親の近くに住む「近居」のメリット
ファイナンシャルフィールド / 2019年7月16日 9時0分
核家族化が進行する中、親の近くに住む「近居」が注目されています。親と同居するのは奥様やご主人にもさまざまな負担がありそうなので避けたいが、近くに住みたい、近くならばOKという人は少なくないのではないでしょうか。近居のさまざまなメリットについて考えてみましょう。
進行する核家族化とその弊害
今から30、40年くらい前まで、高齢の親と子のいる夫婦が同居する三世代同居は普通のことでした(以下、三世代の呼び方について祖父母、子、孫としておきます)。
内閣府が公表している「平成29年版高齢社会白書」によると、65歳以上の高齢者のいる世帯は平成27年(2015年)現在2372.4万世帯あり、そのうち三世代世帯は290.6万世帯(12.2%)となっています。
今から約40年前の昭和55年(1980年)では、65歳以上の高齢者がいる世帯数は894.5万世帯。そのうち三世代世帯が425.4万世帯(50.1%)を占めていました。
また、65歳以上の高齢者のいる世帯のうち高齢者のみの世帯についてみると、高齢者夫婦のみの世帯は746.9万世帯(31.5%)、高齢者のお一人住まいの世帯は624.3万世帯(26.3%)となっており、あわせると50%を超えています。
1980年から2015年の、35年間の世帯数の増加率は約1.4倍ですが、それぞれの世帯は小さくなり、高齢者だけの世帯が約2.8倍と大きく増加。
全世帯に占める高齢者がいる世帯の割合は24.0%から47.1%に大きく増加しています。核家族化が進み、家族のあり方、住まい方が大きく変化したことがわかります。
こうした高齢者世帯では夫婦ともお元気なうちはよいのですが、高齢者だけで暮らす世帯が増え、祖父母のどちらかが亡くなればお一人で暮らすことになります。将来のことを考えると、本人もその子も不安を感じるのではないでしょうか。
また、祖父母世帯とのコミュニケーションが円滑でないと、いずれは必ず起きる「相続」が円滑に進まないリスクも高まります。
三世代住居の問題点
三世代が同じ家に同居する場合、住む家も三世代が住むために必要な面積や間取りである必要があります。しかし、流通しているマンションや一戸建てではそれに適した物件も少なく、また注文住宅で建てた場合、祖父母の世代が亡くなった後には使いきれない大きさの建物が残ってしまいます。
こうした物件を売却しようと考えた場合には、土地建物の面積が大きいため価格が高くなり、三世代居住が一般的ではなくなった現在では需要も少なく、スムーズに売却できないことも想定されます。
最近の注文住宅では、祖父母が元気な間は同居し、使わなくなった時には賃貸できるように計画される建物も見受けられます。住宅展示場ではそうした想定で建てられたモデルハウスも少なくありません。
こうして計画された建物の内部は、玄関や水回りなどの設備もそれぞれ別に確保され、中は完全にセパレートされて動線が交わることはありません。賃貸すれば、賃貸収入も見込め、その後の家計にプラスになるメリットもあります。
一方、いざ賃貸しようと考えた際「同じ建物の中に他人が同居することに抵抗を感じる」という方も少なくありません。そうなると結局使わないスペースが残ってしまうことになります。
近居のメリット
子の立場では「親と近くにいれば何かと安心」「子育てに協力してもらえる」ということもあるでしょう。共働きが増えている今の時代、子育てに祖父母が協力してくれることは心強いと思います。祖父母の立場でも孫といつでも会えることはうれしいに違いありません。
ちなみに、筆者自身も妻と共働きで保育園に通う二人の子供たちがいます。隣には今年90歳になる父が住む家があります。さすがに90歳の父にべったり子供の相手をする体力は望めませんが、ちょっとした時間であれば喜んで預かってくれます。
子供たちも保育園から帰ってくるとそのまま祖父の家に行き、30分から1時間くらい遊んでいます。保育園から帰ってきてから食事の用意をする間預かってくれるので、我が家もとても助かります。
父も孫たちのためにDVDを借りてきて一緒に観たり、子供向けの雑誌を買ってきて付録を一緒に組み立てたりしています。一人で暮らす父ですが、孫との時間を楽しんでいます。
話を元に戻しましょう。また、現在は住宅取得資金として親から贈与を受ける場合、一定の条件のもと贈与税が非課税になる特例があります。相続税について考える場合、相続が発生した時にその人が持っている資産の評価額が課税資産になります。
もし、相続税がかかることが見込まれる場合、資産を計画的に次の世代に引き継いでいくことが相続税を下げる対策にもなります。親の近くに住むということであれば、親の資金面での協力も得やすくなる可能性もあるのではないでしょうか。
相続税のことを考える場合、親と同居するほうがメリットが出るケースもあります。しかし、義理の父・母と同居すると生活習慣や価値観の違いなどもあり、うまくいかないケースも少なくありません。その点「近居」の方が適度な距離感があり、家庭内でのトラブルは少ないでしょう。
地方で一人暮らしをしている祖父母を近くに呼び寄せるというケースもあります。持ち家だけでなく賃貸マンションなどを選択するケースもあります。
年齢を重ねるほど、高齢者の賃貸は入居条件も厳しくなりますが、安定した所得がある子の世帯が近くに住んでいて賃貸契約の保証人となり、頻繁に訪ねていけるような状況であれば入居できる物件も見つけられるでしょう。
最近は高齢者の入居を想定したバリアフリーのマンションや「見守りサービス」などの付加価値が付いた物件も出てきています。
今後、過疎化が進むエリアの不動産は価格が下がるばかりではなく、売却しようにも買い手がつかず「売るに売れない」ということも増えると予想されます。
住み慣れたところを離れることに抵抗があるケースもあると思いますが、生活環境の変化に対応できるのも元気なうち。将来、子の世代に負担を残さないための資産(不動産)の整理を考える機会にもなるのではないでしょうか。
まとめ
日本の住宅事情、特に都心部近郊の住宅事情は三世代同居には厳しくなっている側面もあります。一方で、三世代の距離が近ければ、子育てや高齢者の健康寿命増進にもプラスに働くと考えられます。
核家族化が進むことで、親族間のコミュニケーションの希薄化が懸念されます。三世代同居が当たり前だった時代には、身近に住む祖父母が亡くなるときは、同居していた孫たちにとっても「命の大切さ」を知る機会でもありました。
最近では「50歳を超えても親族の葬儀に参列したことがない」という方もいらっしゃいます。葬儀に参列したことがあったとしても、ほとんど顔を合わせたことのない祖父母は友人よりも遠い存在だったりします。
もちろん様々な事情で親の近くに住むことができない方もいらっしゃるでしょう。それぞれの家庭・家族にはそれぞれの環境があり、すべての方に当てはまるものではありません。しかし「近居」という選択肢があり得るご家族にとって、そのメリットは小さくないでしょう。
働く世代が働きやすい環境と、高齢者と子どもたちが良い関係で過ごせる。そうした家庭が増えることは、将来の日本にとってもきっとプラスになると思うのです。
<参照>
内閣府「平成29年版高齢社会白書」
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役
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