株価が下がるのになぜ儲かる? GameStop株をめぐる「空売り」の仕組み
ファイナンシャルフィールド / 2021年2月22日 23時0分
2021年1月末、米国のとある上場株が世界中で報道されました。米国テキサス州に本社がある「Game Stop」というゲーム機器やソフトを売る会社の株式です。
同社株の下落で儲けを狙うウォール街のプロ投資家たち(ヘッジファンドや機関投資家など)による「空売り」に対抗すべく、アマチュア投資家たちがSNSでつながって同社の株式を買い進め、儲けの独り占めを阻止したというのです。
しかし、株価が下落するとなぜ儲かるのでしょうか? 日本の信用取引の例を元にご説明します。
株式を売ってから買う「空売り」
株式を購入した場合、基本的に3つの方法で儲かります。1つ目は「配当金」を得る方法。2つ目は「安く買って高く売る」方法。これは当たり前ですね。そして3つ目は「高く売って安く買う方法」です。
3つ目の方法では、そもそも買ってもいないのになぜ売れるのでしょうか? もし売る株式がなければ、人から借りればよいのです。この人から借りた株式を売ることを「空売り」(※1)と言います。空売りの後、株価が値下がりすれば、その時点で買い戻せば、差額が利益になるのです(図1)。
借りて売る、を可能にする「信用取引」
それでは、株式はいったいどうやって借りることができるのでしょうか? それを可能にするのが、プロ投資家もアマチュア投資家も参加できる「信用取引」の仕組みです。
「信用取引」の特徴は大きく2つあります。1つは、資金や株式がなくても、証券会社から資金を借りて株を買ったり、証券会社を通じて株を借りて売ったりできることです。ただし、委託保証金と呼ばれる担保を差し入れなければなりません。この額は、買ったり売ったりする額の30%または30万円のどちらか大きいほうと法律で決められています(※2)。
もう1つは、通常の「現物取引」と比べて大きな取引ができることです。30%の委託保証金とは、裏を返せば預け入れた担保の約3.3倍の取引ができる、ということです。
「信用売り」の損失は無限大
Game Stop株の例では、プロ投資家は「信用取引」の仕組みを使って大きな「売り」を仕掛け、価格が下がることを見込んだ上で「買い戻す」ことで利益を得るつもりでした。
しかし前述のとおり、アマチュア投資家の反撃にあい、株価は逆に上昇してしまいました。それまで20ドル以下で推移していた株価は、1月28日には最高で483ドルまで値上がりしたのです(※3)。その結果、プロ投資家は大きな損失を被りました。その額は約190億ドル(約2兆円)ともいわれています(※3)。
信用取引の中でも「空売り」は非常にリスクの大きな取引です。なぜなら、利益が出る株価の下落には限度がある(つまり、株価ゼロまで)一方、損失が出る株価の上昇には限度がありません。もし、損失を限定する手法などを使わなかった場合、その損失は無限大です。
Game Stop株の「空売り」は意図的な「価格操作」?
プロ投資家は、そのような大きなリスクをとってまで、なぜ「価格が下がる」ことを見込んで「空売り」を仕掛けていたのでしょうか? 1月末現在、米国の証券取引委員会(SEC)が、相場の意図的な「操作」がなかったどうか、調査を進めています。
しかし、この事件により一般の方が「怖い」というイメージを抱きがちな信用取引や、コロナ渦にも関わらず高値で沸き立つ株式市場に対する私たちの不信を高めたのではないかと推察します。
信用取引制度の本来の目的は、手元資金がない人でも市場に参加できる仕組みを通じて、株式市場の「適正な価格形成」を促すことではないでしょうか(※5)。「アマチュアがプロを懲らしめた」という痛快さの裏で、私たちの資産が常にマネーゲームにさらされているかもしれないということを、教訓として心にとどめておく必要がありそうです。
(出典および注釈)
(※1)JPX日本取引所グループ「売買の規制」
「空売りとは、有価証券を有しないでもしくは有価証券を借り入れてその売付けをすることを言います。空売りの中には、信用取引による売りが含まれますが、信用取引以外でも株主から株券を借りて市場で売却することも空売りに含まれます。」
(※2)e-GOV法令検索「金融商品取引法第百六十一条の二に規定する取引及びその保証金に関する内閣府令 第二条の一」
(※3)Yahoo! Finance historical data
(※4)以下の記事を参照
(※5)JPX日本取引所グループ「信用取引の目的」
「信用取引制度の目的は、投資者の便宜を図るとともに、仮需給の導入(手元に株がない人や買付資金がない人に株・資金を貸し付け、市場参加に結び付けること)によって流動性を高め、株価が高すぎる時や安すぎる時に、さらなる供給や需要が市場に入ることによって適正な価格形成を確保することにあります。」
執筆者:酒井 乙
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。
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