2022年4月に改正された「育児・介護休業法」。改正に至った背景とポイントとは?
ファイナンシャルフィールド / 2022年7月12日 8時20分
2022年4月に「育児・介護休業法」が改正され、2ヶ月が経過しました。なかにはすでに改正後の制度に基づいて、育児休業を取得した人もいらっしゃるのではないでしょうか? この「育児・介護休業法」は、これから段階的に改正内容が施行される予定ですが、今回改正に至った背景にはどのような問題があったのでしょうか? 改正のポイントとあわせて解説します。
育児休業取得率の差
少子高齢化による人口減少が問題となっている日本において、出産や育児をきっかけに離職することなく、男女ともに仕事と育児を両立できる社会を実現する目的で創設された育児・介護休業制度ですが、実際に育児休業を取得する割合については、男女に大きな差がみられています。
■男女別育児休業取得率
厚生労働省が発表している令和2年度雇用均等基本調査(※1)によると、女性の育児休業取得率は、過去10年以上80%台を推移しており、令和2年度は81.6%でした。これに対し、男性の取得率は令和元年においても10%に満たない値(7.48%)となっています。
ただ、令和2年には、それが一気に12.65%まで上昇していることは注目すべきといえます。ちなみに、政府が目標としている男性の育児休業取得率の値は、令和7(2025)年で30%(※2)となっており、数値的にはまだ半分にも達していないのが現状です。
■男性の育児休業取得希望が高まっている
また、「仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書(平成30年度)」(※3)によると、正社員の男性において、出産や育児に関する休暇取得を希望していた人のうち、会社に制度が設けられており、それを利用した人の割合は約20%となっています。
反面、制度の利用を希望していたけれど、利用しなかった割合は37.5%、中でも会社に制度が設けられているにもかかわらず利用しなかった(利用しなかったけれど実際に利用したかった)人の割合は24.7%と、最も多くの割合を占めていることが分かります。
また、育児のために休暇や休業を取得したが、育児休業制度は利用しなかった理由の1位は「収入を減らしたくなかった」となっており、次いで「休業を取得しづらい雰囲気だった」ことや「残業が多いなど、業務が繁忙であったから」となっています(※4)。
育児と仕事の両立の難しさ
また、女性の場合も、妊娠や出産を機に退職している人が多く、その理由の1位に上がっているのが「仕事は続けたかったけれども、両立が難しい」というものです。
さらに具体的な理由を聞いてみると、「自分の気力や体力が持たない」となっており、改めて日本の女性の就業継続に対し、周囲の協力が得られない状況が浮き彫りになっているといえます。実際に、6歳未満の子どもを持つ夫の、家事や育児に関連する時間は1時間弱と、国際的にみても低い水準にあります。
逆に、夫の協力が得られている(夫の家事や育児時間が長い)ほど、妻の就業継続割合が高くなる傾向にあり、第2子以降もその傾向がみられることが分かっています。
(出典:厚生労働省 育児・介護休業法の改正について ※5)
改正の目的
今回の改正においては、男性の育児休業取得について「取得しやすい環境を作ること」が必要とされ、その内容についても、分割取得を可能にするなど具体性を持ったものになっています。
さらに、企業に対して育児休業の取得率の公表を促すなど、積極的な取り組みを進めて行くことも盛り込まれています。
(出典:厚生労働省 育児・介護休業法の改正について ※5)
改正のポイント
2022年4月1日に施行された内容は、「育児休業を取得しやすい雇用環境の整備」とともに、「該当する労働者に対する個別周知や意向確認」が設けられています。さらに、有期雇用労働者においても、育児休暇を取得できるよう。要件が緩和されたことも注目すべき点といえるでしょう。
また、2022年10月には、育児休業の分割取得や、出生時育児休業の創設が予定されています。そして2023年4月より、従業員数が1000人以上の企業に対して、育児休業取得状況を年に一度公表することが義務づけられるなど、今後の改正にも注目が集まっています。
(出典:厚生労働省 育児・介護休業法 改正ポイントのご案内 令和4年4月1日から3段階で施行 ※6)
まとめ
今回の改正により、事業主側にも就業規則の見直しなど、さまざまな対応が求められています。あわせて労使協定も見直す必要があるでしょう。また、従業員が改正内容を知らなかったなどということがないように、周知はもちろんのこと、社内研修の実施なども求められます。
今回の改正は、男性の育児休暇が義務化されるわけではなく、あくまでも男性がより育児休暇を取得しやすくなるための、職場の雰囲気づくりを支援する内容となっており、今後その効果がどのくらい発揮されるかに期待できそうです。
2025年というと、あと3年です。それまでに現在の男性の育児休業取得率(12.65%)が30%に達することができるように、今後社内はもとより、社会全体での男性の育児休暇取得に対する理解の促進が、より必要になっていくといえるでしょう。
出典
(※1)厚生労働省 「令和2年度雇用均等基本調査」結果を公表します ~女性の管理職割合や育児休業取得率などに関する状況の公表~(令和3年7月30日付)
(※2)厚生労働省 男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集
(※3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング 労働者調査 結果の概要 平成31年2月
(※4)厚生労働省 男性の育児休業取得促進等について
(※5)厚生労働省 育児・介護休業法の改正について
(※6)厚生労働省 育児・介護休業法 改正ポイントのご案内 令和4年4月1日から3段階で施行
執筆者:新井智美
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士(資産運用)
DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員
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