「全世界株式」と「S&P 500」の“どっちか二択”問題は本当に妥当か? 世界のプロ投資家が“実は選んでいる”あるインデックスとは
Finasee / 2024年12月11日 12時0分
Finasee(フィナシー)
カギは新興国投資特有のリスク
近年、日本の個人投資家の間で、外国株式にインデックス投資を行う際に、全世界株式(MSCI ACWI:オール・カントリー・ワールド・インデックス)と米国株式(S&P 500)のどちらに投資すべきかという議論が盛んだ。
しかし、そもそもこの2つに絞って検討することは果たして合理的なのだろうか。米国への比重の偏りに加え、新興国市場への投資の意義とリスクを再考し、その他の選択肢を検討することで、現在の二択が本当に最適なのかを問い直したい。
日本人投資家がグローバル指数を選ぶ妥当性日本の投資家がMSCI ACWIやS&P 500といった外国株式の指数を用いたファンドに投資する背景には、分散投資のメリットと国内の低金利・低成長があるだろう。国内市場だけに依存せず、世界の成長を取り込むことで、ポートフォリオのリスクを分散し、潜在的なリターンを高める狙いには妥当性があると言えよう。
MSCI ACWIとS&P 500の特徴MSCI ACWIは、先進国23カ国と新興国24カ国の株式を含むグローバルな指数である。一方、S&P 500は米国の大型株500銘柄で構成され、米国市場に特化している。ここで注意すべきは、MSCI ACWIへの投資は新興国市場のリスクも一定程度取ることになる点だ。
以下に、主要株価指数の地域別配分(概算)を示す。
主要指数の地域別配分(概算)
注:上記の配分は2024年6月末時点の概算値であり、市場の変動により変化します。全ての指数において米国への比重が大きい。そしてMSCI ACWIにおいては、新興国への配分も全体の約10%を占め、日本への配分のおよそ2倍となっている。
新興国投資特有のリスク新興国市場は高い経済成長率が期待される一方で、株式市場への投資には以下のリスクが存在する。
・グローバル市場との相関性:新興国市場は市場の混乱時に先進国市場と高い相関性を示す傾向があり、期待される分散効果が限定的である可能性がある
・政治的不安定性と規制リスク:政治情勢の不安定さや規制の不透明さが投資リスクを増大させる
・通貨リスク:新興国通貨の変動は時に先進国通貨以上に激しいものとなる
・市場の未成熟性:流動性の低さや企業ガバナンスの問題が存在する
これらのリスクを考慮すると、MSCI ACWIを通じて新興国市場に直接投資することが、リスクとリターンのバランスにおいて最適かどうかは議論の余地がある。実際、世界の機関投資家はMSCI ACWIの配分ほどには新興国市場に投資していないと言われている。
本当に理解しているか? 新興国投資の実態現在の二択の議論は、一部のインフルエンサーの影響力や情報の偏りによって形成されている可能性がある。多くの投資家は新興国市場への投資のリスクや市場の特性を十分に理解せずに、MSCI ACWIを選択しているのではないだろうか。
他の選択肢と戦略投資家は必ずしもMSCI ACWIとS&P 500の二択に縛られる必要はない。以下のような代替案も検討できる。
・MSCI World指数を使ったインデックス投資
ACWIと同じMSCIの指数でも、日本を含む先進国23カ国の株式で構成され、新興国市場を含まない「MSCI World」という指数があり、年金基金などの機関投資家にはACWIよりも広く使われている。この指数が現在ほとんど議題に上がらないのは疑問だ。
多くの先進国企業は新興国市場で積極的に事業を展開しており、先進国市場への投資を通じて新興国市場の成長の果実は間接的に取り込まれることになる。
・グローバル市場を対象にしたアクティブ運用ファンド
専門的な運用者によるリスク管理とリターン追求を期待できる。特に、新興国市場のリスクを慎重に評価しながら投資機会を探すことが可能である。
・地域別・セクター別ファンドを組み合わせる
リスク許容度に合わせて、特定の地域やセクターに焦点を当てて組み合わせる。例えば、グローバル指数ではどうしても米国への比重に偏るが、米国への比重を減らす選択肢もある。
・債券やオルタナティブ投資
株式以外の資産クラスを組み入れることで、分散効果がはたらき、株式市場下落時にもポートフォリオの安定性を高めることができる。
自身による投資判断の重要性長期的な資産形成には多様な選択肢があり、限られた意見やトレンドに流されるのではなく、投資家は自身のリスク許容度、投資目的、投資期間を慎重に考慮した上で、最適な投資先を選択すべきであろう。
本稿が、MSCI ACWIを通じてどの程度のリスクを取っているのか、米国への比重や新興国市場への投資に自身が納得しているのかを、改めて考えてみるきっかけとなれば幸いである。
木村 大樹/Keyaki Capital代表取締役CEO
野村證券でオルタナティブ商品の営業に従事した後、ニューヨークで証券化ビジネスに携わり、サブプライム危機に直面しながら問題解決に努める。帰国後はバークレイズ証券を経て、2012年にシティグループ証券の年金ソリューション部長、2015年からはマッコーリー・インベストメント・マネジメント日本代表。2020年に個人に公開されていない世界中のプライベートアセットへの投資機会を、充実感と高揚感に満ちた投資体験として提供するKeyaki Capitalを創業。一橋大学経済学部卒。
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