障害年金ヒント集(10) カルテは保存されていたけれど…
ファイナンシャルフィールド / 2021年4月27日 11時0分
年金の相談を受けていると、「障害年金をもらいたい。でも、ハードルが高くて…」と悩んでおられる人がたくさんいることがわかります。
確かに、障害年金を受給するには、いくつものハードルがあります。しかし、取り組み方をちょっと変えると、うまくハードルを越えられる場合もあります。
悩んでいる人たちへの受給のためのヒント集です。第10回は「カルテは保存されていたけれど…」です。
診断書の作成を誰に依頼するか
前回は、主治医が診断書の作成を渋るときがテーマでした。今回は、かつて受診していた病院にカルテが保存されているのに、当時の主治医がすでに亡くなっていたり、医師を辞めていたり、あるいは他の病院に移っていたりした場合です。
障害年金の請求方法でいえば、障害認定日当時の症状で裁定請求をする「障害認定日請求」が該当します。障害認定日から年月がたっていると、カルテが保存されているだけでも大助かりなのですが、今度は「誰に診断書の作成を依頼するか」が問題になります。
現在の医師に依頼するが一般的
【1】当時の病院にいる現在の医師に依頼する
最も自然な流れです。ただし、依頼を受けた医師は、自身が一度も診察をしたことのない患者の当時の症状を、保存されているカルテを頼りに診断書に書き込むことになります。
それだけでも大変なのですが、カルテが手書きだったりすると、文字や図が判読しにくいことがありますし、診断書の作成に必要な検査データが足りず、苦労をする場合が少なくないそうです。
このため、診断書の作成を依頼する場合は、当時の日常生活や症状などを自分なりに文章にして、診断書を作成してくれる医師に参考資料として渡して、読んでもらうようにすると良いでしょう。
なお、医師が自ら診察をしていない場合には、診断書を作成・交付することはできないという医師法の規定(*1)がありますので、診断書の末尾の「上記のとおり、診断します」との文言を二重線で抹消し、「上記のとおり、診療録に記載されていることを証明します」(*2)と書き換えてもらいます。
こうすることで、診断をした医師が作成した診断書と、カルテに基づいて作成した診断書の区別がはっきりします。
時々あることですが、医師法の規定を理由として診断書の作成を断られる問題も解消できるでしょう。
最もよくわかっているのは当時の主治医
【2】当時の主治医を探し出して依頼する
やはり、当時の症状を最もよくわかっているのは当時の主治医ですから、積極的に病院などに問い合わせて、探し出すのが1番です。
しかし、当時の主治医もカルテがないと、診断書を作成できません。当時の病院に対してカルテ開示を求め、入手したカルテのコピーを当時の主治医に渡し、診断書の作成を依頼します。
この場合、病院名が異なりますので、診断書の備考欄に、例えば「当時、〇〇病院で〇〇さんの主治医として診療に当たっていた。〇〇病院が開示した当時の診療録を基に診断書を作成した」などと書き加えてもらいます。
年数がたっていて、当時の記憶が薄れていると困りますから、上記【1】と同様に、当時の日常生活や症状などを文章にまとめ、医師に渡して読んでもらうようにすると良いでしょう。
なお、保険者から、当時のカルテのコピーを提出するように求められる可能性があります。あらかじめ、カルテのコピーを余分に作っておくと安心です。
最後の手段として、現在の主治医に
【3】現在の主治医に依頼する
上記【1】【2】が難航する場合は、最後の手段として、現在の主治医に診断書の作成を依頼します。上記【2】と同様に、当時の病院に対してカルテ開示を求め、入手したカルテのコピーを現在の主治医に渡します。
この場合も、診断書の備考欄に、現在の主治医が当時の病院のカルテを基にして診断書を作成したことを書き加えてもらいます。また、現在の主治医は昔の症状を直接には知りませんから、当時の日常生活や症状などを文章にまとめ、医師に渡して、読んでもらうようにします。
なお、上記【1】と同様に、診断書の末尾の「上記のとおり、診断します」との文言を「上記のとおり、診療録に記載されていることを証明します」に訂正してもらいます。この場合も、保険者から、当時のカルテのコピーを提出するように求められる可能性があります。
(*1)医師法第20条 医師は、自ら診察しないで治療をし、もしくは診断書もしくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書もしくは死産証書を交付し、または自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。(以下略)
(*2)「診療録」は、「カルテ」を意味する法律用語
執筆者:和田隆
ファイナンシャル・プランナー(AFP)、特定社会保険労務士、社会福祉士
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