「暦年贈与」で賢く節税。相続税が大きく軽減できるって本当?
ファイナンシャルフィールド / 2021年3月17日 22時30分
高齢になればなるほど、自分の財産を子どもなどにうまく移転し、できるだけ相続額を軽減したい、と考えるようになります。
財産をすべて保有していると、自身の身に何かあった際、相続する人が、多くの相続税を支払うことになります。「元気だから」と先送りすることは禁物です。
相続対策は早めの準備が基本
相続税の基礎控除額が引き下げられ、多くの人が相続税を納める時代になりました。イザという時はいつ来るかわかりませんので、事前に準備することが望まれます。特に親子関係などが複雑だと相続人の数も多くなり、相続の現実に直面した際に思わぬトラブルになりかねません。その対応策として、事前に準備できるのが「生前贈与」の活用です。
生前贈与は、金額により贈与税がかかります。相続税に比べると税率は高いのですが、(1)贈与者の判断で贈与できる、(2)何回でも贈与できる、(3)親族以外誰にでも贈与できる、といったメリットがあります。
総資産が5000万円以上ある人であれば、相続税が発生する確率は高くなります(相続人の数で控除額が変わる)ので、可能な限り相続財産を減らす作業は進めたいものです。孫に対してならば、1500万円まで「教育資金」として無税で贈与できる制度もありますが、ここでは誰でもできる一般的な「暦年贈与」を考えます。
小まめな暦年贈与で節税できる
「暦年贈与」とは、何年かに渡って続けて贈与を続けていく方法で、毎年110万円の控除が使えます。すなわち110万円を超えない範囲であれば、誰に贈与しても、贈与税はかからない仕組みです。
例えば、65歳の父親が2人の子どもに各600万円、合計1200万円を贈与するケースを考えます。もし1人に600万円を1回で贈与する時の贈与税を計算します。
600万円(贈与額)―110万円(控除額)=490万円(課税価格)
490万円(課税価格)×0.2―30万円(控除額)=68万円
すなわち、1人が68万円、2人で136万円の贈与税を支払う必要があります。
では「暦年贈与」をした場合はどうでしょうか。6年間かけて毎年1人に100万円ずつ贈与したケースで考えてみます。各年の贈与額は100万円です。
税額を計算すると、
100万円(贈与額)―110万円(控除額)=―10万円
となります。
贈与の金額が110万円以下ですので、贈与税は支払う必要はありません。申告義務もありませんが、贈与者と贈与契約書を毎年作成し、銀行口座などに移転金額を記帳しておくことをお勧めします。
このケースでは、2人の子どもに合計1200万円を6年かけて贈与しましたが、贈与税をまったく支払わなくて済みました。毎年手続きを行い、記録を残しておく手間はありますが、節税効果は大きいはずです。子どもだけでなく、子の配偶者、孫、甥・姪に対しても、この暦年贈与はできます。
贈与額が大きくても暦年贈与は効果あり
贈与額が高額になるとどうでしょうか。子どもが1人しかいないために、60歳の父親が3000万円を贈与し、相続財産を減らしたいと考えました。一度に3000万円を贈与すると、贈与税は非常に高額になります。贈与額が多いと税率も変わるからです。
3000万円(贈与額)―110万円(控除額)=2890万円(課税価格)
2890万円(課税価格)×0.45―265万円(控除額)=1349万5000円
贈与税は相続税に比べ高額なため、贈与された子どもは1300万円以上の贈与税を支払うことになります。贈与をせずに相続時まで待つ選択肢もありそうです。
では暦年贈与を使い、60歳から10年間をかけて、年に300万円ずつを贈与した場合を考えてみます。
300万円(贈与額)―110万円(控除額)=190万円(課税価格)
190万円(課税価格)×0.1=19万円
19万円(各年の納税額)×10年=190万円
となります。
毎年19万円の贈与税を支払い、10年間続けたとしても、支払総額は190万円で済みます。贈与者の年齢が若ければ、より確実になります。
毎年、贈与税申告書を作成し納税する手間は大変ですが、贈与税の総額が1100万円以上も変わってきますので、暦年贈与は賢い節税です。毎年同額贈与の契約だと、一括贈与の分割移転と認定される可能性もありますので、毎年契約書の作成時に、贈与額も同額ではなく、年によって金額に差をつけ、税額も変える工夫も必要です。
贈与税の特性を正しく理解
贈与税は贈与金額に応じて税率が変わる仕組みです。年間で110万円以下の贈与であれば、税額はかかりません。110万円を控除した課税価格が200万円以下の場合、贈与税率は10%ですが、これが4000万円を超えると50%に近い税率です。
数千万円単位の一括贈与は税額も大きくなるため、非常に不利になります。相続の機会が発生しそうなので、急いで生前贈与をしたいと考えても、税率が高いために最終的には相続税で対応するケースも多いようです。早くから準備することが基本です。
贈与は子どもや孫だけでなく、誰に対しても行える仕組みで、相続財産をかなり減額できます。ただ父母や祖父母など直系尊属から贈与される場合と、それ以外の親族や他人から贈与さる場合とでは、贈与税率が若干異なっています。直系尊属から受ける場合を「特例贈与」、それ以外を「一般贈与」と呼び、課税価格が300万円を超えると、税率が5~10%ずつ差がつきます。
いずれにせよ、相続の機会が近くなって、慌てて行動するよりは、元気な時から時間をかけて相続財産を減らしていく努力が必要です。その際に、暦年贈与は有力な選択肢といえます。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。
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