投資家から脚光を浴びる尺度は“資産”。見つかりやすくなったイノベーション銘柄の選び方
Finasee / 2024年8月8日 18時0分
Finasee(フィナシー)
今、日本経済は大きな転換期にいます。
長年悩まされてきたデフレを脱却し、インフレに突入しました。そしてマイナス金利解除、急変する円安、海外投資家の増加など、新しい流れのなかでこれまでの投資戦略が通じにくくなっています。
伊藤忠を経て、国内外の金融機関を渡り歩いてきた金融ストラテジスト・エコノミストの岡崎良介さんは、これからの時代は「短期トレードよりも長期ポートフォリオ」「すべての〝資産〟の価値が上昇」と言います。4回目は前回に続き、具体的な投資戦略を紹介してもらいます。(4回目の4回目)
●3回目:お手本は“投資の神様”バフェット? インフレ時代は短期トレードより長期投資が有利といえるワケ
※本稿は、岡崎良介『野生の経済学で読み解く 投資の最適解』(日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。本記事の情報は、書籍発売日(2024年1月)に基づきます。
インフレ時代の投資戦略③ 良い〝資産〟を持つ企業が選ばれる前回の2つがインフレ時代の投資戦略のいわば〝やり方〟であるわけですが、最後に投資する具体的な銘柄の探し方についても少し触れておきたいと思います。
投資情報によく出てくる大型株、とか、割安株といったサイズやスタイルについて、これがいい、これが正しい、と決めつけるつもりはありません。ただ日本の場合、米国に比べると圧倒的に成長株と認めることができる企業が少ないので、気に入った銘柄を選んでポートフォリオをつくろうとすれば、どうしてもスタイルについては、いまはまだ割安株が中心となってしまいます。むしろ無理やり成長株に投資をしようと、少ない銘柄群のなかから自由度の少ない選別を行なうと、でき上がったポートフォリオはTOPIXや日経平均株価といったみんなが知る日本株指数とはかけ離れたパフォーマンスを描くようになってしまいます。
こうしたポートフォリオのベータ値は低く、思惑が当たればアルファが出たといって喜んでいられるのですが、一方でみんなが儲かっているときにそうではないケース、あるいは必死になって銘柄を発掘しても結局はTOPIXや日経平均を買っておいたほうが良かった、などという苦労が報われないケースになることが、これからの時代には頻繁に起こります。
このように世界の投資家の選択基準ががらりと変わるなかで、新たに脚光を浴びることになる尺度が〝資産〟です。この〝資産〟という言葉は非常に多くの意味を含んでいます。
〝資産〟と書くと、直接的には不動産や権益、取り扱う商品等をイメージされるかと思いますが、それだけではありません。会社にとって人材もまた重要な〝資産〟です。これまでその会社が大事に守ってきた伝統もまた〝資産〟です。そして信頼できる優良な取引先もまた重要な〝資産〟です。これらはすべて一朝一夕に獲得できるものではなく、その会社(創業者や経営者ではなく、法人であると理解してください)がこれまで存続するなかで積み上げてきた財産なのです。
インフレの時代には、これらすべての〝資産〟の価値が上昇していきます。逆に言えば、いまはまだこうした〝資産〟を持ち得ていない会社は、不利な戦いを強いられます。
力のある勇敢な会社は、一気に他社からこうした〝資産〟を買い取ることも積極的に行ないます。デフレの時代のように、いつでもどこでも供給が転がっているわけではないので(人材という労働供給はどんどん絞られていきます。不動産の供給も生産性の高い土地の値段は上がっていきますから絞られていきます。仕入れ先からの原材料供給も、いつまでも価格上昇に応じなければ絞られていきます)、既存のビジネスに新規参入していくことはむずかしくなっていきます。
インフレ時代の投資戦略④ イノベーションはあらゆる分野で発生するそうした状況のなかで、成功する企業は広範囲にわたるイノベーションに力を入れていきます。広範囲と書いたのは、イノベーションは何も新商品開発に限った話ではないからです。新たな販路や仕入れ先を生み出し拡大していくこともイノベーションです。人材の発掘、開発もイノベーションです。インフレの時代にはあらゆる分野で供給の制約(わかりやすくいえば価格の上昇です)が発生していきますから、これに対抗するためのイノベーション活動が活発になります。
イノベーションという抽象的な言葉を使うと難解な印象をお持ちになったかもしれませんが、実のところインフレ時代には、こうしたイノベーションの例はデフレの時代よりも多く簡単に見つかるはずです。これまでのように決算書や四季報にばかり頼らずとも、ふだんのくらしのなかや、新しい出会いの場所で様々なイノベーションと遭遇していくはずです。ちょっとした変化に目と耳を研ぎ澄ましておいてください。
ただインフレの時代には、淘汰が起こります。供給に障害が生まれてくる会社(人材が集まらない、減っていく、思うように仕入れができなくなる、金利が上昇する、家賃など諸費用が上昇する等、数え上げればきりがありません)は存続の危機に直面します。しかしその会社が〝資産〟を保有しているならば、直ちに買い手が集まるのもインフレ時代の特徴です。つまりは〝資産〟として価値を持つものはすべてが流動化していく時代に向かうのです。
世代交代も加速するでしょう。経営刷新も進むでしょう。すべての価格に正の価値が付けられ、歯車が噛み合って回り出したのですからもう後戻りはできません。
野生の経済学で読み解く 投資の最適解著書 岡崎良介
出版社 日本実業出版社
定価 1,870円(税込)
岡崎 良介/金融ストラテジスト
1983年慶応義塾大学経済学部卒、伊藤忠商事に入社後、米国勤務を経て87年野村投信(現・野村アセットマネジメント)入社、ファンドマネジャーとなる。93年バンカーストラスト信託銀行(現・ドイチェ・アセット・マネジメント)入社、運用担当常務として年金・投信・ヘッジファンドなどの運用に長く携わる。2004年フィスコ・アセットマネジメント(現・PayPayアセットマネジメント)の設立に運用担当最高責任者(CIO)として参画。2012年、独立。2013年IFA法人GAIAの投資政策委員会メンバー就任2021年ピクテ投信投資顧問(現・ピクテ・ジャパン)客員フェロー就任。
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