本田圭佑が投資する、スマートコントラクトの「次」をつくる会社とは?

Forbes JAPAN / 2018年5月7日 12時0分

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仮想通貨が投機対象となりつつあるいま、ブロックチェーン業界はこの革新的テクノロジーの「通貨以外」の可能性を模索している。そうした中、それを可能にするブロックチェーンのひとつが、2013年にヴィタリック・ブテリンが考案した「Ethereum(イーサリアム)」だ。

イーサリアムにあらかじめ記載された契約を自動的に実行する「スマートコントラクト」によって、送金から決済、不動産や電力の取引、デジタルアイデンティティの認証、ゲームでの課金に至るまで、あらゆる取引を管理者や中央機関を介さずに自律的に行うことが可能になる。

しかし、あらゆるコンピュータープログラムと同様、スマートコントラクトのなかに、もしバグがあれば大きな損害につながってしまう。過去に起きた2大事例を挙げるとすれば、2016年6月に起きたThe DAOのハッキング事件(5500万ドル相当のイーサが損失した)と、2017年11月のParityマルチシグウォレットでのバグ(3000万ドル相当のイーサを取り出せなくなった)だろう。

「ぼくもDAOに投資をしていたんだけど、ハッキングが起きて、もっていたすべてのお金を失くしてしまったんだ」とリチャード・マは言う。

ニューヨークで日々数百万ドルという資産を動かすアルゴリズムトレーダーとして働いていた彼は、DAOの事件をきっかけにスマートコントラクトと彼が書いていたプログラムに共通点を見出したという──どちらも巨額のお金を動かすプログラムであり、バグによって致命的な損害が生じうるものだ、と。

現在27歳のリチャードは2017年7月、スマートコントラクトのためのセキュリティーカンパニー「Quantstamp(クオントスタンプ)」を創業する。開発者たちは「QSP」トークンを払うことで、自身のスマートコントラクトをQuantstampが提供する自動テストにかけることができる。決済プラットフォーム「Request Network」の監査をはじめ、すでに多くのスマートコントラクトがQuantstampによってテストされているという。

2017年11月にはICOにより3000万ドルを調達し、審査通過率3%ともいわれるシリコンバレーの名門スタートアップ養成所・Yコンビネーターに参加。そして2018年2月には、本田圭佑が手がける個人ファンド「KSK Angel」からの投資を受けている(金額は非公開)。

気鋭のブロックチェーンカンパニーは、「次のインターネット」とも呼ばれるこの技術にどんな可能性を見ているのだろうか? 4月に来日したリチャードに、Quantstampのビジョン、本田圭佑との知られざるストーリー、日本市場の可能性を訊いた。

ブロックチェーンは世界から境界をなくし、世界を公正な場所にする

──まずは、Quantstampのミッションを教えてください。

すべての人にとってブロックチェーンをより安全なものにすることだ。ブロックチェーンがメインストリームの技術として一般の人にも使われるようになるためには、2つのハードルがあると考えている。ひとつが脆弱性の問題。ハッキングのような事件が起これば、人々は怖がってしまい、新しいテクノロジーを使わない。これこそがぼくらがQuantstampをつくった理由でもある。

もうひとつの課題は、ブロックチェーンを簡単に使えるものにすることだ。たとえば90年代前半のインターネットはまだ使いづらく、多くの人にとって身近なものではなかったけれど、これはいまのブロックチェーンの状況に似ていると思っている。

インターネットは90年代を経て、より使いやすくなり、2000年代になってアマゾンやフェイスブック、そしてiPhoneが登場し、誰もが使える存在になっていった。これと同じことが、ブロックチェーンについても起こるだろう。今後5年間で、ユーザビリティの問題も解決されていくと思う。



──リチャードさんは、ブロックチェーンのどんなところに魅せられたのでしょうか?

ひとつは「境界のない世界」をつくれること。ブロックチェーンを使うことで、グローバルなビジネス、グローバルなコミュニティをつくることができるからね。

もうひとつはブロックチェーンがフェアネスをつくり出すテクノロジーであることだ。ブロックチェーン上のすべてのものは透明性をもち、誰しもアクセスすることができる。ブロックチェーンは世界をより「公正な場所」にすることができると信じている。

ブロックチェーンは、あらゆるセクターにとって重要な技術となるだろう。あらゆるビジネスにおいて仲介業者をなくし、政治からは汚職をなくし、チャリティにも使えるだろう。つまりは多くの人々の生活にかかわる技術になるということだ。だからこそぼくらは、この技術が完璧に安全であることが必要だと考えている。

──昨年7月に創業してから、会社はものすごいペースで成長しています。Quantstampの成長の秘密は?

素晴らしいチームをもっていることが会社の強みだ。ほとんどのメンバーはソフトウェア認証のPhD.をもっており、アマゾンやグーグル、マイクロソフト、アップルといった企業で働いていたメンバーもいる。

エンジニアリング部門のVP(ヴァイスプレジデント)を務めるエヴァン・ヘンシャウ・プラスはツイッターが雇った最初のエンジニアだ。こうした「シリコンバレーの知」を使うことで、素早くサービスを構築・提供することが可能になる。ぼくとCTOのスティーブン・スチュアートの2人で始めた会社はいま、30人ほどの規模になっているよ。

本田圭佑とテクノロジーについて語り合った夜

──本田圭佑さんとはどのように出会ったのでしょうか?

彼はYコンビネーターのリストからぼくらの会社を発見し、Quantstampがスマートコントラクトを次のレベルに引き上げると感じ、連絡してくれたんだ。そしてQuantstampの最初の投資家になりたいと言ってくれた。

実のところぼくらは昨年11月にICO(イニシャル・コイン・オファリング)で3000万ドルを調達したところだったから、金銭的な面でいえば投資は別に必要じゃなかった。でも、彼の誠実さとビジョンに惹かれて、2018年1月にメキシコまで会いに行くことにしたんだ。

パチューカで本田の試合を観て、その後、彼の家で鍋を食べながら彼の夢が「テクノロジーによって貧困を撲滅すること」だと聞いた。現在の社会がいかに不公平な経済システムをつくりあげているか、そしてテクノロジーを使うことで世界をより平等なものにすることができないか──そんなことをディナーを食べながら話し合った。



ぼくは、本田がただのサッカー選手じゃないことを理解したよ。彼は多くの時間をビジネスのこと、社会にポジティブなインパクトをもたらすために何ができるかということを考えるために使っている。KSK Angel Fundが世界初のQuantstampの投資家になってくれたことを誇りに思っている。



──Quantstampは、Omise GOが2018年5月に渋谷につくるブロックチェーンに特化したコワーキングスペース「Neutrino(ニュートリノ)」のファウンディングメンバーにもなっています。ブロックチェーン市場として、日本にどんな可能性を見ていますか?

Quantstampはシリコンバレーをベースにしている会社だけど、それでも日本に来るたびに「日本は未来を生きている」と感じている。仮想通貨に対してオープンで、多くの日本の大企業がその可能性を探っている。Neutrinoでは、世界中のブロックチェーンカンパニーがここ日本で知識を共有することで、ブロックチェーン業界を活性化させたいと思っている。

日本は仮想通貨に関する規制も進んでいるし、社会は消費者が安全であることをとても重要視する。(編注:日本では2017年4月より、仮想通貨の定義やその発行・使用におけるルールを定めた「仮想通貨法」が施工されている)

この2つによって、日本では仮想通貨が安全に使われるようになるための最適な環境がつくられていると思う。安全性を大事にするのはぼくらのミッションでもある。だからこそ、ここにはブロックチェーンビジネスの次の波を起こすための環境とマインドセットがあると考えているんだ。

ブロックチェーン普及のカギは「インセンティブの設計」

──ブロックチェーンが「通貨以外」のあらゆるものに使われようとしているいま、その安全性を担保するQuantstampは、ブロックチェーンの可能性を広げるのを促進しうる存在だと思います。リチャードさんは、ブロックチェーンが社会に普及することのいちばんの恩恵はどんなものだと考えていますか?

ブロックチェーンの最大の恩恵は、それがインセンティブの伴うネットワークであることだ。正しいインセンティブが設計されたシステムをつくれば、人間の行動をよりよくすることができるだろう。たとえば経済学には、多くの人々でリソースを共有すると、誰もそのリソースに対して責任をもたなくなってしまうことでリソースが枯渇する、「コモンズの悲劇」と呼ばれる法則がある。

でも、もしインセンティブの設計を変えることができれば、人々はリソースを守りながらそれを利用できるようになるかもしれない。この特徴こそが、ブロックチェーンを特別なものにしているものだと思う。

これまでにYコンビネーターが投資をしたたくさんの企業からいくつかのユニコーンが生まれてきたけれど、今後はブロックチェーン業界においても同様のことが起きるだろう。つまり、いま生まれている何千というブロックチェーンカンパニーのなかから、2つか3つか、あらゆる人々に役に立つような企業が出てくるはずだ。最終的にはそうした企業が、新しいインセンティブシステムを構築することになる。グローバルで、透明性のあるシステムをね。

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