LIFE MAP合同会社 代表 竹川美奈子さんに聞く– 第2回:イギリスではタクシードライバーもみんな投資をしている!?
ファイナンシャルフィールド / 2018年10月18日 22時15分
人生100年時代と言われるようになりましたが、果たして私たちはビジョンを持って「人生100年」を受け止めているのでしょうか?この対談企画では、様々な分野の方にお話しをお聞きし、人生100年時代のビジョンを読者のみなさんと作り上げていきたいと考えています。 今回は、海外の投資事情にも詳しいファイナンシャル・ジャーナリストの竹川美奈子さんに日本との違いなどを伺います。
まずいのは、団塊世代よりもむしろ現役の私たちのほう
山中:竹川さんが、世の中に情報発信をされる、その原動力って何なんでしょう?
竹川:私はもともとメディア出身なので、わかりやすく投資信託や投資についてお伝えしたい、という気持ちがあります。例えば、10年ほど前にマネー雑誌で投資信託を運用するファンドマネジャーの方にインタビューすると、専門用語や横文字のオンパレード。当時は機関投資家や販売会社向けに説明されることが多く、一般の投資家さんに向けてわかりやすくお話してくださる方はごく一部でした。
なので、私は”翻訳家”になったつもりで、正確性は保ちながら、一般の方が理解できるように伝えられたらよいな、と思ったんです。最初の著書を書くときも、編集者(Cakesを運営する株式会社ピースオブケイク代表取締役CEOの加藤 貞顕さん)から、「おかんに説明するように」「おかんでもわかるように」と何度も言われました(笑)。
山中:元々金融関係のお仕事だったんですか?
竹川:金融機関に勤めたことはないですが、逆に投資家目線でみることができると思っています。最初は新聞社系の出版社に入社し、就職関連の雑誌や単行本の編集などをしていました。その後、親会社の新聞社に出向してキャリアやライフデザインなどの記事を書いていました。その頃は紙面でパーソナルファイナンスを取り上げる機会はほとんどなかったですね。当時はツラかったですが、デスクに何度も何度も書き直しをさせられたことがその後の仕事に役立ちました。
29歳の時に転職しました。団塊世代の大量退職を控え、米国のNPOであるAARP(全米退職者協会)の日本版のようなものを作れないとかという話があったからです。どんなコンテンツ・サービスを作るか、特に土台となるお金についてリサーチをしました。が、専門家に話を聞いたりして調べれば調べるほど、真剣にお金について考えなくてはいけないのは団塊世代よりむしろ私たちだ、とだんだん思い始めて…。
山中:他人事じゃなくて、自分事
竹川: そうですね。以前勤めていた会社では株好きの上司も多かったのですが、もっと広い視野で体系的にパーソナルファイナンスを学んだ方がいいと思い、FP(ファイナンシャルプランナー)の資格をとろうと思いました。90年代後半は銀行や証券会社が破綻するなど、景気が傾いてきていて、新規事業の立ち上げが厳しそうだと肌で感じたこともあって、夕方6時には会社をでて同僚と2人で学校に通いました。
山中:初めてFPの勉強をされた時、どんな印象を受けました?
竹川:長期的な視野に立ってマネープランを考えるというのは、お金に置き換わっているだけで、基本的な考え方はこれまで仕事でかかわってきたキャリアプランニングと共通点が多いと思いました。
山中:なるほど。
竹川:結局、新規事業の立ち上げはなくなり、独立することにしました。個人事業主になり、いろいろ考えましたね。例えば、会社員と違い、これから加入するのは国民年金保険だけになりますから、将来受け取る老齢年金は会社員を続けた場合と比べると大幅に減ります。このままではマズいぞ、と。自分ごととして計画的に資産形成しないといけないと思いました。
もう一つは仕事に関してです。90年代の後半は株式の売買委託手数料が自由化されてネット証券ができ、独立系の直販投信も登場しました。2001年からは確定拠出年金も導入されて退職金を自分で作っていくという流れもできました。
そうした動きをみて、「これからは個人も人生を通してお金のことをマネジメントしていく必要がある」「資産運用はもっと身近になる」と思ったんです。ビジネス誌なども含め、いろいろ仕事をしていましたが、思い切って「お金」「投資」に特化しようと決めました。
山中:大英断ですね。
竹川:当時は変化に対する期待感も大きかったですから。ただ、20年近く経って、その変化は思ったよりは遅かったなという印象です。
普通の人が当たり前のように資産形成をする時代に
山中:竹川さんは、NISA(少額投資非課税制度)の導入に際してはイギリスに視察に行かれたりして、海外の事情にも詳しいのですが一般の方の投資事情も日本はやっぱり遅れていますか?
竹川:英国に視察に行ったとき、空港からタクシーに乗ったのですが、ご一緒した方がタクシーの運転手さんに「Individual Savings Accountを持っていますか?」と正式名称で尋ねたんです。そうしたら、あっさり「あっ、ISA(アイサ)ね。持ってるよ! 妻も持ってるし、26歳の息子も持ってる」と言うんです。正式名称じゃなくても普通に通じるんだと驚きました。
山中:当時、イギリスでは制度導入から何年ぐらい経っていたんでしょうか?
竹川:1999年に導入されましたから、14年くらい経っていましたね。
山中:日本ではNISAより先に確定拠出年金が始まって20年近く経過していますが、タクシーの運転手さんで分かる人、少ないんじゃないでしょうか。
竹川:「iDeCo(個人型確定拠出年金)に入ってますか」とか、「つみたてNISAと一般NISAのどちらを使っていますか」と聞いても、どれくらいの方が分かってくれるでしょうね…。
英国は当時でも対象者の約4割が制度を利用していたので、普及度合いがそもそも違います。利用者に話を聞いても、「子供が生まれたからジュニアNISAの加入を考える」から一歩進んで、「自分のISAとジュニアISAをどう使い分けようか」とか、「どんな商品を利用しようか」というように、資産運用の目的や期間などに応じて利用方法を検討していました。
英国の場合、制度導入から7年経過後に、若年層や富裕層以外の人たちも利用していると検証できたので、制度が恒久化されたことも大きいですね。利用者も安心して使えます。日本は最終的にどういう形になるのかがまだわかりません。つみたてNISAもできて、制度自体が複雑になってしまって。
山中:確かに、どちらか一方を選ぶとか、その判断基準はどうするんだとか、分かりづらいですよね。
竹川:ほんとうは、資産形成の大切さなど、本質的な話をしたいのですが、現状ではiDeCoや一般NISA、つみたてNISAなど複数の制度の説明や違いなどをお話する必要があり、どうしても制度の話に時間を取られてしまうのが悩みですね。日本での資産形成を根づかせる、NISAの恒久化を含め、シンプルでわかりやすい、利用者にとって使いやすい制度になっていってほしいなと思います。
interviewer:山中伸枝(やまなか のぶえ)
ファイナンシャルプランナー(CFP)
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