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ユースに落ちて…心境一変「プロになれていないかも」 分岐点になった10代の「もしあの時」【インタビュー】

FOOTBALL ZONE / 2024年11月21日 9時30分

■元日本代表FW大津氏が語る高校サッカー時代

 クラブユースか、高校サッカーか。今後の成長曲線に大きく影響する10代後半の時期、どの環境に身を置くべきか悩む高校生もいるだろう。ユースはかつて誰しもが目指すレールで、昇格できなかった選手が高校サッカーの進路へと”軌道修正”していたのに対し、現在はそういった構図に変化が生じている。高校生で全国の舞台に立った経験を持つ元日本代表FW大津祐樹氏は「ユースに昇格できていたら、もしかしたらプロになれていないんじゃないか」と当時を振り返っている。(取材・文=城福達也)

   ◇   ◇   ◇   

 成立学園(東京)出身の大津氏は、2005年に行われた第84回全国高等学校サッカー選手権大会に出場。1回戦で作陽(岡山)に1-2で競り負けたが、全国の舞台を経験した。いまや選手権は、開催時期に連日のようにテレビやメディアに取り上げられ、日本中から注目されるスポーツ界屈指のトピックとなっている。

「(選手権は)とにかくブランディングが素晴らしい。あの舞台に立つために、という目標設定も上手く設計できている。僕の世代は、高校サッカーに初めから行きたいという人は少数派で、ほとんどがユースを目指して、入ることが叶わず、高校サッカーでのプレーという感じだったと思うが、今となってはやはり高校サッカーの注目度が違うので、そこの市場感は大きく変化している」

 高校サッカーという”表舞台”は、選手にとって貴重な経験となることは間違いない。ただ、重要なのはピッチ上の物語だけではない。「もしあの時、ユースに昇格できていたら、もしかしたらプロになれていないかも、と思ったりしている」。大津氏は、ユースに落ちて高校サッカーに行き着いた”舞台裏”に価値を見出していた。

「高校サッカーを経験したことよりも、挫折をした経験が大切だった。僕自身もユースに昇格できなかった立場。ということは、ユースの選手たちよりも努力しないと、超えることはできない。それを常に意識した環境にいた。目標を達成できなかった時に努力する強さを身に付けられたのは、挫折があったからこそ。これは育成面でも非常に大切なポイントだと思う」

 同僚たちも、ユースに落選した者ばかりだった。「だからこそ、皆口揃えて言っていた。『あいつらよりも強くなってやる』」。誰一人として練習で気を抜くような選手もおらず、全員が必ず上手くなって這い上がると強い信念を抱いてサッカーに取り組んだ。「そういった環境こそが、リバウンドメンタリティーを鍛える成長の後押しになった」。

 高校卒業後に柏レイソルでプロキャリアをスタートさせた大津氏は、海外挑戦を経て、2012年開催のロンドン五輪では最多3得点を記録し、ベスト4進出の立役者となった。昨年には負傷がきっかけで、33歳という若さで現役を引退することになったが、現在は株式会社ASSISTの代表取締役社長として新たなスタートを切っている。

 目標が未達成に終わったあと、改めて目標を設定し直し、そこに向かって行く”再起力”はスポーツ用語でいえば「リバウンドメンタリティー」だが、ビジネス用語でも「レジリエンス」と呼ばれる。スポーツ業界に限らず、我々が過ごす一般社会でも非常に重要な能力と言える。


大津祐樹氏が選手権とユースについて話してくれた【写真:Football Assist】

■ユースと高校サッカーの関係性に変化

 選手権の決勝戦ともなると、実際に日本代表の試合にも劣らぬほどの報道陣の押し寄せぶりだ。たとえプロサッカー選手になっても、選手権の時ほど熱量のある取材を受けることは、もしかしたら少ないかもしれない。記者として選手権とJリーグの試合に足を運んできたが、プロ以上にアマチュアの現場に熱量がある逆転現象は、もはや見慣れた光景となりつつある。

 極端な表現をすると、ひと昔前までユースに昇格できなかった選手の受け皿のような立ち位置だった。それがいまや「青森山田に行きたい。市立船橋に行きたい」と、自らの意思で高校サッカーを選択する選手もまったく珍しくはなくなった。昨今は高校サッカー出身の選手が日本代表に選出されるケースが急増していることもあり、ユースよりも高校サッカーのほうがキャリアビジョンを描きやすくなっている背景もあるのかもしれない。

 しかし、大津氏は「これからはユースが強くなる時代が来ますよ」と明言する。「今のユースの選手たちは、『高校サッカーの奴らに負けたくない』と思っているはず。目標設定がしやすい環境にある」。鎬を削る関係性に持論を展開した。

「僕はイタチごっこだと思っている。高校サッカーのステータスが高まれば、その次はユースのレベルが確実に上がる。追いかける立場の人たちが、相手を追い抜かそうとする時の努力のパワーというのは、本当に凄まじい。逆に、追いかけられる立場の人たちの努力の目標設定というのは難しい。追い抜かれないというのは、追い抜くよりもハードルが高い」

 かつてチャレンジャーだった高校サッカーに、ユースが挑む立場にもなるような環境こそ、好循環な相乗効果を生み出す。高校サッカーもユースの存在があるからこそ、自分たちを高められる。ユースも、高校サッカーに負けたくないと燃える。「その切磋琢磨が、育成の真骨頂だと思っている」と、大津氏は今後のさらなる”高め合い”に期待を込めていた。(城福達也 / Tatsuya Jofuku)

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