ネットフリックス幹部が明かす「この5年で得た学び」

Forbes JAPAN / 2018年11月15日 8時0分

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約20年間で、DVD宅配サービスの企業から世界有数のエンターテインメント企業へと変貌を遂げたネットフリックス。今年、同社が製作したオリジナルコンテンツが過去最多23部門でエミー賞を獲得するなど、エンターテインメント業界に多大なインパクトを残している。

ネットフリックス躍進の秘訣はオリジナルコンテンツのユニークさ、面白さはもちろん、何よりエンターテインメント業界における従来の常識を打ち破ったところにあるだろう。

例えば、同社のオリジナル作品を製作し始めた初期の頃の話として、こんなエピソードがある(詳細は別記事)。

それは、決定的に同社と他社との差別化を進めることとなったドラマの制作で起きたことだ。ハリウッドでは当時、ドラマを制作する際に必ずパイロット版の1話を制作してから意思決定を下す。これがエンターテインメント業界におけるコンテンツ制作の常識とされていた。

しかし、ネットフリックスは業界の常識、先入観に捉われなかった。それまでのメンバーの視聴動向のデータから、はじめから「当たる」自信があったために、パイロット版を制作せず、最初から2シーズンの制作を確約。それにより、デヴィッド・フィンチャー監督の『ハウス・オブ・カード 野望の階段』が誕生した。今月2日からは、いよいよそのファイナルシーズンが配信開始している。

それだけではない。他にも全エピソードの一斉同時配信を行うことで、ユーザーが一気見(ビンジ ウォッチング)が楽しめるようにするなどコンテンツ視聴のあり方も大きく変えた。

そんなネットフリックスのコンテンツ戦略を担っているのがCCO(コンテンツ最高責任者)のテッド・サランドスだ。


シンガポールで開催したイベントで「ネットフリックスの進化」について話すサランドスCCO(ネットフリックス提供)。

シンガポールで開催されたイベント「See Whats Next: Asia」で、「世界の中でもアジアは随一の創作力が集まっている地域」と語り、今後、アジアのクリエイターへの投資、アジア発のコンテンツ配信に注力していくと発表した彼は、どんな戦略を思い描いているのか──サランドスに話を聞いた。

ネットフリックスの強さは「ローカライズ」にあり

──昨日のイベントで韓国やインドをはじめ、アジアの製作者への投資を拡大し、アジア発のコンテンツ配信に注力していくと発表されました。その狙いを教えていただけないでしょうか?

韓国やインドもそうですが、日本のことも忘れてないですよ(笑)。今後、コンテンツ制作にますます注力していく予定です。

──ありがとうございます(笑)

アジアに注力する狙いは、高い創作力が集まっていること、アジア発コンテンツの視聴時間の半分以がアジア以外の地域であることに加え、コンテンツの好みは国ごとに異なることも大きな理由です。

私たちネットフリックスはアジアでのサービス展開よりも前に、アメリカなどの国で先にオンラインストリーミングサービスを展開しています。実際、サービスを展開していく中で分かったのはブラジルやメキシコなど、国ごとでユーザーのコンテンツの好みは異なる、ということです。

例えば、ブラジルには中南米で最大規模のテレビ局「グローボ」があり、彼らがマーケットシェアを握っています。そうした市場でサービスを展開し、有料メンバーを増やすのは困難。


2011年に開催された、ブラジルでのローンチイベント(photo by Arthur Simoes)。

それを踏まえて、ネットフリックスが採った戦略は「各地域のクリエイターに投資し、自由にコンテンツを創り出してもらう」ということでした。

各地域のクリエイターが制作したコンテンツは、各地域の文化に適する。そうして生まれたコンテンツは各地域で受け入れられた後、世界中の人たちに広がっていく。だからこそ、私たちは各地域のクリエイターに投資し、コンテンツ制作に注力していくのです。

──とはいえ、各地域発のコンテンツが簡単に世界中で受け入れられるとは思えませんが、どうお考えでしょうか?

おっしゃる通りです。例えば、ネットフリックスが初期に制作したノルウェーを舞台にした初のオリジナルコンテンツ『リリハマー』の内容は、なかなかアメリカで理解してもらえませんでした。

もちろん、一筋縄ではいかないと思いますが、私たちは常に各地域にある”本物のシーン”を伝えることを意識してコンテンツを制作しています。その地域のリアルを外に伝え、興味を持ってもらえるようにする。それにより、コンテンツを世界中へと広げていくことができる、と思っています。

──「アジアは高い創作力が集まっている地域」と仰っていましたが、具体的にどのような点に創作力の高さを感じますか?

私は日本ほど原作が豊富な国はないと思っていますし、日本アニメのクオリティーは他国が真似しようと思っても真似できない。世界に誇るべきクオリティーの高さだと思っています。


新たに発表された日本発のアニメコンテンツ「虫籠のカガステル」のキーアート(ネットフリックス提供)。

韓国のKドラマ、インドのボリウッドもそうです。アジア地域における多様性や国ごとのコンテンツスタイルは、とてもユニークだと思います。

その多様性や多彩なスタイルを活かしたコンテンツを配信すれば、より多くのファンを獲得できると確信しています。

──確かに、アジアは言語など多様性に溢れています。多様性を理解するために何か工夫していることはありますか?

各地域の文化を学ぶために、実際に各地域へ足を運ぶようにしています。

東京、ムンバイ、それからシンガポールもそうですが、各地域へ旅をする。それによってネットフリックスがブランドを築いていくための知識を得ています。その土地その土地で得られる知見や経験、文化の学びひとつひとつ得ることで、作品作りに生かすことができると思っています。

CCOが定義する「良いクリエイターの条件」

──『ハウス・オブ・カード 野望の階段』はネットフリックスが過去に蓄積したデータをもとに制作の意思決定が行われたと聞いています。現在、コンテンツ制作にあたって「データ」はどれくらい重視されているのでしょうか?

データは単なるフィードバックであり、意思決定を下すために必要な情報を提供してくれるツールでしかありません。私たちがコンテンツ制作する上で何よりも重視しているのが、ユーザーが興味を持つストーリーかどうかです。

作品を観た人が忘れられなくなるくらいストーリー性のあるコンテンツを制作する。私たちは常にその意識を持って、日々、コンテンツを向き合っています。

──ネットフリックスはクリエイターの自由度が高いことでも有名です。

はい、それは確固たる当社の信念です。ですから、良いコンテンツを制作するためには、きちんとしたクリエイターを選ぶことが大切です。良い人選が行えれば、コンテンツの細かな部分はクリエイターに任せて、私たちは彼らを楽しませる存在でいればいい。


『モーグリ: ジャングルの伝説』の撮影風景。アンディ・サーキスは監督もしながら、出演もしている(ネットフリックス提供)。

例えば、今回のイベントに参加しているインドのクリエイターたちは、『ナルコス』のエリック・ニューマン監督に会うのをすごく楽しみにしていました。

ネットフリックスはグローバルにサービスを展開しているからこそ、各国の優秀なクリエイターたちが交流を図りながら知識の共有を行うことができる。これもコンテンツ制作におけるひとつの強みです。

──サランドスさんが考える「良いクリエイターの条件」は何でしょうか?

いくつかポイントがあります。面白いストーリーを持っており、ユニークな個性がある。そしてみんなが一緒に時間を過ごしたいと思う人間性。この3つを兼ね備えていることが大切です。

常に好奇心を持て。自分の中に正解があると思ってはいけない

──オンラインストリーミングサービスの有料メンバーは若年層が多いと思います。今後、より高めの年齢層へアプローチするために考えていることはありますか?

何より重要なのはコンテンツのラインナップを増やすことです。ユーザーが観たいと思う作品を提供し続けていき、その中でさまざまな調整を行っていこうと思います。

おっしゃる通り、オンラインストリーミングサービスの利用率は若年層の方が高いです。しかし、それは10年前のアメリカも同じ状況でした。


(sitthiphong / Shutterstock.com)

10年前、アメリカでもオンラインストリーミングサービスを使うのは若年層がメインでしたが、今は違います。オンラインストリーミングサービスが少しずつ普及していったことで、幅広い世代が使っています。アジアもいまは若年層がメインですが、きっと時間の流れとともに変わっていくでしょう。

──蜷川実花が監督を務める『Followers』や園子温が監督を務める『愛なき森で叫べ』など、日本のドラマにも注力されていますが、今後の展開をどのように考えているのでしょうか?

日本のドラマは私たちも強い興味を引き続き持っていますし、私自身これから観られる日本初のオリジナル実写コンテンツが待ちきれません。今後、積極的に進めていければと思っています。

ただし制作にあたっては、きちんとしたストーリーを発見する必要がありますし、そのストーリーに対して、どれだけのユーザーが興味を持つのか。そういったことも考えなければなりません。



今年8月に配信を開始した『宇宙を駆けるよだか』は日本、それ以外の国でも非常に評判が良かったです。ストーリー性が優れていただけでなく、一流のクリエイターと共に製作、非常に高いクオリティの作品に仕上がったからこそです。

今後は視聴者のニーズを的確に汲み取りながら、地元の優秀な制作陣とともに、世界中で見ていただける日本の実写作品も幅広く展開していければ、と思っています。

──今回発表されたアニメコンテンツの中で『オルタード・カーボン』が印象的だったのですが、今後は自社コンテンツのフランチャイズ化に注力していくのでしょうか?

自社コンテンツのフランチャイズ化も、コンテンツのラインアップを増やす方法のひとつだと考えています。ただし、何でもフランチャイズ化すればいいというわけでない。展開の方法は、きちんと考えていかなければいけないと思っています。


「モーグリ: ジャングルの伝説」場面写真(ネットフリックス提供)。

──またネットフリックスはワーナー・ブラザーズから配給権を獲得した『モーグリ: ジャングルの伝説』など、ライセンス契約によってメジャータイトルを配信できるのも強みだと思います。なぜ、ネットフリックスは世界中のスタジオやコンテンツプロバイダとライセンス契約を結べるのでしょうか?

「常にユーザーに対して、素晴らしいコンテンツを提供し続ける」という考えに共鳴してくれているからだと思います。

私たちはユーザーに豊富なラインナップを提供し、その中から自分の趣味・嗜好に合った作品を見つけてほしいと思っています。そのための手段としてオリジナルタイトルもあれば、メジャータイトルをライセンス契約して配信すること行っています。世界中のメンバーの方々ひとりひとりが、観たいと思ってもらえる作品を提供したい。

その考えを持っているからこそ、世界中のスタジオ、コンテンツプロバイダと仕事ができているのです。

──サランドスさんは「CCO」として世界で最も成功されている、という評判もありますけれど、CCOの仕事を通して、どのようなことを学ばれましたか?

まだまだ成功したとは全然思っていませんよ(笑)。CCOの仕事は、良好な関係性を築けるクリエイターを選び、信頼している社内のチームに仕事を割り振ることだと思っています。

そうした仕事を通して、私が学んだことは常に好奇心を持ちながら、世界中を旅すること。そして、自分の中に正解があると思ってはいけないということです。
 

(ネットフリックス提供)

例えば、こんなことがありました。イギリスでは全くヒットしなかった作品をネットフリックスで配信してみたところ、3年間も続くヒット作になった。このことから、自分の中に正解があると思うのではなく、常に好奇心を持ちながら、さまざまな物事を見ていく。これはとても重要なことなのだと思いました。

いつまでも好奇心を忘れず、一緒に働きたいクリエイターと共に、面白い作品を皆さんにお届けしたいと思っています。

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