自筆証書遺言を書いて、かえって争族になった?
ファイナンシャルフィールド / 2021年6月29日 22時10分
昨年の7月から、法務局での「自筆証書遺言」の保管制度が始まり、遺言書の形式上の誤りや保管についての心配が少なくなりました。しかし、その内容までは法務局でチェックしません。 せっかく「争族とならないように」と遺言を書いても、その内容によっては逆にトラブルを引き起こすことになりかねません。 そこで、自筆証書遺言を書いて、かえって争族とならないために理解しておきたい「遺留分」「遺言執行者」「付言事項」についてまとめました。
そもそも自筆証書遺言とは
遺言には、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。公正証書遺言は、証人二人のもと、公証人が遺言者の口述した本文や財産目録などを遺言書として記述し、公証役場で保管するので間違いが少ないのですが、費用が一般的に数万円から十数万円かかり、ややハードルが高いといえます。
それに対して自筆証書遺言は、決められた形式にのっとり本文を自筆で書かなければなりませんが、ほとんど費用がかからず、気軽に書けるというメリットがあります。また、昨年7月から法務局での保管制度も始まるなど、利用しやすくなっています。
では、自筆証書遺言を書く際に理解しておきたいポイントについて見ていきましょう。
遺留分とは
民法では、「遺留分」として相続人が最低限取得できる遺産の割合を定めています。この権利は遺言の内容よりも優先されます。遺言で遺産の配分を指定するときは、この遺留分に注意しないと、争族のもとになります。相続人と遺留分の関係は図1の通りに定められています。
例えば、夫婦2人と子2人の4人家族がいたとします。夫が「妻に全財産を相続させる」と遺言に書いたとしても、子2人はそれぞれ8分の1ずつの遺留分があるため、母親(被相続人の妻)に遺産のうち8分の1に相当する分を金銭で払うように請求できます。これを遺留分侵害額請求権といいます。
ただし、これは相続が開始され遺留分が侵害されていることを知ったときから1年(または相続開始から10年)以内に請求しないと時効となるので注意が必要です。
このような例では、実の母親に子が遺留分を請求することは少ないかもしれません。しかし、例えば父親が再婚して前妻の子らと音信不通になっているケースなどでは、有り得ると思いませんか。
遺言執行者とは
せっかく苦労して遺言を書いても、相続人たちがその遺言通りに執行するとは限りません。相続人全員が合意する遺産分割協議書を作成すれば、遺言よりも優先されます。
しかし、遺言の内容が無視され、遺産をめぐって相続人同士が揉めてしまうケースもしばしばあります。そのようなことがないように、遺言に「遺言執行者」を指定しておけば、その遺言執行者は遺言に従って必要な手続きを行ってくれます。また遺言執行者は、「認知」や「相続人の廃除」など民法で定められた法律行為もできます。
遺言執行者には、未成年者や破産者を除いて誰でもなれます。自分の子を遺言執行者に指定することもできますが、相続人として当事者であること、相続手続きに詳しくないと苦労することなどを考慮すると、費用はかかりますが弁護士や司法書士などの専門家に依頼する方が無難かもしれません。
付言事項とは
「付言事項」とは、相続人などへの自分の思いや、なぜそのような遺産配分にしたかの理由などを遺言の最後に書くことです。付言事項に法的効力はありませんが、これによって自分の思いを伝え、遺言の内容をよく理解してもらうことで、いらぬ争族を回避することができます。
例えば、幼いころにかわいがっていた特定の孫に遺産の一部をあげたいと思ったら、次のように付言事項を書いておけば、相続人の理解が得られやすいでしょう。
「(付言事項)孫のXX子は、一緒に暮らしてきて、何かと幼いころから面倒をみてきました。素直で優しい子だったので、私も癒やされました。それで、私が亡くなったときには、XX子に私の○○銀行から100万円をあげたいと思います。」
この例のように、相続人以外の人に遺産を遺贈したい場合などでは、その理由を付言事項として書くことで、相続人との争いを避けることができます。
終わりに
「遺書」と「遺言」は違います。遺書は死ぬ間際に書きますが、遺言は15歳から有効で、いつ書いても構いません。しかし、せっかく書いた遺言で、かえって相続が争族となってしまっては本末転倒です。
そんな争族にならないためにも、「遺留分」に配慮して遺産配分し、また「遺言執行者」を明確にして遺言執行を確実なものとし、「付言事項」を書いて、相続人全てに自分の思いを理解してもらうことが大切です。
執筆者:村川賢
一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)
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