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世界を驚かせる“糸”の根底にあるもの【山形ニット紀行Vol.3--佐藤繊維 前編】

FASHION HEADLINE / 2015年11月9日 21時0分

佐藤繊維 佐藤正樹社長

2014年に日本市場に流通したニット製品のうち、MADE IN JAPANは何%あるかご存知だろうか? 20%くらい? いやいや正解はその二十分の一。0.5%ほどしかないのである。1990年代後半から始まったアパレルの海外生産移転は、OEM(相手先ブランドの生産)事業がほとんどだった日本のニット産地に壊滅的な打撃を与えた。それから15年が経ち、新潟の五泉、見附、福島の伊達、栃木の足利、群馬の太田、東京の両国、和歌山といったニット産地はどうにか形をとどめているものの、ニット生産に関わるすべての工程を産地内で一貫して行うのは難しい状況になってきている。そんななかで、産地内ですべての工程をこなすことができる小規模な産地がある。寒河江市を中心とした山形産地。これまでのOEM頼りの形から脱却し、成功が難しいと言われている自社ブランド事業を軌道に乗せている事例を紹介しよう。


世にも珍しいプロダクトアウト型(作り手の理念を優先させる商品開発や生産)のユニークな紡績ニット会社が、山形県寒河江市にある。佐藤繊維という名のその会社は、(1)世界のどこにもない個性的な糸(2)絵の具のパレットをひっくり返したようにカラフルで高品質なオリジナルブランド(3)本社の敷地内に今年オープンしたハイエンドなセレクトショップ「GEA」――の3つで日本を、世界を驚かせている。寒河江の本社に、佐藤正樹社長を訪ねた。

佐藤社長は開口一番「私たちはヨーロッパの歴史にないものを作っている」と切り出した。世界中から特殊な原料を足で探してスペシャルな糸を開発する紡績は、同社の核を成す事業である。世界的にも珍しい「試紡室」という糸を作るサンプル部門があり、糸の開発を専門に行う熟練工を擁している。ここで、30色ものグラデーション糸、14ミクロンの極細ウール、最高級のベビーアルパカ糸といった世界に類のない独創的な糸を生み出しているのだ。「ヨーロッパには、上質をゼロから作ってきた会社、例えばエルメネジルド ゼニアやロロピアーナ、ニットブランドでいえばジョンスメドレーなど素晴らしいメーカーがある。今ではそれに近いものが中国でさえも安価に作れるようになってきているけれど、長年築いてきたブランド力には敵わない。ならば、ヨーロッパ勢と違うところで勝負しようと思った……」

2007年、初めて欧州の糸・テキスタイルの展示会「ピッティ・フィラティ」に出展したとき、いくつかのブランドの素材担当者に「こんなのは糸じゃない」と酷評された。佐藤繊維の紡ぐ糸の最大の特徴は「いい意味でバランスの取れていない糸」だということ。これまで世の中になかった糸だったからこその拒否反応だったのだ。しかし、ヨーロッパを代表するメゾンとの取引が始まったころから、評価は一変する。「10年前は変な糸を提案する変な会社だったのが、5年くらい前から風向きが変わった。今では個性的で世界一高い糸を作る会社として認知されつつある」と佐藤社長は自信を見せる。オバマ夫人が大統領就任式で着用したニナ・リッチのセーターの糸を作った会社としてスポットライトを浴びた同社だが、今では数多のハイブランドから、ニット製品に関してはなくてはならないパートナーとして重宝されているのである。

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