税制改正によって、海外不動産を活用した節税ができなくなる?
ファイナンシャルフィールド / 2020年4月1日 9時10分
将来の生活を支えるための「資産形成」の必要性が増している今、「不動産投資」がその1つの手段であることは間違いありません。 一方で、「節税策」として不動産投資を行う人もいます。中でも節税効果が大きい「海外の不動産を活用した節税」が注目されていましたが、これを封じる税制改正が行われることになりました。 不動産投資の効果と税制改正のポイント、不動産投資を行う上での注意すべきポイントを確認します。
不動産投資の効果
FP(ファイナンシャルプランナー)という仕事柄、筆者の元にも将来の資産形成に関する相談に見える方もいらっしゃいます。また、相続対策においては投資用不動産を保有することが節税策として、有効な場合も少なくありません。
ご相談にいらした方が不動産投資に魅力を感じている場合、そのメリット・デメリットをお話しし、ご理解いただいた上で、投資用不動産の取得による資産形成をお勧めすることもあります。希望に合った物件を探し、紹介することもあります。
不動産投資を行う場合、その目的によって、物件を選ぶ基準が違うこともあります。
最近は、低金利時代が続いていることから不動産投資でも利回りが低下し、家賃収入を生活費や小遣いにする、ということはなかなか難しくなっています。
「将来の資産形成」や「生命保険の代わり」としての不動産投資は、キャッシュフローで赤字になるケースも少なくなく(保険代わりとして生命保険料を払うことも含めれば黒字化するケースも多い)、取得した後に「こんなはずじゃなかった」と感じる人も少なくないようです(もちろん、しっかり説明を行っていますが)。
高齢者向けには「相続税の節税対策」、資産家・高所得者の人たちに対しては「所得税の節税対策」として、効果を得るための手法としても用います。その場合には相続税評価と実勢価格の違いや、減価償却費などに着目し、結果として、物件選びのポイントも変わってきます。
メリットばかりではない
不動産投資はメリットばかりではありません。場合によっては購入したほうが不利益を被るケースもあります。高額になりがちな不動産であるがゆえに、損失が出る場合にも大きくなるリスクがあります。
このところマンションの価格は高騰しています。これは居住用不動産だけでなく投資用不動産も同じことです。
不動産投資に向いた物件は、資産価値が下落しにくい物件であること、将来にわたって安定した賃料収入が得られることが重要であるといえるでしょう。物件を選ぶときには自身の目で見て、調べることも重要です。
注目されてきた「海外投資用不動産」
何年か前から富裕層・高取得者層向けに、「海外不動産への投資」を促す勧誘が増えています。
日本の不動産に比べ、海外の不動産は価格が下がりにくいといわれています。また、日本に比べ、不動産に占める土地と建物の割合では、土地が安く、建物部分の評価が高いことも特徴です。
日本の税制では、建物はその構造ごとに「償却期間」が定められていて、その年数(償却期間)で税務上の価格(帳簿価格)を減額でき、その金額(減価償却費)を経費に計上できます。この仕組みは今のところ海外の不動産でも適用可能なため、減価償却費を利用した「節税」が可能となっています。
例えば、海外の築10年の木造一戸建て投資用不動産を、賃貸することを前提に4000万円(土地800万円、建物3200万円)で、個人で購入した場合を考えてみましょう。
中古建物の耐用年数は、簡便法を用いて計算するのが一般的です。法定耐用年数が22年の木造住宅で、経過年数が10年の場合の税務上の耐用年数は
法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数 22年-10年=12年
経過年数10年の20%に相当する年数 10年×20%=2年
耐用年数 12年+2年=14年
となり、建物部分は14年間で税務上の価値はほぼゼロになります。
所有者は、3200万円÷14年≒228万円を毎年減価償却費として経費に算入できます。
仮にこの不動産の賃料収入が月額15万円だった場合、この不動産から得られる年間の賃料収入は180万円となりますが、経費として差し引いた減価償却分(約228万円)を差し引くと赤字になります(その他の経費は考慮していませんが、購入時には仲介手数料もありますし、取得時・保有中の税金なども考慮しなければなりません)。
この赤字分はその他の所得と合算できるため、国内でほかの所得がある人にとっては、所得税を押し下げる効果があります。中には複数棟の物件を取得し、毎年の課税所得を圧縮している人もいるようです。
この手法は、平成27年に会計検査院が合理的ではないと指摘していました。そして、とうとう2021年(令和3年)分の所得税の申告から、この減価償却による節税スキームが使えなくなることになりました(損失部分を経費算入できなくなります)。
一部の海外不動産の「購入」を勧めていた業者が、今は「売却」を勧めているとも聞きます。
不動産業者は売買が発生すれば、仲介手数料収入が見込めるなどメリットがありますが、購入した人にとっては、当初目論んでいた節税策が使えなくなります。購入価格より安い価格でしか売却できなかった場合にはキャピタルロスが発生し、トータルで損失になることもあり得ます。
不動産投資の経験が浅く、節税目的で海外の不動産に投資をされる方は現地、物件を見ないで購入される場合が少なくないと思われます。日本であればインターネットを用い、日本語で周辺の賃料相場や物件価格の相場を調べることもできますが、海外の物件ではそうしたことも難しいといえるでしょう。
不動産投資を行う際に物件を見ず、不動産業者に勧められるままに購入するのは非常に危険です。これは、国内不動産でもいえることです。
対策はメンテナンスが必要
今回の改正は、2021年の所得税(2022年の確定申告分)から適用されます。税制上メリットが大きい節税策は、「法律の改正」によって封じ込められるリスクがあります。国内の不動産でも適用されるいくつかの節税につながる方策も、今後の法改正に影響される可能性があります。
平成27年から「相続税の基礎控除」が4割減額され、それ以前に相続税対策をしていた人は見直しが必要になっている人も少なくありませんし、それまで相続税の課税対象ではなかった人も対象になったりしています。
相続対策や節税対策は定期的なメンテナンスを行い、場合によっては見直しも必要になる可能性があることも覚えておくべきだと考えます。
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役
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