ジェンダー表現で初の禁止措置、マーケターへの影響は?:英基準局による判断の是非

DIGIDAY[日本版] / 2019年9月10日 8時50分

英国で、有害なジェンダーステレオタイプを扱った広告が禁止された件で、初の違反者が出た。これを受け、広告主とエージェンシーは警戒を強めている。

英広告業界の自主規制組織である広告基準協議会(Advertising Standards Authority:以下、ASA)による規制が施行されて2カ月、フォルクスワーゲン(Volkswagen)とモンデリーズ(Mondelez)の「フィラデルフィア(Philadelphia)」ブランドのCMが、有害となりうるジェンダーステレオタイプを提示しているとして処分を受けた。フォルクスワーゲンのCMは、男性は女性よりスポーツをするのが好きだというイメージを強化するものであり、またフィラデルフィアは、男性は子育て能力が低いという考えを温存すると判断された。

フィラデルフィアの広告は、コミカルな効果を狙ったもので、ごく短時間に要点を伝えるため、しばしばステレオタイプに根差したユーモアを利用するという、広告ではよく使われる戦略だ。しかし、ASAの厳しい評価において、笑えるかどうかは要点ではなかった。2本の広告に描かれた主観的なジェンダーステレオタイプに対して、この自主規制組織は強硬な対応をとった。なお、フィラデルフィアの広告には128件の苦情が集まったのに対し、フォルクスワーゲンの広告を視聴した人からASAに寄せられた苦情はわずか3件だった。

やりすぎだとの意見

マーケターやクリエイティブのあいだでは、ASAの禁止措置はやりすぎだとの意見も出ている。エージェンシーのブレイブ(Brave)でマネージングパートナーを務めるデイブ・ローレンス氏は、ASAのジェンダーステレオタイプに対する評価は厳しすぎ、より大胆で挑戦的なクリエイティビティをマーケティングに求める業界を委縮させかねないと考えている。

広告業界の幹部たちはいまや、数百万ポンドを投じて制作したものの、有害なステレオタイプを助長するおそれのあるキャンペーンを微調整するか、変更するか、あるいはボツにするか、検討を迫られるようになった。その難しい判断をさらに厄介にしているのが、「有害なステレオタイプとは何か」について、ASAが幅広いスタンスをとっていると思われる点だ。実質的に、広告の特定部分について、それが広告の主要なメッセージであっても、あるいは一要素であっても、その内容が、幅広く、不明確で、定義しがたい意味合いにおける「有害」に相当すると判断したら、ASAはそれを理由に広告を禁止することができる。

「本来は、有害で社会的に無責任なジェンダーステレオタイプへの対策に、自由で進歩的な変化をもたらそうと意図したはずが、ひどく不自由で、後退しているとさえ思えるものになってしまった」と、メディア業界のクライアントを手がける法律事務所ルイス・シルキン(Lewis Silkin)のパートナー、ジェレイント・ロイド=テイラー氏はいう。「現状、ASAの『有害』の定義は実用性に欠け、できるだけ早急に定義を明確にする必要がある。今後は、これらの広告主が今回の決定に関して独立した審査を求め、またASAが現在の厳格なアプローチを撤回することを望む」。

決定を支持する声

しかし、英国の広告主の業界団体である広告主協会(ISBA)と広告業協会(IPA)、そして英国のテレビ広告を事前承認する非政府組織クリアキャスト(Clearcast)によれば、たとえ世間から批判を浴びようと、ASAがそのスタンスを撤回することはなさそうだ。広告を禁止することで、ASAはいわば自らの意図を表明しているのだ。ASAは以前にも、広告業界の義務として、業界が広めるメッセージは、消費者についての単なる決めつけではなく、オーディエンスに関する真のインサイトに基づくものであるべきだと、長々と訴えたことがある。またエージェンシーのなかにも、ASAの決定を支持する声がある。メディアエージェンシーのユニバーサル・マッキャン(Universal McCann)でインサイトとクロスカルチャーを担当するパートナーのマイケル・ブラウン氏は、今回の措置は、広告がステレオタイプを強化している事実をよしとすべきか、業界に考え直すことを迫るきっかけになるだろうと述べている。

とはいえ総じて、記憶に残り、心をとらえる形で要点を伝える優れた広告を作ることは、ステレオタイプを持ち出し、使い古された比喩や常套句に頼ることに比べるとはるかに難しいと、クリエイティブエージェンシーBMBの戦略責任者メラニー・アロー氏はいう。「しかし、それこそが優れた広告とそれ以外を、優れたエージェンシーとそれ以外を分けるものだ」と、アロー氏は付け加える。

しかし、一部の広告業界幹部にとって悩ましいのは、そうしたステレオタイプが一概に悪いものとは限らないことだ。

リスクと利益のバランス

広告のなかでステレオタイプに基づくユーモアを描写することは、ASAの評価はどうであれ、より共感を呼び、より人間味が感じられ、消費者の心に響く。それは必ずしも人を傷つけるものではないのだが、ASAの措置によって、ユーモアに訴えるやり方は、リスクと利益のバランスをとるのが難しい行為になってしまったと、ブレイブのローレンス氏はいう。

しかし、そうした笑えるステレオタイプに頼ることは、怠慢にもつながる。そこで、たとえばユニリーバ(Unilever)などは、それらを自社の広告から排除している。広告主は、手っ取り早く要点を伝えようとして、父親は頼りない、男性はみなスポーツ好きといったステレオタイプに頼ることが多い。しかし、それは同時に、的外れで時代遅れなイメージを強化するリスクを冒すことにもなる。この問題をさらに明確にしているのが、調査会社カンター(Kantar)が最近実施した調査だ。調査ではマーケターの大多数が、自社は人間をステレオタイプに描いていないと考えていることが明らかになった。しかし、英国と欧州で出稿されている広告の約68%が、女性を「感じの良い」または「優しい」姿に描く一方、「権威ある」女性を登場させている広告はわずか4%しかないことが、同じ調査で判明している。

今後は市場調査というものが、それが予備テストであれ、サーベイであれ、フォーカスグループやベンチマークツールであれ、失敗を避けたいマーケターにとって、さらに重要性を増す可能性がある。

「ブランドはいいかげん、古臭いステレオタイプを温存させている自らの役割に向き合うべきだ。しかしそこには、ビジネスへの影響もある」と、ユニバーサル・マッキャンのブラウン氏はいう。「多くの広告予算が余裕のない状況にある。どうしても必要にならない限り、制作したクリエイティブをポストプロダクションに差し戻す、さらには一からやり直すようなブランドは多くない」。問題は、フォルクスワーゲンやフィラデルフィアのような事例が、自社の広告をやり直す必要のあるブランドを動かすのに十分な懸念材料になるかどうかだと、ブラウン氏は述べた。

Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)

 

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