握手の代わりにフットタップ : 新型コロナ の脅威で変化する、米・エージェンシーの日常

DIGIDAY[日本版] / 2020年3月13日 8時50分

コピーライターのカラ・ゴンチャー氏は、3月はじめにエージェンシーMRM//マッキャン(MRM//McCann)のニューヨーク本社でパートナーのアートディレクターでシャノン・ウィルソン氏から次のように指示された。「電話を消毒してくれ」。

ゴンチャー氏は、「なかなかの挨拶ね」と返しつつも、その指示に従ったという。

それ以降、ゴンチャー氏とウィルソン氏は風変わりな挨拶の仕方を編み出した。「他の人と足で握手することにした。お互いに足で足を叩いて挨拶をするの」。

握手やハグを避けるのは普通

新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)は世界中に広がっており、企業や業界を揺らがせ続けるなか、エージェンシーの内部でも変化が起きている。コロナウイルスの脅威や恐れに対し、エージェンシーもまた社会的な行動における新たなルールを作り出している。

ウイルスを媒介しかねない握手やハグ、個人間の接触を避けるのは普通で、かわりに拳や肘での挨拶が増えているようだ。だが、エージェンシー社員にとって、こういった代替手段によるぎこちなさも、また避けがたいようだ。モンティ・デジタルのディレクター、アルフィー・グリーン氏は、「今日はみんなから変な『エアキス』をされたよ」と語る。

手の消毒、咳や手洗いのエチケット、在宅勤務の奨励、ビデオ電話によるデジタル会議、絶対に必要なものを除いて移動を避けるといった対処方法は当たり前のものとなっている。

他人の手洗い習慣に対する監視の目もまた当たり前になっているようだ。

FCBのシカゴオフィスでアートディレクターを務めるビクトリア・ロセリ氏は「あまり変化はないよ。ただトイレ後の手洗いで、いまだに手に水をかけるだけで十分だと思っているような人は、前より長く見つめるようになったけれど」と語る。

「消毒薬が我社の今月のMVP」

ホールディングカンパニー各社は2月の終わりに、エージェンシー社員の移動に関する方針を改め、ウイルスの影響が大きな国、特に中国と韓国への移動を制限するようになった。ホールディングカンパニーのエージェンシーは、ウイルスの影響を受けた地域に入った社員に対し、14日間の自己隔離も定めている。4As(アメリカ広告業協会)の代表によれば、同グループはまだエージェンシーのコロナウイルスへの対処方針を発表していないが、「状況を注意深く見守っている」とのことだ。

社員らによれば、症状の注意点だけでなく、適切な咳の仕方などについても詳細に書かれた注意書きがオフィスに貼られているという。またオフィス内に消毒や衛生関連の製品が増えた。すべてのデスクや共用スペースにこうした製品が置かれているところもあるようだ。ほかにも、日常業務は以前と同じようにこなしているが、意思疎通の手段がデジタルになり、在宅勤務が増えたためオフィスががらんとしているエージェンシーも増えているという。

なかには、見通しのつかない状況をユーモアで乗り切ろうとしている人たちもいるようだ。

フルサービスのクリエイティブショップ、コポウザでプレジデント兼クリエイティブディレクターを務めるダン・シェプレン氏は、「みんなが通常よりも手に消毒薬を吹きかけるようになって、消毒薬が我が社の今月のMVPと呼ばれるようになった」と語る。

「すべてが宙ぶらりんの状態だ」

一方、クライアントからの潜在的な事業損失に対処に追われる人たちもいる。SXSWやカンヌライオンズといったイベント計画や営業の中止や遅れが発生しており、コロナウイルスの影響が明確になるまで体験型マーケティングも控えられているためだ。以前に米DIGIDAYが報じた通り、P&Gやアンハイザー・ブッシュ(Anheuser-Busch)、ユニリーバ(Unilever)といった大手マーケターはウイルスの影響に対処するため、メディア予算の見直しに追われている。

スティンクスタジオ(Stink Studios)でCEOを務めるマーク・ピトリック氏は、「昨日は営業が2件キャンセルになった」と語る。「クライアントは平身低頭だったが、誰もが慎重になっていて、中止されうるイベントや大規模な活動については投資よりも待ちの姿勢だ」 。

エージェンシーのソースは、クライアント向けの長期計画は難しさを増していると語る。

「すべてが宙ぶらりんの状態だ」と、グリーン氏は語る。「クライアント側にとっても、エージェンシー側にとっても難しい。ブランドの立ち上げ、一般向けの活動、大規模イベントにおけるスポンサーパッケージの実施など、大人数が集まる出来事すべてが中止になるのではないかと警戒されている」。

見通しが立たないコロナの現状

ウイルスの影響下にある国にサプライチェーンを持つD2C企業もまた、広告支出の削減やキャンペーンの停止に迫られている。ムーンシャイン・マーケティング(Moonshine Marketing)でマネージングディレクターを務めるジェレミー・ゾンネ氏は「当社と提携しているD2Cブランド数社は、新規キャンペーンを遅らせるか予算を大幅に縮小している。サプライチェーンの問題を抱えているためだ」と語る。この問題は、2月同社が提携するD2Cの女性向けアパレルと旅行ブランドからはじまったという。「少々厳しい状況ではあるが、当社が提携している大半の企業はすぐに中止するのではなく、予算を少し調整するだけだとしている。現時点では我慢しているだけというところがほとんどだ」。

長期的な影響を見定めようとしている企業は多い。だがエージェンシー事業への潜在的な損害がどうなるのか不安だと感じる人も多い。ホールディングカンパニーのエージェンシーで旅行ブランド向けの仕事を行っているあるコピーライターは、クライアントの今後の予算削減リスクが不安だと述べている。これによって自分の仕事が減り、不安定になる可能性があるためだという。

広告業界における雇用を担当するクリスティー・コーズ氏は、見通しが立たないコロナウイルスの現状が、エージェンシーの人材雇用にも影響を及ぼしていると指摘する。「いまは不安な静けさに包まれている」と、コーズ氏は語り、業界では間もなく雇用の悪化がはじまるだろうと予測している。「市場が冷え込めば、最初に影響を受けるのは広告業界だ」。

Kristina Monllos(原文 / 訳:SI Japan)

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