サブスク拡大のため、広告に投資するパブリッシャーたち

DIGIDAY[日本版] / 2019年11月18日 11時50分

パブリッシャー各社がサブスクリプションに舵を切っている。その目的のひとつは、FacebookとGoogleが支配するビジネスへの依存度を下げるためだ。だが皮肉なことに、この行為がそれらへの依存度を逆に高める結果を招いている。

キーウィー(Keywee)のデータによれば、2019年1月から9月に、パブリッシャー各社がサブスクリプションをサポートするためにFacebookの有料ディストリビューションに費やした支出は、前年同期と比較して150%増加しているという。この支出に含まれるのは、ダイレクトレスポンス広告や、ユーザーがペイウォールに当たることを意図した記事の有料プロモーションなどだ。

パブリッシャー各社が投資しているプラットフォームの数もまた増加している。自社のサービスを売り込むため、FacebookとGoogleだけではなく、Bing(ビング)などの検索プラットフォームや、Snapchat(スナップチャット)やインスタグラム(Instagram)をはじめとする、さまざまなソーシャルチャネルへの投資も開始しているのだ。なかには、デジタルチャネル外の支出も増やしているパブリッシャーもある。メディア測定企業のカンター(Kantar)によれば、ワシントン・ポスト(The Washington Post)が2019年前半に投じたメディア支出は約1400万ドル(約15億1700万円)で、その額は前年同期の2倍以上だという。カンターによるこの数字は、有料検索とディスプレイへのデジタル投資のほか、屋外広告やラジオ、雑誌、新聞などの従来型チャネルも反映している。

企業が自社製品のプロモーションに資金を投じるのは、目新しいことではない。だが、この支出の増加は、パブリッシャー各社がそのフォーカスを消費者売上にシフトしつつあることの証しだ。レンフェストインスティテュート(Lenfest Institute)でリーダーレベニューアドバイザーを務めるマット・スキビンスキー氏は、「デジタルサブスクリプションに本腰を入れる機運が高まっている。そのひとつとして、『メーターを持っているだけではダメだ。サブスクリプションへの加入を呼びかけ、それに対するマーケティングリソースを投じなければ』という認識がある」と話す。

多種多様なCMOの参入

その片鱗がうかがえるようになったのは昨年のことで、さまざまなニュースパブリッシャーが多種多様なCMOを迎え入れた。彼らCMOは、広告主への売り込みではなく、利用登録者数の増加に力を入れている。ワシントン・ポストとハースト・ニュースペーパーズ(Hearst Newspapers)、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)の3社はいずれも、2018年にCMOを迎え入れているが、ハーストとポストに関しては、この役職を設置するのははじめてのことだった。

こうした雇用は、再編成のより広範なトレンドの一環だった。たとえばワシントン・ポストの場合、再編成を行って、プリントとデジタルの各マーケティング部門を新CMOのもとに統合している。またパブリッシャーの多くは、ここ1年でチームの規模こそ大きくはないが、利用登録者数の増加をサポートするためのデジタル広告バイヤーやグロースマーケターも雇用するようになっている。

サブスクリプションに対するパブリッシャーの取り組みは、その大半が自社が所有・運営するプロパティではじまり、そこを中心として行われる。パブリッシャーはこの自社プロパティで、読者は何を読んでいるのか、どのぐらいの頻度でそこを訪れているのか、これまでに何を読んできたのか、などについてのインサイトを得ている。こうしたパブリッシャーは、通常ニュースレターのサブスクリプションという形で、すでに読者と直接的な関係を築いていることも多い。トリビューンパブリッシング(Tribune Publishing)でCMOを務めるマーク・キャンベル氏によれば、同社が今年、これまでに獲得しているサブスクリプションのうち、自社プラットフォーム外で行われたマーケティングによるサブスクリプションは約25%だけだという。

オーディエンスの拡張

とはいえ、オンサイトのオーディエンスには限りがある。そのため、パブリッシャー各社は、ほかの場所にいる人々への売り込みに金をかけることをいとわなくなっている。たとえそれが、こうした利用登録者のマージンの減少を意味するとしても。

「有料ソースのマージンは今後、実質無料のものを下回ることになるだろう」と、キャンベル氏はいう。「それでも我々は、オーガニックサイトのほかに利用登録者を拡大するために、こうした有料チャネルを模索している」。

そのためのターゲティングの大半は、パブリッシャーが集めたファーストパーティデータを使って行われている。そのなかのひとつがニュースレター購読者のメールアドレスで、ターゲティングのためのオーディエンスセグメントとして頻繁に活用されている。

パブリッシャーがオーディエンスのオンサイト行動から収集するデータ(彼らが何を読んでいるのか、どんなトピックに興味を持っているのか、など)は、類似オーディエンスのターゲティングにも使える。だが、そこにはトレードオフが存在する。幅広いオーディエンスへのリーチは、特殊なオーディエンスを狙うよりも安上がりかもしれないが、それにはより変化に富んだ、さまざまな種類のメッセージングへの投資が必要となる。

「類似性が大きいほど、オーディエンスは小さい」と、ニューヨークメディア(New York Media)で消費者売上部門のゼネラルマネージャーを務めるジェイソン・シルバ氏は語る。「そして、この(潜在的な利用登録者の)世界を大きくする際には、クリエイティブに対する同じアプローチでそれを大きくすることが、同じ結果につながるとはかぎらない」。

マーケティングメッセージ

パブリッシャー各社は、自社プロパティでマーケティングを行う際にはしばしば、自分たちの使命や、自分たちの報道が与える影響などを強調する。その一方で、サードパーティのプラットフォームでは多くの場合、そのフォーカスは、導入時の特別価格やディスカウント価格に置かれている。

「プロモーションを活用した利用登録者基盤の構築には、さまざまな利点がある。とくに、お金を払ったことがない読者を利用登録者にしようとしているときには」と、スキビンスキー氏は語る。「導入時の特別価格の場合、それが大した決断にはならないところに価格を設定するのが理に適っている」。

一部のパブリッシャーが他社よりもサブスクリプションの価格を下げることをいとわなくなっている一方、大半(とくに、読者のエンゲージメントに自信を持っているパブリッシャー)は、導入時の特別価格にメリットを見出している。2019年に入ってから現在に至るまでの期間を対象にニューヨークメディアが行なった調査から、同社の利用登録者の読む量は、有料での利用登録後に増えていることがわかっている。

やらないことを決めるのも大事

この結果を受けて、ニューヨークメディアは現在の戦略に自信を深めている。同社は年間サブスクリプションにはディスカウントを提供しているが、月額5ドル(約542円)のデジタルサブスクリプションに対しては提供していない。

「導入時の特別価格による底をめざす競争に興味はない」と、シルバ氏は語る。「金を払ってくれる人と、払ってくれない人のあいだに、最大の壁があると考えているのなら、ここにいてもいいことなどない」。

Max Willens (原文 / 訳:ガリレオ)

 

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