相続した不動産、登記しないとどうなる?
ファイナンシャルフィールド / 2019年10月2日 8時30分
相続財産の約半分を占めると言われる土地、建物などの不動産。不動産の独特の性質のために、相続が発生したときにはもめる原因になることが少なくありません。相続対策を考える場合、生前から確認、準備しておくことがいくつかあります。 その中の一つが所有権の変更登記をしていない不動産の名義変更です。自分が所有している不動産の登記が先代の所有者のまま名義変更されていない場合、生前に必ず名義変更しておくべきです。ここでは、不動産の名義変更をしなかった場合にどんな問題が発生するか考えます。
不動産の所有権移転登記は義務ではない
意外なようですが、不動産の登記は義務ではありません。
不動産には必ず所有者がいます。一般的に不動産の所有者は所有権などの権利を登記します。不動産に抵当権などを設定している権利者は抵当権の設定を登記します。登記簿にはその他にもその不動産に設定されるさまざまな権利や情報が登記されます。
不動産を売買によって取得する場合、売主から買主へ物件の引渡しと同時に司法書士も立ち会い、登記手続きに必要な書類を受け取り、その日のうちに所有権の移転や抵当権の抹消登記の手続きを行うことが常識です。
一般的な売買契約は売主の「売ります」、買主の「買います」の意思表示で成立しますが、不動産の場合は契約書を取り交わすことが必要です。
なぜなら、高額になる場合が多いことや、物件のさまざまな特徴、売買条件を含めた細かい事項を双方で確認しておかないと、後にトラブルになった場合の影響も大きくなってしまいます。そのため、不動産取引の際には必ず重要事項説明を行い、売買契約書を取り交わします。
しかし、当事者同士の売買契約だけでは第三者に対抗することができません。もし仮に、売主が別の人とも売買契約を交わしてしまい、後から契約した人が先に登記してしまった場合、登記した人が正当な所有者として扱われることになってしまいます。
もし抵当権が抹消されないまま放置され、後に抵当権が実行されてしまうと取得した人が大事な不動産を失うことにもなりかねません。生活や事業の基礎である大事な不動産をそんな不安定な状況にさらすことのないよう、必ず登記手続きを行うわけです。
不動産登記は所有者などが、自分の正当な権利を対外的にも主張し、侵されないようにするために行うものです。義務ではないけれど、自分の権利を守るために行うべきこと、と言えます。
一方、相続によって所有権が移転する場合、所有権については被相続人と相続人のみ、身内しか当事者にならないケースがほとんどです。遺産分割協議が整い、遺産分割協議書や必要書類を作成して登記所(法務局)へ行けば相続による所有権の移転登記はできます。
しかし、分割協議が整わない間はそのままになってしまうでしょう。なるべく早めに合意して協議を終えるのが先決です。トラブルなく相続が完了した場合でも、すぐに困ることはない場合が多いことや費用がかかることなどから、登記しない場合が少なくありません。
所有者不明の土地が問題に
所有者不明の土地というのは、不動産登記簿等で所有者がすぐにはわからない、あるいはわかったとしても所有者に連絡がつかない土地のことを言います。
登記簿に記載されている所有者がすでに亡くなっていて、相続人とも連絡がつかない場合などが多いと考えられます。現在、所有者不明の土地の面積の日本全国で約20%、九州の面積よりも多いと考えられています。
相続が発生した後、相続登記をしていなくても相続人が固定資産税を納付している不動産も少なくありません。しかし、その相続人が亡くなった時などは所有者不明になってしまうおそれが大きく、亡くなられた人の名義のままになっている不動産はいわば「予備軍」と言えます。
登記していない土地があるまま、相続が発生すると遺された人の作業は非常に複雑になってしまいます。
所有権の変更を登記しないままだとさまざまな問題が発生する恐れが
では、登記を変更しないままにしておくとどんな問題が発生するのでしょう。
・売買や抵当権等の設定ができない
不動産の登記は第三者に対抗するためのものであることは先述のとおりです。もし相続登記をしないままにしていた場合、相続人間では遺産分割協議の結果、誰か一人が相続するとしていたとしても、第三者から見ると所有権が亡くなられた方のままになっていた場合、相続人全員の共有財産という扱いになります。
この不動産を売買する際には共有者全員の合意が必要になり、まず相続登記を行った後に売却することになります。合意内容に基づいて登記する際には共有者全員の実印による捺印と印鑑証明書も必要です。
相続登記をしていない土地に実際は相続人の誰かが住んでいるケースは珍しくありません。もし、その土地の上に立つ家屋を解体し立て直そうと思ったときも問題になる可能性があります。
そのままでは新築する際に住宅ローンの抵当権が設定できず、借り入れができません。家を建てる以外にも、事業をされている人などがその土地を担保に資金を借り入れようとする場合も同じです。
・隣地、周辺の人も困る
その不動産が相続後誰にも管理されていない場合、建物があれば廃墟になって倒壊する危険や害虫害獣などの発生、火災等の危険、犯罪の温床になるなどの危険が発生することもあります。建物がなくても雑草が生い茂り、周辺環境を悪化させてしまいます。
環境の悪化だけでなく、隣地の所有者がわからないと、土地の境界確認ができないなどの問題が生じ、隣地を所有している人が自分の不動産を売却しようとしたとき、隣地の評価を下げてしまう要因にもなりえます。
・自治体などが困る場合も
東日本大震災の際も大きな問題になりましたが、災害が起きた際の復興作業に支障をきたすこともあります。いくら所有者不明といっても私有地である以上誰かのものであり、日本では所有権は非常に強い権利として守られているため、国や地方自治体も容易に手を出せないのが現実です。
都市計画で道路を拡張しようとした時に、計画地の一つがこうした物件であれば利用、収用が進まず、多くの人の迷惑にもなりかねません。
・差し押さえられる場合も
相続人の誰かが借金の返済や、税金の納付を滞納していたような場合、その人の資産が差し押さえられます。その際、相続登記をしないままにしておくと、その不動産も差し押さえの対象になりえます。
余談になりますが、相続に伴う所有権移転を共有で登記する場合も同様の問題になる場合があります。また、その不動産を売却する場合や抵当権を設定する場合には全員の合意が必要になり、一人が反対しただけで身動きが取れなくなります。
時間がたつほど処理が複雑に
相続発生から時間が経過するほど、相続人同士のコミュニケーションも疎遠になり、また、さらに相続が発生すると相続人の数がネズミ算式に増えてしまう可能性があります。
中には連絡が取れなくなってしまう人もいるでしょう。消息不明というだけでなく、海外や遠方に住んでいて顔を合わせることもないという人も出てくるでしょう。共有者が複数いる場合には共有者の一人と連絡が取れないために手続きが進まない、という事態も発生します。
将来、親族が相続することになる不動産。遺された人が登記名義を変更する作業は困難になる可能性が高まります。また、親族だけでなく、周辺に住む人などにも多大な迷惑をかけかねません。
今年に入り「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が全面的に施行されました。所有者不明の土地の利用、所有者の把握に一定の効果はあるでしょうが、所有権という強い権利が対象なことと、時間がたつほどに新たな所有者不明の土地が発生することも懸念されます。
将来的には登記の義務化もあるのではないかと思いますが、所有者自身が自分の権利を守り、遺された人に負担を残さないため、周りの人たちに迷惑をかけないためにも自主的に登記されることが望まれます。
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役
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