食料品店の「救世主」、インスタカートのめざす未来:Amazonに対する防衛策

DIGIDAY[日本版] / 2018年12月11日 8時50分

Amazon全盛時代のいま、食料品小売業界ではデジタル化に向けた競争が激しくなっている。そんななか、自社を業界の味方と位置づけて活動しているのが、食料品デリバリーのインスタカート(Instacart)だ。

インスタカートは、全米1万5000カ所にある300の食料品店と提携している。そして、彼らの実店舗の在庫をeコマースサイトで販売したり、1時間以内配送や即日配送、カーブサイドピックアップといったサービスを提供したりしている。つまり、各小売チェーンが自前ではできないことを、まとめて代行しているのだ。Amazonが大手スーパーのホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)や短時間配送サービスの「Amazon Prime Now(プライムナウ)」を利用して食料品小売業界に進出するなか、インスタカートに頼ることは小売チェーンにとって、いますぐ実施できる最高の戦略なのだ。

「ごく簡単にいえば、食料品店は勝負に勝ちたいと思っている。Amazonのような競争相手が進出する業界で、勝利を収めたいと思っているのだ。彼らは、インスタカートと提携することで最新のテクノロジーを利用できるようになるため、自分たちの得意な分野に集中できるようになる」と、インスタカートで最高業務責任者を務めるニラム・ガネンスリアン氏はいう。「我々と提携することで、彼らは自らが持っている強みを活かしている。その強みとは、顧客が住む場所の近くに店舗を構え、顧客が買いたいと思ったものを届けられること、そして大規模な小売店では得られない親密な関係、厚い信頼、パーソナルな体験だ。我々の見る限り、食料品小売業界ではきわめて大きな変化がはじまっている」。

Amazonの脅威へ対抗

インスタカートが提供する価値は、食料品店が自ら実行できないことを代行するというものだ。この業界は小規模なローカル店舗で構成され、細分化されている。そこでインスタカートは、オンライン注文、配送、ピックアップを行うロジスティクスの構築に乗り出した。だが、この分野は競合が多く、いまも競争が拡大している。Amazonに続いて、4月にはウォルマート(Walmart)もレストランデリバリーサービスのドアダッシュ(DoorDash)と提携し、注文を受けた料理を顧客の自宅に届けはじめた。ピーポッド(Peapod:オランダの食料品大手アホールド・デレーズ[Ahold Delhaize]の子会社)のようなオンラインデリバリーサービスが、同じ分野で競争を続けている。

インスタカートは、この1年の状況を評価したうえで、戦いに向けた準備を進めている。すでに食料品店のパートナーを倍増し、300店にまで増やした。また、この1年で10億ドル(約1125億円)近くの資金を調達(直近のシリーズFラウンドでは8億7100万ドル[約980億円]を調達)している。結果、調達額は合わせて19億ドル(約2100億円)となり、企業価値は78億ドル(約8788億円)に達した。9月には、同社初の最高技術責任者としてマーク・シャーフ氏を迎え入れ、2019年末までに技術部門の規模を倍増する計画を立てている(ただし、現在の技術者の数は明らかにしていない)。11月はじめには、オンラインデリバリーに続く新しいサービスとして、インストアピックアップとカーブサイドピックアップを開始した。

目標は、2019年に米国の全世帯の80%をカバーすることだ。

「Amazonがホールフーズを買収したことで、誰もがAmazonの脅威から生き延びるための計画作りを早急に迫られることになった。これがきっかけとなって、インスタカートの利用が急速に増えたのだ」と、エージェンシーのサピエントレイザーフィッシュ(SapientRazorfish)でコンテンツおよびコマース担当SVPを務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏は指摘する。「Amazonはホールフーズの買収によって、ホールフーズとインスタカートの関係を終了させた。だが、これほど多くの食料品店が、Amazonに対する防衛策として早々にインスタカートと提携し、デジタル事業に乗り出すとは思っていなかっただろう」。

パートナーケアが最優先

また、インスタカートはAmazonと違い、顧客データをかき集めたあげく、誰にも見せずに溜め込んでおくようなことはしない。インスタカートは食料品店と提携しなければ何もできないため、顧客データをマクロのレベルとミクロのレベルで分析し、そこから得たインサイトをパートナーにフィードバックすることを最優先にしていると、ガネンスリアン氏は述べている。同社は、顧客が探している商品を、売られている商品や売られていない商品と比較したり、注文が繰り返される頻度やパターンを調査したり、地域ごとの在庫状況を分析したりしているのだ。おかげで、ほかの小売企業では得られないような、さまざまな競合企業を網羅した業界のデータを獲得できると、ガネンスリアン氏は語った。こうした情報があれば、在庫に関する判断や顧客に勧める商品の選定を、より適切に行えるようになる。たとえば、インスタカートのユーザーがどこかの店に行ったものの、ある商品が品切れだったとしよう。そのようなときに、インスタカートの300社のパートナーから得た顧客データを利用して、その顧客に最適な代わりの商品を予測できるようになるのだ。

「顧客にはそれぞれの好みがあるため、その好みに対応してくれた食料品店に報いてくれるようになるだろう。これが食料品小売業界で期待していることだ。(中略)つまり、ミクロレベルで顧客を理解する必要がある。これはきわめて難しいことだが、我々はそのためのテクノロジーとチームを構築している」と、ガネンスリアン氏はいう。「もうひとつの期待は、デリバリーでも店舗での買い物でも、シームレスなインタラクションが起こることだ。食料品店は、直近の10回の訪問について知ることができるようになるだろう。我々は食料品店に情報を提供し、店舗から得たデータを利用してオンライン体験を活性化したいと考えている。その逆もしかりだ」。

「インスタカートのアプローチは、既存のビジネスモデルの弱点を認識したうえで、そのモデルを利用するのではなく修正することによって、食料品店の連合体を作り出すというものだ」というのは、小売店向けAIソリューションを手がけるシンフォニー・リテールAI(Symphony RetailAI)の最高経営責任者、パラブ・チャタジー氏だ。「食料品店は、注文、ピックアップ、デリバリーのオプションをシームレスに提供できるようになるだろう。そう考えたとき、この競争で勝利を収めつつあるのはインスタカートだ」。

課題はユーザーの規模

とはいえ、短期的には、データは異なる役割を果たすことになる。その役割とは、インスタカートのマーケティング戦略に役立つ情報を提供し、新しいユーザーを獲得できるようにすることだ。これが、2019年に優先すべき大きな取り組みになる。

「何よりもこれが最優先であり、いまできることはこれしかない。ただし、もっと多くの人に、こうしたサービスが存在することに気づいてもらう必要がある」と、ガネンスリアン氏はいう。「奇妙な話に聞こえるかもしれないが、ほとんどの顧客は、オンラインに行けば、食料品を近くの店舗からその日のうちに配送してもらえることを知らない。そこで、認知度を高めるために、既存顧客に関する情報を利用して、潜在顧客を狙っているのだ。そこから取り組みはじめることになる」。

Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)

 

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