「 プログラマティック の本当の価値を日本に伝えたい」:The Trade Desk 日本担当ゼネラルマネージャー 馬嶋慶氏

DIGIDAY[日本版] / 2020年7月10日 9時50分

プログラマティックが提供する未来志向のマーケティングとは、どのようなものなのか。

日本においてプログラマティックという言葉や仕組みは浸透しつつある反面、単なる広告の一形態という理解に留まっている感も否めない。「アメリカと比較するとプログラマティックの理解の度合いには大きなギャップがある」と指摘するのは、6月22日に大手デマンドサイトプラットフォーム(DSP)であるThe Trade Desk(TTD)の日本担当ゼネラルマネージャーに就任した馬嶋慶氏だ。「TTDが提供するプログラマティックDSPは国内において機能面など表層的な部分こそ認知されているものの、その価値はまだ理解されていない。アドネットワークと混同され、ブランドセーフティの懸念を口にするドメスティックブランドもいる」。

馬嶋氏は「我々のポートフォリオを分析しても外資系の企業が多く、ドメスティックなブランドの導入にはまだ成長の余地がある」とも話す。エージェンシーからブランドサイトまで、多様な立場でキャリアを重ねてきた同氏にプログラマティックが提供する価値と、それをいかに国内で浸透させるのか話を聞いた。

理解の壁となっている課題点

プログラマティックはなぜ日本では理解が進んでいないのか。馬嶋氏はまず、メディアバイイングのあり方を課題として挙げる。「日本のデジタル広告市場におけるメディアバイイングには、まだ新聞やテレビなどレガシーメディアの広告枠購入に近い感覚が残っている」とし、続ける。

「たとえば、インサーションオーダー(広告掲載申込)の予約型広告の場合、日本全体でキャンペーンを展開し状況に応じて地域や時間帯など、エージェンシーを介して時間と手間をかけてセグメントを最適化していく必要がある。プログラマティックであれば、手間のかかるオペレーションもAIやアルゴリズムに任せてワンストップで完結できる。こうした運用者の手離れのよさがアメリカなどでプログラマティックDSPが主流となっている理由だが、日本におけるいわば『商習慣』の前になかなか理解されていない」。

透明性の高さとデータ測定の容易さも、プログラマティックの強みだ。「アドネットワークなどの場合、特定の枠を高く売るために一部のデータしか開示されないといった恣意的な調整が生じるリスクがある。一方プログラマティックDSPはバイサイドに特化しており適正な価格でサプライを販売し多様なデータも提供できるなど、高い透明性を担保できる」。しかし、こうした点も国内ではまだ浸透していないと馬嶋氏は指摘する。

「日本市場はエージェンシードリブンな状況であり、プログラマティックの使い勝手の良さや価値がブランドに伝わりにくいのではないかと感じている。外資系の企業であれば情報がグローバルに共有されているが、そうした情報をキャッチできていないエージェンシーやドメスティックブランドはまだ存在している。我々としても適切に情報提供ができているのかと反省すべき点だ」。

パブリッシャーも含めた三者で価値提案を

さらに馬嶋氏は、プログラマティックはブランドとエージェンシーだけに留まるものではなく、パブリッシャーも含めた三者にとって価値ある提案になると語る。「リアルタイムのニュースを扱っているパブリッシャーの場合、そのインベントリは時間帯や世界情勢などによって価値が変わっていく。わかりやすい例がスポーツ中継の延長戦だ。延長戦はオーディエンスがじっくり見るためプレミアム性が高いが、予約型広告であればその価格は変わらない。もし、サプライサイドプラットフォーム(SSP)とDSPが適切に接続され、プログラマティックが提供するリアルタイムビディング(RTB)が導入されていれば、高い金額で価値のあるインベントリをブランドが購入する可能性がある」。

スポーツチャンネルのオンライン化が進んでいるアメリカではインベントリの価値変動が重視されており、パブリッシャーにとってRTBは「リアルタイムビジネス」を意味すると馬嶋氏は指摘する。「パブリッシャーの持つ価値あるインベントリやオーディエンスのビューワーシップを高く売ることができるRTBが、リアルタイムビジネスを支える。プログラマティックをパブリッシャーのビジネスに組み込むことが当たり前になっている」。

プログラマティックでパブリッシャーをサポートするだけでなく、TTDはデジタル上のエコシステム実現も見据えているという。「TTDのCEO、ジェフ・グリーンが提唱しているのは『Media for Humankind』というビジョンだ。価値のあるコンテンツを作ったり信頼性のある情報を持っているメディアのジャーナリズムやオリジナルコンテンツを作り上げるクリエイターたちをサポートし、彼らに正当な報酬が支払われるようにすることで、オーディエンスも優良なコンテンツに触れることができる。理想的なエコシステムの下で、デジタル広告やメディアが発展していく。こうしたビジョンも積極的に日本で訴えていき、プログラマティックの価値を伝える一助としたい」。

未来志向のマーケティングを実現する

では、こうしたプログラマティックの価値を国内でどのように伝えていくのか。馬嶋氏は「やや下世話な表現ではあるが、長いものに巻かれることが有効になるはずだ」と語る。「TTDは日本市場においてまだ小さな存在であり、我々だけでプログラマティックについて語っても届かないだろう。いまの状況からグロースするためには、よりブランドに近いポジションにいるエージェンシー、あるいは影響力のあるプラットフォームやパートナーサイドの企業と共同で取り組む必要がある」。

また馬嶋氏は、TTDの顧客などプログラマティックのユーザーの声を伝えていく必要もあるという。「UiPathに在籍していたときブランドサイトとして実感したのは、自分たちのサービスが複雑であるほど、その特徴を自分たちで伝えても理解してもらえないという事実だ。TTDがプログラマティックDSPとしてマーケットにどのような価値を提供できるのか考えると、良質なテクノロジー、透明性、使い勝手のよさなど多岐にわたる。重要なのは我々がそれをアピールするだけでなく、顧客のエンドースメントをもらうことだろう。顧客の声は単なる情報ではなく、TTDやプログラマティックへの評価であり、それをマーケットに提供していく必要がある」。

こうしたプログラマティックの価値を踏まえ、馬嶋氏は新しいマーケティングの実現を目指していきたいと語る。「従来のマーケティングはファネルを上位と下位で捉え、上位には動画広告、下位にはリターゲティング広告のような理解になっていた。これが間違っているわけではないが、生活者のジャーニーは多様化しており上位から下位へと送客していくというロジックは実態とやや乖離があるように思える」。

「クリエイティブや場所、時間、デバイスなどの面からいかに顧客を獲得するかという視点で考えれば、上位下位ではなくターゲットにとって大切な時間やコンテンツに対し適切な形で提案をすることが求められるはずだ。TTDではファネルよりも未来志向のマーケティングを顧客とともにプログラマティックDSPで実現し、そのメッセージをマーケットに発信していきたい」。

Written by 分島 翔平

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング