リクルート株式が3年半ぶり上場来高値も主要マーケットの米国では求人市場に底打ちの兆し
Finasee / 2024年9月24日 11時0分
Finasee(フィナシー)
リクルートホールディングスの株価が回復しています。2024年4月にそれまでの高値(2021年11月、8180円)を約3年半ぶりに更新し、同年7月に9550円の上場来高値を記録しました。米国の求人件数の減少などから売られていましたが、足元では見直し買いが進んでいるようです。業績も好調で、直近の2024年3月期の純利益は過去最高を更新しました。
リクルートHDは収益性の高さから「JPXプライム150指数」に選ばれています。JPXプライム150指数は2024年8月に最初の定期入れ替えを実施しましたが、リクルートHDは継続して採用されることとなりました(出所:JPX総研 JPXプライム150指数の構成銘柄の定期入替について)。
リクルートHDとはどのような企業なのでしょうか。同社の概要と業績を紹介します。またリクルートHDは潤沢なキャッシュを持ちますが、その使い道についても紹介します。
買収のインディードが成長 海外売上高は4%から50%超へリクルートHDは主に人材に関するサービスを提供する企業です。事業構成はHRテクノロジー事業、マッチング&ソリューション事業、人材派遣事業の3つです。
うち最も大きな利益を稼ぐのがHRテクノロジー事業です。売り上げの構成比は3割ほどですが、調整後EBITDA(※)は過半を占めています。
※EBITDA:利払い前、税引き前、償却前の利益。最終利益に利息と税金、減価償却費を足し戻したもの。
【セグメント売上収益(2024年3月期)】
・HRテクノロジー:1兆0118億円(29.3%)
・マッチング&ソリューション:8078億円(23.4%)
・人材派遣:1兆6342億円(47.3%)
※()は構成比
【セグメント調整後EBITDA(2024年3月期)】
・HRテクノロジー:3443億円(56.8%)
・マッチング&ソリューション:1636億円(27.0%)
・人材派遣:979億円 (16.2%)
※()は構成比
出所:リクルートHD 決算短信
HRテクノロジー事業は、主に完全子会社のインディード(Indeed)とグラスドア(Glassdoor)で構成されます。インディードは2012年に買収し、グラスドアは2018年に買収しました。
インディードとグラスドアはオンラインで求人情報の収集や検索ができるマッチングプラットフォームを運営しています。いずれも世界的な求人サイトとなっており、インディードは毎月3億5000万人、グラスドアは毎月5500万人の利用者が訪れています(2023年10月~2024年3月。社内データに基づく月間平均数)。
特にインディードは大きく成長しました。売上収益は単体でリクルートHDの10%超を占めています(2024年3月期)。
インディードの成長や他の買収の影響から、リクルートHDのグローバル化は大きく進展しました。海外売上高比率は2012年度の約4%から2019年度に約45%にまで上昇します。直近では売り上げのおよそ半分を海外が占めています。
【地域別、外部顧客への売上収益(2024年3月期)】
・日本:1兆5907億円(46.6%)
・米国:9393億円(27.5%)
・その他:8864億円(25.9%)
※()は構成比
出所:リクルートHD 有価証券報告書
その他2つの事業も概要を押さえておきましょう。
マッチング&ソリューション事業は、グループ中核企業のリクルートが属するセグメントです。主に国内で企業の人材および販促を支援しています。
人材領域の主なプロダクトは「リクナビ」や「タウンワーク」などです。これらはインディードと連携が進んでいます。人材領域の収益はHRテクノロジー事業へ移行していく見込みです。
販促領域では「HotPepperグルメ」や「SUUMO(スーモ)」、「じゃらん」などを提供しています。販促領域には「Airペイ(エアペイ)」といった業務支援ツールの提供も含まれており、現在はこの拡大に注力しています。
人材派遣事業は、あらかじめ登録したスタッフを契約先へ派遣する事業です。国内ではリクルートスタッフィングやスタッフサービス・ホールディングスを通じ、海外では現地企業を通じてサービスを提供しています。
アメリカ景気は底打ち?リクルートが今期を「0年目」とみなす理由次に業績を押さえましょう。
2024年3月期は減収増益でした。HRテクノロジー事業は米国を中心に苦戦しました。一方でその他の事業は好調だったこと、また販管費が大きく減少したことから、営業利益および純利益は大幅な増益となっています。
【リクルートHDの業績(2024年3月期)】
・売上収益:3兆4164億円(-0.4%)
・営業利益:4025億円(+16.9%)
・純利益:3536億円(+31.1%)
※()は前期比
出所:リクルートHD 決算短信
今期(2025年3月期)の業績予想は幅を持たせた開示となっています。最大値と最小値で平均を取ると、売り上げと純利益はほぼ横ばい、営業利益は約1割の増益となる見込みです。前期は四半期ごとの開示でしたが、今期は期首から通期で見通しを公表しています。
【リクルートHDの業績予想(2025年3月期)】
・売上収益:3兆3000億円~3兆5000億円(-3.4%~+2.4%)
・営業利益:3900億円~5000億円(-3.1%~+24.2%)
・純利益:3150億円~4000億円(-10.9%~+13.1%)
※()は前期比
出所:リクルートHD 決算短信
リクルートHDは、今期を米国の景気サイクルが上向く「0年目」とみなしています。米国の求人件数は底打ちが近いと判断しているようです。
米国の求人件数はピークから減少が続いています。背景にはコロナ後の経済再開で求人が急拡大した反動があるとみられています。
一方で失業率は底堅く、足元は4%台で推移しています。労働市場が堅調なことから、求人件数がさらに減少するような状況は想定しにくく、リクルートHDは近く底打ちするとみています。
出所:米国労働統計局より著者作成第1四半期の実績は2024年8月に公表されました。進捗はおおむね順調なようです。進捗率は売上収益で25%~27%、営業利益で25%~32%、純利益で26%~33%となりました。
主力のHRテクノロジー事業の米ドルベース売上収益は、前年同期比はマイナスだったものの、前四半期比ではプラスとなりました。四半期比の増収は2期連続です。不透明感は続いていますが、回復の兆しも見え始めているようです。
2年でネットキャッシュ半減へ まずは自社株買いで6000億円2024年3月期の決算公表では、資本政策への言及もありました。M&Aと株主還元を通じ、1兆1350億円まで積み上がったネットキャッシュを2年で6000億円程度まで減らすとしています。
出所:リクルートHD 決算プレゼンテーション資料より著者作成リクルートHDは、そもそも自社のビジネスで潤沢なキャッシュが毎年生じます。営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを足し合わせた簡易的なフリーキャッシュフローは足元で4000億円を超えます。これを消化しつつネットキャッシュを減少させる場合、大規模な投資が想定されることとなります。
リクルートHDは、まず自社株買いの強化に取り組みます。リクルートHDは2024年7月、6000億円を上限とする自社株買いを発表しました。発行済株式数の5.67%にあたり、前回(2000億円、2.83%)より大幅に引き上げて対応します。6000億円の自社株買いは過去最大とみられています。
M&Aがない場合、翌期も大型の株主還元が見込まれます。投資家に評価されれば、リクルートHDの株価は堅調に推移するかもしれません。
なお、配当性向の引き上げは証券会社向けの説明会において否定的な見解を示しています。株主還元は自社株買いが中心となると予想されます。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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