父の財産、母に多めに相続しておけば相続税は問題ない?母が亡くなった後に問題が生じることも
ファイナンシャルフィールド / 2019年9月4日 8時30分
国税庁の発表によると、平成29年中に亡くなられた方(被相続人等)は約134万人、そのうち相続税の課税対象となった被相続人数は11万2000人で、課税割合は8.3%でした。相続税法改正の影響で平成27年度から被相続人数が急激に拡大し、課税割合も上昇傾向にあります。 今回は、典型的な家族構成であるご夫婦(父と母)と子ども2人の場合に、大黒柱である父が亡くなった場合の一次相続と、その後に母が亡くなった場合の二次相続までの影響を考えてみたいと思います。
自宅は奥さまに相続すれば税金がかからないので大丈夫!?
まず、父が亡くなった場合の一次相続では、さまざまな控除などを有効活用することで相続税が発生しない場合も多いと思われます。特に配偶者に対しては、その後の生活への配慮や遺産に対する配偶者による貢献などを考慮して、大幅な税額軽減措置があります。
1、基礎控除額
遺産に係る基礎控除額は、3000万円+(600万円×法定相続人の数)です。上記の事例では、法定相続人は3人(母と子2人)となるため、4800万円までは相続税はかかりません。
相続税法上の法定相続人の数には、仮に何かしらの事情で相続放棄した方もその数に含めることとされています。通常一次相続ではより大きな基礎控除額が使えることとなります。
2、配偶者の税額軽減
配偶者の取得分が法定相続分相当額の場合、または1億6000万円以下の場合、相続税はかかりません。
「一次相続においては、奥さまに多くの財産(例えば、ご自宅など)を相続しておけば、相続税もかからないので全く問題なし」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。果たして、その相続対策だけで大丈夫でしょうか?
3、その他の控除
さらに、条件が合えば、未成年者控除、障害者控除なども適用されます。
4、小規模宅地等の評価減の特例
居住用(自宅)の宅地の相続税評価額が一定の条件で80%減額される制度です。配偶者の場合には無条件で適用が可能ですので、一次相続では利用できるケースが多いと思います。
子が適用する場合には、同居しているなどの要件があります。(同居していないが持ち家の無い家なき子でも適用できる場合あり)
二次相続が発生した場合
父が亡くなった数年後に母が亡くなり相続が発生しました。これを二次相続と言います。二次相続の場合の注意点は、一次相続と比べて各控除の適用の幅が狭まるケースが多いということです。つまり、相続税額が高くなることが想定されます。
まず、基礎控除額が減少します。上記の事例では法定相続人が子の2人のみに減少します。そのため、基礎控除額も4200万円に減少します。また、相続税額の計算に最も大きな影響を及ぼす配偶者の税額軽減は利用できません。
さらに、小規模宅地等の評価減の特例は子が母と同居している場合は適用できるケースもありますが、同居しておらず適用できない場合には、宅地に対して高い割合で課税されることが避けられません。
自宅1億、現金5000万円のシミュレーション
法定相続分で一次相続、二次相続をシミュレーションしてみましょう。
1、一次相続
基礎控除額 4800万円
課税遺産総額 1億5000万円-4800万円=1億200万円
母(1/2)5100万円 配偶者の税額軽減で相続税は 0円
子(1/4ずつ)2550万円ずつ 相続税額は 332.5万円ずつ 2人分合計665万円
2、二次相続
基礎控除額 4200万円
課税遺産総額 7500万円-4200万円=3300万円
子(1/2ずつ)1650万円ずつ 相続税額は 197.5万円ずつ 2人分合計395万円
まとめ
上記シミュレーションでは、小規模宅地等の評価減の特例を適用したり、母に自宅を全て相続させたりすることで結果も変わってきます。
また、10年以内に相次いで相続が発生した場合に一次相続で支払った相続税額のうち、一定の額を控除できる相次相続制度などもあります。ただし、一次相続で母が相続税を払っていなければ利用できませんので注意が必要です。
今回は、夫婦と子2人の家族構成を想定し、事例を記載しました。もし、1人っ子の場合に、何も事前の対策を講じていないとすると二次相続の際にはより大変になることが想像できると思います。
このように、それぞれの家族構成や保有資産の状況などにより、相続対策は複雑で多様なパターンがあります。少しでも心配になった方は、相続対策について一度専門家にご相談されることをお勧めいたします。相続対策の検討開始は早ければ早いほど良いのです。
出典
国税庁「平成29年分の相続税の申告状況について」
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー
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