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神戸を牽引したベテラン選手たちの覚悟 リーグ連覇を手繰り寄せた“経験”【コラム】

FOOTBALL ZONE / 2024年12月14日 20時20分

■【カメラマンの目】神戸はリーグ連覇、天皇杯との2冠を達成

 ヴィッセル神戸がJ1リーグ連覇を達成した2日後、Jリーグアウォーズの舞台でMVPに選出されたのは武藤嘉紀だった。記録に残る得点やアシストだけでなく、鍛え抜かれた身体から繰り出す迫力あるプレーで攻撃面を支え、優勝に大きく貢献した武藤の選出は、誰もが納得するところだろう。

 シーズンを通して覇権を争ったライバルたちが話題にのぼるなか、神戸の動静の波は穏やかだった。しかし、着実に勝ち点を積み上げてリーグ上位をキープし、最後は優勝を奪取したのだから、そのしたたかさには舌を巻くばかりだ。

 今シーズンの話題を最初にさらったのは、J1初挑戦となった町田ゼルビアだった。昌子源を中心としたDF陣たちが、世界基準を意識した激しいプレーで相手の自由を奪い、そこから素早い攻撃を仕掛けるサッカーでJ1の舞台を席捲し、首位の座を長くキープした。

 リーグ後半になって、大きく注目されたのがサンフレッチェ広島だ。夏に川辺駿、トルガイ・アルスラン、ゴンサロ・パシエンシアと的確な補強を行い、チーム力をワンランク上げることに成功し、主役の座を虎視眈々と狙った。ミヒャエル・スキッベが指揮官となって3年目となる今シーズンは、シーズンを通して安定感ある戦いぶりを見せ、一時は優勝も限りなく現実的となっていた。

 そうしたライバルたちとのデッドヒートを神戸は制した。大きな話題こそ少なかったが、基本技術の高い選手たちが織り成すチーム戦術は、リーグ初制覇の昨年からさらに磨きがかかり、最終盤で首位に立つとライバルたちを振り切り、優勝を成し遂げたのだった。

 優勝のかかった最終節の対湘南ベルマーレ戦でも、勝たなければならいというプレッシャーをものともせず、盤石の試合運びで勝利を挙げた。


今季13ゴール7アシストを記録し、MVPに輝いた武藤嘉紀【写真:徳原隆元】

■神戸、広島、町田の共通点

 神戸が標榜するスタイルは堅守速攻を究極的に追求したサッカーだ。文字にしてしまえば簡単だが、このサッカーを表現するには、選手に素早い状況判断と、ボールを繋げるパス、トラップといった基本技術で高いレベルが要求される。さらに、連動性のあるプレーを生むために、常に選手間での意思の疎通が必要となる。神戸の選手たちは吉田考行監督の指導のもと、高度な戦術をスムーズにこなす技術を身につけ、そしてピッチで表現し結果を出した。

 このスタイルは素早い展開から相手を攻め落とす、ダイナミックな攻撃が目を引くところだが、堅守の部分も勝利において重要な役割を果たしている。

 最終節の試合でも中盤の守備は、井手口陽介らが網を張るように面を意識して守り、進出して来る相手の動きに素早く反応しては、そこを的確に抑え込んでいった。相手の出鼻を挫くように突破の糸口を作らせない素早さは、選手たちの高い集中力を感じさせた。そして、自陣ゴール前の最終局面では、マテウス・トゥーレルを中心としたDF陣が、1対1の勝負で勝利する。その守備はまさに鉄壁だった。

 攻撃に転じれば扇原貴宏がピッチを広く使ってボールを動かし、井出口のスルーパスや武藤嘉紀の鋭いドリブル突破でチャンスを作った。前線でターゲットマンとなる大迫勇也は、ボールを受けると状況によってワンタッチでボールを散らし、また個人技を駆使して相手守備網を突破していった。

 なにより神戸のサッカーの力強さを感じさせるのは、サイドを中心に敵陣へと進出し、そこから得点を奪うためのセオリーとなるゴール前に供給するラストパスを、相手に余裕を与えないほど、これでもかと繰り出すところだ。ピッチレベルから見ていても、相手にしてみればマークの対処が追いつかず、ゴールを守り切るのは非常に難しいと感じさせるほどダイナミックな攻撃を展開する。

 神戸、広島、そして町田とリーグ上位を占めたクラブが今シーズンに見せたチームスタイルは、共通点を多く含んでいる。堅守は3チームに共通し、相手ゴール前へ次々とラストパスを供給する教科書通りの崩しのプレーは、神戸と広島のゴールゲットの重要な手段となっていた。

 こうした共通項を持ち、優勝を争ったチームの最終的な命運を左右したのは、どんなことだったのか。その3チームにおける差は、JリーグアウォーズでMVPを獲得した武藤が語った、大迫と酒井高徳の存在が大きいという言葉で明らかになった。

 3チームに所属するどの選手も、サッカーに対して真摯な思いを持ち、全力でこのスポーツでの成功に取り組んでいたことだろう。そのなかで神戸は、豊富な経験を持つベテランの大迫と酒井が、サッカー選手としてのあるべき姿を示し、それを手本として全選手がシーズンを通して高い意識を持ち続け、好パフォーマンスをピッチで繰り広げた。

 自らに限界を作らず、現状にも満足せず、常に向上心を持って練習と試合に臨むベテランの存在が優勝へと導いたと言える。そして、その神戸のなかでひと際、光彩を放ったのが武藤だった。

 サッカーへの飽くなき追求によってJ選手の頂点に立った武藤が、視線の先に見るさらなる高みはどんなものなのか。来シーズンのプレーに期待が膨らむ。(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)

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