投資家の72.9%が「株主優待」を重視って本当? 果たして“優待目当て”は正しい選択基準と言えるのか
Finasee / 2023年11月20日 17時0分

Finasee(フィナシー)
世の中には、「意識調査」と称される調査結果が、さまざまな機関から発表されています。これは、人々の意識や心理を探ることによって、その調査結果を、各種政策決定や製品・サービスの開発などに活用するのが目的です。
基本的に、政府や日銀のような公的機関が行っている意識調査は、各種政策決定を目的にして行われるものであり、民間のコンサルティング会社、リサーチ会社、マーケティング会社、シンクタンクなどが行っている意識調査は、製品・サービス開発に主眼を置いたものが多く見受けられます。
各種メディアが、こうした意識調査の結果を記事にすることもありますが、注意しなければならないのは、民間の機関によって行われている意識調査です。なぜなら、何らかの意向を持って行われているケースがあるからです。
典型的なケースを紹介今回は、その典型的なケースを取り上げましょう。「株式の銘柄選びに関する意識調査」と名付けられたもので、その2023年版のタイトルは、「新NISA制度はまもなく!投資家の関心は?」というものです。
明らかに、2024年1月からスタートする新NISAを意識した内容であることが窺えます。加えて、その調査結果を大きなタイトル見出しに使っており、そこには「個人投資家の7割以上が『株主優待』を重視!」とあります。
以上を見る限り、新NISAがスタートするにあたって株式投資を検討している個人投資家の7割以上が、株主優待を重視して銘柄を選んでいる、という印象を受けます。
果たして、そこまで多くの個人投資家が、株主優待を重視しているのでしょうか。あるいは、それは正しい銘柄選択基準になるのでしょうか。
注意して見るべきポイントは“サンプル数”この意識調査のサンプルを見ると、「1銘柄200万円未満の株式投資を行う個人投資家111名」となっています。明らかにサンプル数が少ないので、結果に偏りがあるかもしれないという前提で、意識調査の数字を見ていく必要があります。
この意識調査の結果を並べると、以下のようになります。
1、回答者の72.9%が「株式投資を行う際に株主優待を重視することがある」と回答。
2、株主優待を重視する理由として、①生活に使える物が多く魅力的だから(58.0%)、②長期保有へのモチベーションに繋がるから(49.4%)、③株式を保有する楽しみが増えるから(39.5%)
3、55%が「株主優待の内容を見てためらいを感じたことがある」と回答。
4、ためらいを感じた理由として、①保有株数が増えても優待内容があまり変わらないから(42.6%)、②長期保有に対するインセンティブがないから(41.0%)、③BtoB企業銘柄は生活に使える優待がないと感じたから(29.5%)
5、約7割以上が「新NISAに向けて株式投資への人々の意欲は益々高まっていく」と予想している。
出所:株式会社ウィルズ「新NISA制度はまもなく!投資家の関心は?」
内容を要約すると、株式投資をするにあたって、多くの人が、生活に使えるものが多い株主優待に注目しているものの、保有株数が増えたとしても優待内容があまり変わらない点に、ためらいを感じている、ということです。
仮に、この意識調査のサンプルに偏りがなく、111名の個人投資家の意見が、日本全体の個人投資家の意見の縮図になっているとしたら、株式を上場している多くの企業は、株主還元策の1つである株主優待が持つ効果を真剣に考え、かつ株式の保有数に応じてインセンティブを付与するような施策も、必要になってきます。
なぜ企業は株主優待を行うのか?では、株主優待はそこまで重要視されるものなのでしょうか。企業がなぜ株主優待を行うのかというと、理由は2つ考えられます。
1つは自社のビジネスに対する理解を深めてもらうため。自社製品やサービスの無料券、割引券を出すのは、そういう理由があるからです。
株主優待とは、そもそも個人投資家を対象にしたものです。事業法人や機関投資家からすれば、株主優待にコストを割けるくらいなら、製品やサービスのコストをもっと下げるか、配当金を増やしてくれた方が、はるかに経済合理性にかないます。つまり株主優待は、個人投資家を対象にした株主還元策の1つなのです。
では、どうしてそこまでして個人株主数を増やそうとするのでしょうか。それはひとえに、上場維持基準を満たすためです。特に旧東証1部市場では、上場維持基準として2200人の株主数が求められていました。
ところがBtoB企業は、個人投資家からの知名度が低いため、大口で投資する機関投資家が株主の中心になる傾向が強く、株主数で上場維持基準に引っ掛かるケースがあります。
しかも、BtoB企業は法人向け製品やサービスを供給しているため、個人に対して自社製品・サービスを株主優待として付与しても、まず喜ばれません。そのため、クオカードやお米など自社とは全く関係のない物品を配布して、個人投資家を増やそうとしているのです。
株主優待を行う企業はむしろ減少傾向しかし、ここ最近の傾向としてはむしろ、株主優待を廃止する企業が増える傾向にあります。いくつか理由が考えられます。
第一に、上場維持基準にある株主数が、市場区分の見直しによって大幅に緩和されました。現在、プライム市場が800人以上、スタンダード市場が400人以上、グロース市場が150人以上となっています。上場維持に必要な株主数が大幅に減ったため、特にBtoB企業にとっては、個人株主を増やすために苦し紛れの株主優待を設定する必要がなくなったのです。
第二に、株主に対して公平に利益還元を行うためです。株主優待は、同意識調査で株主優待にためらいを感じる理由として、「保有株数が増えても優待内容があまり変わらないから」とあるように、どちらかというと小口投資家に有利な条件が設定される傾向にあります。それは、小口投資家を増やして株主数を確保したい、という意図があるからです。
しかし、それでは大口投資家にとって不利になりますし、外国人投資家からすれば、株主優待を受け取ったとしても、その権利を行使する機会がありません。この点、配当で還元すれば、株主は保有している株式数に応じて配当金が支払われるため、株主間の公平性を維持できます。
そして第三に世界、特に先進国を見渡した時、株主還元策として株主優待を行っているのは、日本くらいのものだということもあります。
こうした理由から、株主還元策として、株主優待よりも配当金を重視する傾向が強まりました。恐らく、今後も株主優待を廃止する企業は増えていくでしょう。ちなみに株主優待を行っていた上場企業数は2019年がピークで、その後は減少傾向をたどっています。
***そのなかで、今回取り上げた意識調査ですが、なぜ「個人投資家の7割以上が株主優待を重視」などと主張したのかというと、この調査を行った企業が提供している、「ポイント制株主優待」というサービスのプロモーションにつなげるためです。
時折、民間企業が行う意識調査には、こうした意向が含まれているので、その信ぴょう性をしっかりチェックする必要があることと、いくら個人投資家の7割以上が株主優待を重視しているからといっても、傾向として株主優待は廃止の方向に進んでいるという事実を、資産運用をする個人はしっかり認識しておく必要がありそうです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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