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杉本博司が70年代から劇場を撮り続けた『THEATERS』、時を刻み続ける写真【NADiffオススメBOOK】

FASHION HEADLINE / 2016年9月22日 21時0分

『THEATERS』杉本博司

各ブックストアがFASHION HEADLINE読者に向けて「今読むべき1冊」をコンシェルジュ。毎週木曜日は、アート・ブックショップ「NADiff(ナディッフ)」各店がオススメする1冊をご紹介。今回は東京・恵比寿の東京都写真美術館内にあるミュージアム・ショップ、NADiff BAITEN(東京都目黒区三田1-13-3恵比寿ガーデンプレイス内 東京都写真美術館2F)です。

■『THEATERS』杉本博司

写真において「決定的な瞬間」という言葉がよく言われるように、写真は、一瞬間を切り取るものだ。絶え間なく流れる時間の中から、シャッターが切られるその瞬間だけが、写真の中に凝固している、かのように思われる。しかし、果たして、写真とは本当にそういうものなのだろうか。杉本博司の写真は、そうした写真のイメージを覆すものだ。

本書に収められた「THEATERS」、日本語では「劇場」と呼ばれるシリーズは、古い映画館や、ドライブインシアターで、映画が上映されている間中シャッターを開き続け、長時間露光することによって撮影された作品である。スクリーン自体が発行体となり、古めかしく美しい劇場の様子が浮かび上がる。

映画館とは、映画を上映する場所であり、観客は大体1~2時間、長い作品ならばそれ以上の時間をそこに座って、スクリーンを眺めて過ごす。時に笑いが起き、時に誰かのすすり泣きが聞こえ、シリアスな場面でうっかりくしゃみをしてしまった人に眉をひそめたりしながらも、上映されている時間は、スクリーンの世界に没入することができる、不思議な時間。一体、これまでどれだけの映画が上映されてきたのだろう。どれだけの人々が、この空間で、そうした上映時間を過ごしたのだろう。

これらの写真には、単に映画が上映されている時間経過だけが記録されているだけではない。映画館には、何度も繰り返し上映された映画たち、そしてその時々でその映画を共有した観客たちの空気が染み込んでいる。杉本の作品の中で光を放つスクリーンは、そうした「劇場」の歴史そのものを、今私たちに向けて映し出している。

本書は、1970年代から現在まで継続して撮影されている「THEATERS」シリーズの中でも、今まで未発表だった21作品が新たに収録された。また、廃墟化した映画館で撮られた最新作「廃墟劇場」シリーズも併せて、計151点が収録された決定版だ。映画館の数だけある、その空気、その歴史は、一枚の写真の中で、今でもひっそりと時を刻んでいることが、不思議と伝わる一冊となっている。

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