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「等身大の救い」を描く、世界が注目する映画監督・呉美保【INTERVIEW】

FASHION HEADLINE / 2015年6月19日 21時15分

高良健吾は教師役に初挑戦。呉監督の現場には、モノづくりの自由さが溢れていたという

14年に発表した3本目の長編映画『そこのみにて光輝く』が、「第38回モントリオール世界映画祭」最優秀監督賞を始め、数々の映画賞を受賞したことも記憶に新しい注目の監督・呉美保に、今月27日より公開される新作映画『きみはいい子』について訊いた。

今回監督が挑戦したのは、「第28回坪田譲治文学賞」を贈られた中脇初枝による小説「きみはいい子」の映画化。監督初の群像劇となる本作は、幼児虐待やネグレクト、モンスターペアレンツ、認知症など、現代社会の問題を描いている。シビアな事象を題材としながらも、高良健吾、尾野真千子、池脇千鶴、富田靖子らの俳優陣が演じるキャラクター達が、時に戸惑い、傷つきながらも、人との関わりを通じて救われ、新たな気づきを得て、前に歩み出していくというストーリー。見終えた時には、胸に温かい感情がこみ上げるような、やさしさに満ちた作品だ。

原作を読んだ時に「まず一読者として、作品の世界に引き込まれた」という呉監督。映画で扱う現代社会の問題については「例えば『虐待』と言っても、昔は暴力、せっかん、躾とか別の言葉で表現されていましたよね。一括りに『虐待』と言語化されることで、意味を限定してしまい、ある種の閉鎖感に繋がっています。グレーな部分、混ざり合う部分があるのが人間。だから、この作品が、一歩前に進めたり、救われるような感覚になれたとか、大げさじゃなく等身大の救いになれたら」と語る。

本作では、新米の小学校教師・岡野匡を高良健吾、娘に手をあげ、自身も親に暴力を振るわれていた過去のある母親・水木雅美を尾野真千子が演じる。登場人物の人生を演じる役者達とは、撮影前に脚本には書かれていないその役の人生を想像してもらい、監督と役について語り合う時間を持ったのだという。「その話し合いがあることで、群像劇ゆえに短い、一人あたりが登場する尺に、その人の持つ多面性を凝縮して描いていけるようになります」と呉監督。14年初夏、小樽で行われた約3週間のロケでも「役者の気持ちが切れないように、ロケで一気に撮影し、作品の世界観を凝縮させました」と振り返る。

12年に原作を読んだ時から、足かけ3年を経て制作された本作。監督に映画ならではの魅力を問うと「まず、映画は物づくりに向き合う時間が長いですよね。陶芸のように、練っていく作業がすごく多いんです。今回は、私達作り手の思いを脚本に込めるために、約2年の構想期間を設けて準備をしました。そして、テレビや広告には『今』という感覚があります。ただ、映画は『普遍』だと思っています。だからこそ、緊張感を持って普遍的かつ、純粋なメッセージを込められるように作品と向き合っています」と語る。

最後に、これから映画を観る方へのメッセージを求めると「幸せの価値基準は人それぞれ。だから、この映画が“自分にとっての幸せって何なんだろう?”と、考えを巡らせてもらうきっかけになったら嬉しいです」。

呉監督の作品には余韻がある。どこかの街の誰かの人生が描かれているのに、観る人の感情と響き合う部分があるのだ。新作『きみはいい子』には、人が人を救う瞬間が数多く込められている。“誰かに認められたい”という誰もが持つ思いを満たすものは、実はとても身近にあるということに気づかせてくれる一本になることだろう。

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