【相談実例】貯蓄額7200万円ですが、夫が休業し老後が不安です
ファイナンシャルフィールド / 2020年1月21日 8時30分
水本さん(仮名56歳)は夫の体調不良がきっかけで、老後に不安を持つようになりました。夫の仕事の休業が長引き、このままでは貯蓄が底をついてしまうのではないかと心配になったのです。 しかし、水本さん夫婦の貯蓄額は7200万円です。一般的には十分な貯蓄額と思われます。それでも不安だという理由は何でしょうか
体調悪化による収入減
水本さんの夫は、現在57歳。定年は60歳なので、あと3年あります。しかし、半年前から体調を崩し、現在は休業し、傷病手当金をもらって生活をしています。水本さん自身も体力的に働くことは厳しく、今までずっと専業主婦をしてきました。
水本さんが、今回、老後に不安を持ったのは、夫が休業したことで家計が急に苦しくなったためです。傷病手当金をもらっているものの、傷病手当金は標準報酬月額の3分の2です。
標準報酬月額とは、通勤手当や残業手当等、各種手当を含んだ総支給額を一定の金額ごとに分けたもので、月収と金額はほぼ同じです。傷病手当金は非課税ですが、社会保険料は免除されません。収入が減り、今まで負担に感じていなかった家賃に負担を感じるようになったのです。
休業前後の家計状況
水本さんは夫婦2人で賃貸マンションに住んでおり、現在の家賃は18万円です。家賃は相場より高めということでした。その他の生活費は約20万円なので、月の支出は約38万円です。
一方、今までの夫の月収は約60万円、手取りにすると48万円ほどでした。今回、傷病手当金は約40万円、住民税と社会保険料を差し引くと実質の収入は30万円ほどです。
そのため、休業前は毎月10万円ほど貯蓄ができていましたが、今は毎月8万円の赤字です。そして、老後の年金も夫婦合算で月額30万円の見込み、今と同じレベルの収入となるため、毎月8万円赤字が発生する計算になります。
この先、赤字生活が何十年も続くかもしれないと考えると不安になり、引っ越しを考え始め、夫に引っ越しを提案しました。ところが、夫はあと4ヶ月で復帰できるから引っ越しは不要といいます。
しかし、あと4ヶ月の根拠はありません。水本さんは納得できず、引っ越しがだめなら、今度はマンションの購入を検討し始めました。
心配なのは、老後の収支が見えないから
水本さんには、老後の資金として貯蓄7200万円、退職金1000万円、確定拠出年金400万円があります。本当に生活費が足りないのか検討することにしました。
夫は同意していませんが、もし引っ越しをするとしたら家賃は月10万円ほどに抑えられるということでした。であれば、家賃込みで生活費は30万円になり、年金の範囲で暮らしていけることになります。
一方、引っ越しをしなければ毎月8万円の赤字が決定します。もし、この赤字が40年続けば3840万円の赤字です。とはいえ、貯蓄などで十分カバーできる金額です。
あるいは、マンション購入した場合、購入するマンションの価格は4000万円ほどで、貯蓄で一括購入します。この場合、月々の生活費は20万円ですから毎月10万円の黒字になります。しかし、固定資産税や修繕積み立て、管理費等を考慮すると実質は6万円程度の黒字と予測できます。
支出が最も小さい方法は、家賃が10万円の物件に引っ越すことということがわかります。しかし、マンションを購入するにしろ、今の家に住み続けるにしろ、よほど大きな事故がない限り貯蓄が底をつくとは考えにくいでしょう。
水本さんはそれを知り「そこまで心配する必要はないのですね、安心しました」とおっしゃっていました。貯蓄があるのに不安だったのは、老後の収支が見えていなかったからなのです。
とはいえ、今の生活だと赤字が続きます。もし、夫の体調が悪化すると介護状態になる可能性も否定できません。また、マンションを購入したとしても、いつまでもそのマンションに住めるとも限りません。
なぜなら、高齢で介護状態になり、いつか施設に入るかもしれないことを考えると、マンション購入は長生きに備えた買い物とは必ずしも言い切ることができないのです。
まずは今引っ越しをするかどうかではなく、将来を見据えた住まいについて、夫婦2人で話し合うことをお勧めしました。しかし、家賃が高く家計が苦しい話をしても、夫としては4ヶ月後に復帰すると言い張っているわけですから、話し合うことはできないでしょう。
解決方法は、問題をシンプルに考えること
水本さんは、夫が休業し家計が苦しくなり、今しか見えていませんでした。しかし、夫の病気ともこれから付き合っていくかもしれない、長い目でどのような暮らしをしたいか、夫婦で考えてみますとおっしゃっていました。
老後が不安と思うと、漠然としすぎて何から考えればよいかわからなくなりますが、問題を一つひとつ切り分ければ、シンプルになり考えやすくなります。まずは、具体的に何が一番問題か、その問題の金額を計算してみましょう。それが、解決策を導く第一歩です。
執筆者:前田菜緒
FPオフィス And Asset 代表
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者
確定拠出年金相談ねっと認定FP、2019年FP協会広報スタッフ
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