自身のカラダも大きくなっていくのだが、最後には大きな法螺貝に最適化されるという話だ。それと同じように、成長を止めないことが大事。クリエイターへの尊重を変えずに、そのときそのときの最適解を求めていく」。

Written by 矢野貴久子、長田真
Image courtesy of ボンボンTV

 

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