《話題のセブン&アイHDにも…》株主名簿でよく見る、「日本マスタートラスト信託銀行」や「日本カストディ銀行」とは何か
Finasee / 2024年11月23日 16時0分
Finasee(フィナシー)
IR情報や四季報に載っている「大株主欄」でよく見る「信託口」
投資したい会社を知ろうとする時、まず何からチェックしますか。
一番多いのは「業績」でしょうか。売上高や利益が過去、どのくらいのペースで伸びてきたのか、今後の予想はどうなのかは、株価に大きく影響するので、真っ先にチェックする人は多いはずです。
次は「バランスシート」でしょうか。いわゆる財務情報です。資産、負債のバランスの良しあしは、経営の持続性を判断するうえで重要です。
それ以外にも、たとえば会社四季報などを開くと分かるのですが、企業、とりわけ上場企業は、自社の経営に関するさまざまな情報を、投資家に対して開示しています。会社四季報の紙版は、物理的に掲載できる情報が限られてはいるものの、それでも丁寧に読んでいくと、非常にたくさんの情報量が詰め込まれていることに気付くと思います。
その中のひとつで、あまり株価には影響しないだろうという先入観から、さほどチェックしないのではないかと思われるのが、「株主構成」です。
会社四季報の株主構成は、株主名簿上位10位の構成と、主要投資家の持株比率が記載されています。主要投資家の持ち株比率は、「外国人投資家」、「投資信託」、「浮動株」、「特定株」が、それぞれ何パーセントなのかを示したものです。
ところで、株主名簿上位10位を見ると、多くの企業で「信託口」という株主が上位を占めていることに気付かれると思います。「なんだろう?」と思う人も多いのではないでしょうか。
「株主」というと、個人名が記載されているのかと思いきや、決してそんなことはありません。上場企業でも、オーナー色の強いところや、いわゆる中小型株に含まれているような、経営規模の小さい企業になると案外、個人が大株主に名を連ねているケースはあるものの、大企業ともなると、個人の大株主が株主名簿の上位に来るケースは少ないようです。
たとえば最近、創業家による自社買収(MBO)と非上場化が報じられている「セブン&アイ・ホールディングス」の株主名簿上位10位は、次のようになっています。
1位 日本マスタートラスト信託銀行信託口(14.68%)
2位 伊藤興業(8.14%)
3位 日本カストディ銀行信託口(4.95%)
4位 ステート・ストリート・バンク&トラスト505001(2.83%)
5位 日本生命保険(2.02%)
6位 SMBC日興証券(2.00%)
7位 三井物産(1.86%)
8位 ステート・ストリートBウエストトリーティー505234(1.67%)
9位 JPモルガンチェース・バンク385864(135%)
10位 JPモルガンチェース・バンク385632(1.32%)
となっています。ご覧になれば分かるように、1位と3位が信託口です。
投資信託会社が倒産しても財産は守られると言われているのも「信託」が存在するから信託口とは、簡単に言うと“信託業務を営む銀行が、顧客の資産を管理するために開設している口座”です。
信託業務を営む銀行は、かつては信託銀行に限定されていましたが、今は規制が緩和され、普通銀行でも信託業務を併営できるようになっています。
信託とは、自分が持っている財産を、信頼できる第三者に預けて運用・管理してもらう制度のことです。
たとえば、自分が持っているお金を信託して運用・管理してもらう「金銭信託」や、遺言者が作成した遺言を保管・管理し、遺言者が亡くなった時、遺言書に従って遺言対象資産を相続人に配分する「遺言信託」が、個人向け信託サービスの代表格といっても良いでしょう。
また、新NISAで注目を集めている投資信託も、信託の制度を活用した金融商品のひとつです。
投資信託の場合、投資信託会社(アセマネ会社)が、販売金融機関を経由して個人から集めた金銭の委託者となります。信託銀行は受託者として、その金銭を管理するのと同時に、投資信託会社からの指示に従って株式や債券の売買を証券会社に発注します。
そして買い付けた株式や債券は、信託業務を営む金融機関の名義で保管・管理されます。「投資信託は販売金融機関や投資信託会社が倒産しても、投資信託の信託財産は差し押さえられない」と言われるのは、このように信託業務を営む金融機関によって、信託財産が全額管理されているからです。
しかも、投資信託の信託財産は、信託業務を営む金融機関自身の資産から分離された「分別管理」が徹底されているため、信託業務を営む金融機関が倒産したとしても、投資信託の信託財産は保全されます。投資信託は、投資信託会社という法人による金銭の信託なのです。
日本マスタートラスト信託銀行や日本カストディ銀行は結局何をしているのか日本マスタートラスト信託銀行や日本カストディ銀行も、信託業務を営む金融機関のひとつですが、この2行が他の金融機関と異なるのは、その業務内容が資産管理に特化されていることです。
といっても、この2行自身の資産を管理・運用しているのではなく、投資信託会社や年金基金、保険会社、さらには私たちの公的年金の一部を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)といった機関投資家の資金を管理することに特化した信託銀行です。
日本マスタートラスト信託銀行の管理資産残高は、2024年3月末時点で703.7兆円、日本カストディ銀行は683.8兆円というように巨額です。
これでお分かりいただけたかと思いますが、日本マスタートラスト信託銀行や日本カストディ銀行の裏側には巨大機関投資家がおり、その巨大機関投資家が行う資金運用を通じて、さまざまな企業の株式に投資するため、大株主の上位にこれらの銀行名が上がってくるのです。
ちなみに、信託口を通じて投資された株式の名義は、実際に運用資金を信託している機関投資家のものではなく、日本マスタートラスト信託銀行や日本カストディ銀行の名義になっています。
そのため、実際にどの機関投資家が、その企業に投資しているのかを個別に知ることはできません。企業が本決算の後で発行する有価証券報告書も同様に記載されていません。
ある程度、細かく把握したいのであれば、大量保有報告書を過去にさかのぼってみていくしかありません。大量保有報告書とは、発行済株式数の5%を超えて保有した場合、これを提出することによって、大量保有していることを開示するための書類です。また報告してから1%以上増減した場合は変更報告書を提出しなければならないため、その過程を追いかけていけば、「信託口」という陰に隠れている大株主を、おおまかにではありますが、あぶり出すことができるはずです。
なお大量保有報告書や変更報告書は、金融庁のEDINET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)にアクセスすれば、誰でも無料で必要書類を見ることができます。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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