いま米国で急成長:ディスカウントストアが人気の理由とは?

DIGIDAY[日本版] / 2019年10月29日 8時50分

米国では消費者の行動パターンが変わりつつあり、その恩恵を受けているのがディスカウントストアだ。

好調な景気を背景に9月には過去50年でもっとも低い失業率を記録した米国だが、消費の傾向は変化している。たとえば9月の小売の売上は0.3%減少した。一方でFMI(Food Marketing Institute:食品マーケティング協会)のデータによれば、食料品店を訪れる買い物客の年間旅行日数は2012年より2018年のほうが多いという。同時に店舗を持たない小売業者の売上は前年度より大幅に増加した。こういった消費者の変化に呼応して、ダラー・ゼネラル(Dollar General)やアルディ(ALDI)といったディスカウントストアが米国で急速な成長を遂げつつある。さらにこれら企業はデジタルインフラの構築に対する投資を行ってきた。Amazonでさえ昨年、サブスクであるAmazonプライム(Prime)の構造と商品の適格性に変更を加えて、ディスカウント色を強める方向に舵を切っているほどだ。

EC分析企業のエッジ・バイ・アセンシャル(Edge by Ascential)のデータを見ると、ディスカウントストアは小売り業界全体よりも大きな伸びを示している。ダラー・ゼネラルなどの食料品以外を主体とするディスカウントストアは、2024年まで年率5.2%で成長すると予測されていた。リドル(Lidl)などの食品を扱うディスカウントストアの成長率は年率4.9%だ。また、食料品を扱うスーパーは同4.4%、それ以外のスーパーは同2.7%となっている。

そんななか、ダラー・ゼネラルの業績は飛躍的な伸びを見せている。最新の業績報告によれば、同社の2019年度第2四半期の収益は69.8億ドル(約7580億円)となっており、店舗あたりの売上が4%の伸びを記録した。同社の前年同期の収益は64.4億ドル(約7050億円)であり、大きな伸びとなっているのだ。

ダラー・ゼネラルは企業としての成長にともない、今年最大で1000店に迫る店舗を開店する見込みとなっており、店舗内ピックアップなどの新しいEC機能への投資も行っている。成長のチャンスを迎えているのは同社だけではない。米国に進出して2年のリドルは、今年米国で25店舗を、英国では40拠点を立ち上げる予定となっている。

この成長を後押ししているのが、消費者心理の変化と未開拓の市場を求める小売業者側の考えだ。エッジ・バイ・アセンシャルのリサーチディレクターを務めるデイビッド・ゴードン氏は「消費者の買い物の仕方は、これまでと少し変化している」と語る。「買い物の頻度が少し増える代わりに、1回あたりの購入金額は減っているようだ」。ディスカウントストアは比較的小規模なことが多く、そのかわり品揃えは豊富だ。これが消費者行動の変化と噛み合っている。

基本となる経済

1ドルショップに代表されるように、迅速かつ簡単に店舗を拡大できるビジネスモデルが登場した。こうした店舗を開くのにかかるコストは安い。25万ドル(約2700万円)程度で済む場合もあり、ウォルマート(Walmart)ほど多くの従業員が必要なわけでもない。カンター(Kantar)の小売ディレクターを務めるサイモン・ジョンストン氏は「ほとんどの食料品店よりもはるかに多数の店舗を開店できる」と指摘する。「こういった企業の開く店舗は資本支出が比較的少なくて済む」。このビジネスモデルは必要な従業員も少なく、ダラー・ゼネラルやアルディといった小売企業がマージンの低い未開拓の地域にも進出しやすくなった。

このモデルは数十年前から存在していたが、消費者のディスカウントストアへの需要は増す一方だ。これは米国経済が行き詰まりを見せつつあることと無関係ではないだろう。グローバルデータ・リテール(GlobalData Retail)のマネージング・ディレクターを務めるニール・ソーンダーズ氏は「たしかに景気は良い」としつつも、厳しさを増す地域もあると指摘する。「給与の伸びは止まっている。所得水準は上昇していない」。ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)の数字によれば、雇用の数字は良いものの、インフレを考慮すれば平均給与は「40年前の購買力とほぼ変わらない水準」だという。サンダース氏はこの結果「価格をより重視する消費者が増えた」と指摘する。

それだけでなく、小売企業のプライベートブランドも隆盛を見せている。これもまた割安な商品を求める消費者心理の表れだ。ホール・フーズ(Whole Foods)のプライベートブランド「365」から着想を得て、ターゲット(Target)はグッド&ギャザー(Good & Gather)という新ブランドを立ち上げた。ダラー・ゼネラルも、ウォルマートやターゲットなどと提携てきた企業の協力を得て美容品のプライベートブランドを立ち上げている。サンダース氏は、これがダラー・ゼネラルが「ただ安価なだけでなく内容面でも優れた商品を提供しようとしている」一例だと指摘する。また、消費者がブランドとして無名で安価な商品に対して抵抗がなくなっていることも示している。

2008年の金融危機は、多くの消費者の行動を変えた。サンダース氏は「あの金融危機で多くの消費者が強く価格を意識するようになった」と指摘する。結果として割安なアウトレット商品を求める消費者が増え、低価格ストアがブームになった。

成長するために

今後は、価格を重視する消費者向けに安価な商品を展開して拡大するだけでなく、さらなる成長を目論む大手企業も少なくない。なかでも注目を集めているのがオンライン販売だ。

たとえばダラー・ゼネラルは、オンラインで商品を購入して店舗で商品をピックアップできる新たなプログラムを試験的にカスタマーに提供しはじめている。アルディもインスタカート(Instacart)といった企業と提携して安価な商品を自宅まで配送するサービスを提供する。

Amazonですら安価な商品の提供を試みるようになっている。以前Amazonではカートの合計金額がある程度大きくなければ安い商品を配送していなかったが、Amazonはプライムの無料翌日配送の対象となる最低価格を密かに引き下げている。これが実店舗であるディスカウントストアに対する挑戦であることは明らかだ。

Amazonの目的は明確で、プライム事業により多くのカスタマーをひきつけたいのだ。安価な商品を配送すれば損失が発生する可能性もあるが「カスタマーのシェアを獲得することも重要だ」と、サンダース氏は指摘する。

それでもオンラインのディスカウントストアというのは実現が難しい。「ディスカウントは複雑になると経済的に破綻していく恐れもある」と、エッジ・バイ・アセンシャルのゴードン氏は語る。フルフィルメントの選択肢が増えれば、人員面と技術面での要求が大きくなる。「コストがふくらみ、より複雑になっていく」と、同氏は指摘する。

それでもディスカウントストアもオンライン小売企業も安価な商品を販売することで成長しようと目論んでおり、スケーラブルなモデルの構築を急ピッチで進めている。狙いは低所得者層だけではない。価格を重視する中所得者層や高所得者層も対象だ。1ドルショップは「新たな顧客層の獲得という点では非常にうまくいっている」場合が多いと、サンダース氏は語る。

これによってビジネスチャンスが生まれる。「市場の中間層は非常に飽和した状態だ。一方で安価な価格帯はそこまで飽和しているわけではない。まだ開拓の余地も、ビジネスチャンスも多く残されている」。

Cale Guthrie Weissman(原文 / 訳:SI Japan)

 

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