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相続法改正で何が変わった? ~ 自筆証書遺言の保管制度 ~

ファイナンシャルフィールド / 2020年2月25日 8時30分

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相続法が約40年ぶりに大きく改正され、昨年から今年にかけて順次施行されています。前回は「特別寄与制度の創設」についてお伝えしました。   今回の改正では民法の相続法だけでなく、関連する法律も新たに制定されたものがあります。そのうちの1つ、今回の関連法改正の目玉ともいえるのが「法務局における遺言書の保管等に関する法律」、通称「遺言書保管法」です。   この法律の施行により遺言書を書く時の選択肢として、最も手軽な「自筆証書遺言」を法務局が保管してくれる制度が始まります。本稿では、2020年7月10日から施行される「自筆証書遺言の保管制度」についてお伝えします。  

遺言書の種類

遺言書には「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。
 
「自筆証書遺言」は文字どおり、基本的に自筆で書く遺言書です。2019年1月から要件が一部緩和されていますが、原則は自筆で書き、自分で保管するので最も手軽な遺言書といえるでしょう。
 
「公正証書遺言」は遺言書を公正証書にしたものです。2名の証人が必要になり、公証役場で作成し、原本は公証役場で保管されます。
 
「秘密証書遺言」は公証役場で作成の手続きを行いますが、公証人も内容や様式の不備の有無の確認も行わないため、「誰にも内容を知られたくない」場合に使用されます(実際にはあまり利用される方はいないようです)。
 
手軽なのは「自筆証書遺言」、確実なのは「公正証書遺言」であるといえます。

自筆証書遺言の問題点

自筆証書遺言は手軽であることがメリットですが、デメリットもあります。
 
自筆証書遺言のデメリット
・様式や内容に不備があった場合、無効になる恐れがある
・家庭裁判所の検認が必要
・遺言書を見つけてもらえない可能性も
・改ざん、廃棄される可能性も

 
せっかく書いた遺言書が無効になってしまったり、見つけてもらえなかったりする可能性があるのは問題です。

法務局で自筆証書遺言を預かる制度が始まる

2020年7月10日から「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)が施行され、自筆証書遺言を遺言書保管所(法務局)で保管してもらえます。具体的にどのような仕組みになるか確認しましょう。

■どうやって預ける?

預けることができる遺言書の条件は、定められた様式(法務省令で定められます)で作成された自筆証書遺言です。書面を遺言書保管所で読み取るため、封をしていない状態で申請する必要があります。また、保管を申請するためには、遺言者自身が遺言書保管所に出向く必要があります。代理での申請や出張サービスなどは予定されていません。

■どこに預ける?

保管されるのは法務局ですが、どこの法務局(遺言書保管所)でも良いわけではありません。遺言者の住所地か本籍地、または遺言者が保有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所に申請することになります。
 
自筆証書遺言は何度でも書き換えることができますが、すでに保管されている遺言書がある場合、新たな遺言書の保管を申請する場合には、同じ保管所に申請する必要があります。

■保管の方法

保管を申請した遺言書は遺言書保管所内に原本が保管されるとともに、画像データや遺言書に関わる情報(受遺者=遺言書によって財産を受け取ることを指定された人、遺言執行人があればその情報など)と合わせてデータとして管理されます。

■閲覧、保管の撤回

遺言者自身は、遺言書保管所の受付時間内であればいつでも遺言書を閲覧できます。また、遺言書は書き直すことも、撤回することも可能です。撤回した場合には、預けてある遺言書は返還され、保管されている情報も消去されます。遺言者以外の人は遺言者が存命中は遺言書を閲覧できません。

■遺言者が亡くなった時にはどう扱われる?

遺言者が亡くなられた際には、自分自身が相続人あるいは受遺者となっている遺言書が保管されているかどうかを証明する書面の交付を受けることができます。
 
また、遺言者の相続人、受遺者などは遺言者の死後遺言書の画像データを用いて作成される「遺言書情報証明書」の交付を受けることができ、遺言書の原本も閲覧できるようになります。
 
遺言書保管官は遺言書情報証明書が交付されたこと、あるいは相続人等に遺言書を閲覧させたことを速やかに遺言者の相続人、受遺者、遺言執行者に通知することとされています。遺言者の死亡後に相続人や受遺者は、全国の遺言書保管所のどこかに遺言書が保管されているかどうか調べることができます。

■費用は?

遺言書の保管の申請、あるいは閲覧、証明書の発行を行うためには、遺言書保管所に収入印紙で手数料を支払うことになりますが、この記事を執筆している時点ではその料金については公表されていません。ただ、制度の趣旨から考えても数万円程度かかる公正証書遺言の作成費用に比べれば安価になり、おそらく数百円から数千円程度になるでしょう。

■制度の開始時期は2020年7月10日

自筆遺言証書の保管制度は2020年7月10日以降適用されます。遺言書には作成日付が必要ですが、保管する遺言書もこの日以降に作成されたものでなければなりません。また、自筆証書遺言の要件が緩和されましたが、添付する財産目録などの作成日もこの日以降のものである必要があると考えられます。

■家庭裁判所の検認が不要に

自分で書いて保管してあるだけの自筆遺言証書は、開封前に家庭裁判所の検認を受けなければ法的な効力を持ちません。自分で書いただけの書面は「私文書」ですが、検認を受けることによって「公文書」として扱うことができるようになり、金融機関での資産の移転や名義変更、不動産の相続による所有権移転登記など、さまざまな相続手続きに使えるようになります。
 
しかし、検認手続きには一般的に1、2カ月かかります。自筆の遺言書が見つかった場合、その検認が終わるまでは相続手続きが進められません。内容に不備があれば無効になることもありますし、場合によっては納税資金の確保などを検討しなければなるかもしれません。
 
遺言書保管所に保管された自筆証書遺言は、検認が不要になります。遺言書保管官が様式のチェックを行い、遺言書に形式上の不備はないことを確認したうえで保管してくれると考えられます。
 
ただし、注意が必要なのは、遺言書保管所はあくまでもこうした簡易なチェックと、遺言書を保管してくれる機能を有しているだけだということです。公正証書遺言の場合は、財産の内容や遺言書そのものの作成も公証人が手伝ってくれます。
 
公証役場に行く前に、弁護士や司法書士に作成を依頼する場合もあるでしょう。遺言書保管所に遺言書を預ける場合、その中身、内容の不備まではフォローしてくれないと考えておいたほうが良いでしょう。
 
記載内容があいまいだったりした場合、遺言書の存在は確認できても、遺言書としてきちんと機能するかどうかまでは保証してくれるものではないと考えておくべきです。

まとめ

日本では現在の日本では1年間に130万人余りの方が亡くなります。遺言書の作成件数は増加していますが、それでも公正証書遺言を残してお亡くなりになる方は1割弱だといわれています。
 
自筆証書遺言の正確な作成数は把握する方法がありませんが、司法統計によると2017年の検認件数は1700件余りと決して多くはありません。今回、自筆証書遺言は保管制度ができることで活用しやすくなると考えられます。
 
しかし、財産の多い人、複雑な遺言を残したいと考えている人は、やはり公正証書遺言の作成も選択肢として考えておくべきだと思います。前回の遺留分制度の時にもお伝えしたように、遺言書があるためにトラブルが起きてしまうというケースもあります。
 
今回の制度によって遺言書を作成しやすくなると思いますが、資産の多い方、事業をされている方、法定相続分とは大きく異なる分割方法を考えている方にとっては、公正証書遺言を残すという選択肢も考慮すべきだと思います。
 
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役

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