曲がり角にきた「相続対策」不動産の建設
ファイナンシャルフィールド / 2019年7月13日 1時0分
相続税対策の一つとして進められてきた、空き地に賃貸住宅を建てる方法が、最近見直されようとしています。 土地活用自体は必要なことなのですが、節税効果が大きく働くとして、金融機関や住宅メーカーが主導してきた賃貸住宅の建設に、最近になってブレーキがかかろうとしています。
更地は、税制上は非常に不利
広い土地をそのままにしていると、相続税が多額になることは確かです。そのため、賃貸アパートや賃貸マンションを建設すると、更地としての評価額よりも、貸家のある土地の評価額は大きく下がります。
建物部分についても、貸間の比率に応じて固定資産税の減額もできます。さらに自己資金があっても、建築資金の融資を受けていれば、借入金はマイナスの資産となるため、相続財産額自体を大きく減額することができます。
10年以上前から、金融機関が貸出先の一つとして土地所有者に眼をつけ、相続税対策の一つとして賃貸物件向けの融資に積極的になりました。それに住宅メーカーが呼応し、多くの賃貸物件がつくられてきました。
とくに注目すべきは、都心部ではなく、少し広めの土地がある郊外に多く建設されたことです。都心部では広い土地はあまり存在しないため、郊外の土地所有者をターゲットにしてきました。
さらに、相続税対策に悩む土地所有者だけでなく、賃貸物件のオーナーを募り資金を集め、賃貸マンションなどを建設する会社も増えてきました。部屋数などから賃貸収入を甘くシミュレーションし、「このくらいまで融資が受けられます」として、できるだけ多くの金額を融資できる仕組みを設計しました。
とくに貸出先を見つけるのに苦労をしていた地方の金融機関が、この仕組みを熱心に推進しました。ここに活路を見出そうとした金融機関は多かったはずです。
しかし、同じような建物が同じ地域に林立するようでは空室率も高まり、思うように賃貸収入が得られないことが実際に起こり始めます。
転機となった有力地銀による過剰融資
少子高齢化社会に突入している日本では、このような賃貸経営のモデルが、どこの地域でも長期に続くことは不可能といえます。とくに郊外での賃貸物件の空室率が非常に高くなったことで、問題点が見えてきました。
その代表例が、スルガ銀行による不動産融資です。これまでは地方銀行の優等生とまで思われてきた同行ですが、賃貸物件に対しては、やや過剰とも思える融資を実際には行っていました。
融資に必要な担保の設定が十分でない、また個人オーナーを希望者への審査書類の年収把握などが十分でない、といった問題点が明らかになりました。
自己資金に余裕のある土地所有者や高額所得者ならば、賃貸物件の空室率が多少高くても、持ちこたえることができます。しかし、比較的収入の少ない会社員などに対しても、「賃貸収入があるので安心」と持ち掛けオーナーになることを奨める販売会社もありました。
「かぼちゃの馬車」という名称で高い家賃保証を謳い、女性専用のシェアハウスを会社員などに販売していた会社などはその代表で、顧客に金融機関を紹介、多額の融資を受けさせていました。
この会社が倒産したため、謳い文句を信じてシェアハウスを購入した個人オーナーの多くが、負債を抱え社会問題になりました。
会社員など多くの人が「銀行預金は金利が低い」と考え、投資目的で金融機関から融資を受け賃貸不動産のオーナーになっていました。こうした人は、自己資金も少ないため、プラン通りの賃貸収入が確保できなければ、借入金の返済ができなくなります。
「かぼちゃの馬車」のケースだけでなく、出資者を募り賃貸物件を販売した会社の多くが、オーナー希望者の返済計画に無理があっても融資先を紹介していました。
同時に、融資をする金融機関や販売会社だけでなく、建物の施工会社にも問題があることが明らかになりました。シェアハウスの多くを施工していた企業の手抜き工事も判明し、節税目的の不動産への警戒感が高まっています。
今後の節税モデル構築は容易ではない
金融庁も金融機関の安易な不動産融資に対しては、厳しい姿勢で対応するようになりました。金融機関の審査も厳しくなり、担保物件の設定や家賃収入の見通しなど厳しくチェックするように方向転換しています。
融資決定の基準も厳しくなり、賃貸アパートが林立して空室率の高い地域では、こうした節税目的の不動産は建設しづらくなっています。
相続税対策の一環として賃貸不動産の建設を考える人にとっては、金融機関や住宅メーカーの提示する家賃見通しよりも、さらに厳しい数値を念頭におき、建物の建設が可能かどうか、慎重な判断が求められます。融資を受けずに自己資金だけで建設する人でも、厳格な収支計算は必要になります。
今後も、地価や家賃収入が下落しないと思われる地域は、大都市の一部に限られます。この傾向は今後顕著になると思われます。
とくに2020年の東京オリンピック終了後には、人口減少社会の影響を受けることも考慮すると、相続税対策として、こうした節税モデルを利用することは、難しくなると予想できます。地価や家賃収入の下落傾向が、ほぼ確実だからです。
また、複数の賃貸物件を所有するオーナーに対して、税務当局の眼も厳しくなっています。相続税対策の意味から、オーナー一族で複数の賃貸マンションやアパートを所有し、管理もしている会社がかなりあります。仕事に関係していない親族に対しても、給与が支払われているケースもあります。
こうした親族中心の管理会社が、相続財産を減らすことを目的に役員報酬や給与を高く払い過ぎているケースには、是正勧告を行っています。相続財産を減らすことに関心が行き過ぎると、行政からの厳しい監視にも気を付ける必要があります。
執筆者:黒木達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト
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