日産の事件を「ジャパンブランド」崩壊の第一歩にしないために

Forbes JAPAN / 2018年12月14日 7時0分

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先日の会食の席で、「最近、日本企業の不祥事が続きすぎる」という話題になった。検査の不正などやりすぎだろう、というわけだ。

すると、調査会社に勤める知人が「いやいや、大きな声じゃ言えませんが、実際、本当に不正を全部見つけようと思ったら、大変なことになるんじゃないですか?」という。

確かに、企業には、未必の故意としても、どこかに何らかの瑕疵はあるだろう。叩いて全く埃の出ない企業なんて、世界中で探す方が難しいかもしれない。

そのうえで極論するなら、日本企業で大事なのは、実際は多少違っても「あの企業は日本企業だから、ものづくりはきちんとまじめにやっているだろう」というイメージが保てるかどうかだ。それこそが、今われわれが世界で享受している「ものづくり日本」という「ジャパン・ブランド」の一側面でもある。

国は企業のアンブレラ・ブランド

この「ものづくり日本」への信頼は、戦後、テイジンなどの軽工業に始まり、重工業、白物家電、AV機器、そして車と、今までの日本製品の「丈夫で、壊れにくい」という品質が、営々と築いてきたものだ。

第二次世界大戦直後は、日本製品といえば「安かろう、悪かろう」の代名詞だった。しかし、先人たちの努力で、そのイメージは、高度経済成長期に、一気に「安くて、よいもの」に変わり、バブル後期以降は、もはや「安くはないけれど、よいもの」のイメージを獲得し、それを保っていたわけである。

日本企業への評価の転換は、さながら、安いだけと思われていた中国企業の先進性への評価が、今まさに高まっているのと同じような状況であったと言ってもよい。

国のブランドイメージと企業のブランドイメージは、簡単に分かつことはそもそもできない。たとえば、コカコーラやマクドナルドがアメリカという国のイメージに影響を与えているのか、アメリカの持つカジュアルなイメージに両社が添っているのか? 

ダイムラーやヘンケルがドイツのイメージに影響を与えているのか、ドイツ企業の製品と聞くから、飾り気なく実用的で、丈夫そうといったイメージを持つのか。それらは分かつことはできないのだ。

企業は、国のブランドイメージをうまく使って商売をすればいい。国のブランドは、その国に所属するすべての企業のアンブレラ・ブランド(傘のようにその下にあるブランドのイメージに影響を与えるブランドのこと)なのだ。良いイメージであることは、とても重要なのである。

しかし、国のブランド戦略を描き、そのイメージを一元的にコントロールすることはまずできない。なぜなら、たとえばものづくりの観点でつくられる日本のイメージは、世界で広く認知されるすべての日本メーカーのイメージとジャパンブランドが相互に強く影響を与え合っているからだ。

海外に本格展開を始めてから30年程度のトヨタを筆頭に、今、世界には日本のメーカーが数多く進出している。それらどの企業にも、大なり小なりジャパンブランドを担う責任が生まれているのだ。ちなみに、このような国のブランドと企業のブランドの関係を、マーケティングの世界では「ソシオ・カルチャラル」という言葉を借りて表現することがある。

さて、昨今、このジャパン・ブランドに、陰が差しているように思うのは私だけだろうか? ことに、危機感を覚えたきっかけは、日産のゴーン氏の逮捕である。確かに犯罪は許されるものではない。しかし、まだゴーン氏は犯人ではなくて、疑いをかけられているだけだ。この状況は、海外からはどう見えるだろうか?

まず、ゴーン氏の給料は高いかもしれないが、馬鹿高くはない。世界には100億円以上もらっている社長もざらにいる。しかも、日本人の日産の経営者たちは、司法取引をして捕まっておらず、まだ罪が確定もしていないなかで外国人2人(ゴーン氏と前代表取締役のケリー氏)だけが逮捕されている。推定無罪の法則があるだろうに、企業の役職もさっさと解任された状況だ。

それこそ海外から見たら「国まで加担するのか?」と、ゴーン氏に同情が集まる要素がたくさんあるように思える。そのうえ、もしも、無罪なんてことになったら……。後世、あれこそが「ジャパンブランド」崩壊のきっかけになったと言われないことを願わずにはいられない。

ブランドは、漢方薬のようなものだ。効果効能はよくわかっているのだが、作用機序が解明されているわけではない。そのブランドの特徴のひとつとして、ある日いきなり崩壊する、ということがある。

マクドナルドのブランド崩壊劇

マクドナルドはその一例になるかもしれない。バブル時代、1985年のマクドナルドはちょっとした”いいもの”だった。当時、ビッグマックは単品で420円、ハンバーガーも230円。ドリンクとポテトをつけたら700円近くという立派なお値段だった。

しかし、バブル崩壊後、「39セット」「100円マック」と値段を下げ続け、そのブランド崩壊の決め手となったのは、2013年に始めた60秒サービスではないかと思う。



マクドナルドの狙いとしては、もう価格は下げられないから、回転率を上げるためにオペレーションをより改善しよう、という狙いでのプロモーションだったのだろうか。しかし、その結果、崩れた商品の写真がSNSに多く投稿され、強く非難されることとなった。

そのマイナスの余韻が残るなか、2014年にはマグドナルドの中国の取引先が、消費期限切れの食肉を使っていたことが発覚。そして、立て続けに異物混入のニュースが報じられた。ちなみに、その頃のハンバーガーの価格は、安いときには50円で、1985年と比較すると約8割引き。もはや同じ商品の値段ではなかった。

さて、何が言いたいかというと、このような異物混入や、取引先の不祥事は2014年に急に起きたわけではないだろう、ということである。

英語には「Last Straw(最後のわら)」という表現がある。ギリギリのところまで重荷を負ったラクダは、その上にわら1本でも積ませたら参ってしまうということから、たとえわずかでも限度を越せば取り返しのつかない事になるという意味だ。

個人的には、60秒チャレンジこそがマクドナルドのLast Strawであったと思う。本当のところを言うと、ちょっとした混入は、昔から起きていたのだろう。

しかし、ちょっとしたいいものとしてブランドができていたため、安くなっても「マックだから品質は保証されているだろう」というイメージはどこかで保たれていた。だから、ちょっとくらいの異物混入があったとしても、人は騒ぎ立てなかったし、取引先の行状まで洗い出したりしなかった。

しかし、60秒チャレンジでSNSに拡散された歪んだバーガーが、「あんな商品を作るマックだから、こういうことが起きてもしかたない」と、ついにそのイメージを変えてしまった。そういうことであろうと思うのだ。

事実、今年の7月に、マクドナルドは再び食品表示法違反で行政指導を受けているが、業績は続伸中だ。再びブランドイメージが回復し、「マックだから品質は保証されているだろう」というイメージが再び勝ってきているのだと思う。

トヨタが優良企業であり続ければ

検査の不正が次々と明るみになって騒がれているのは、ジャパンブランドも同じだ。たぶん、昔からたくさんあったのだ。それが今、どんどん表に出つつあるのは、シャープやタカタや東芝など、「ものづくり日本」を支えていたはずの日本企業の経営不振や不正をきっかけとした凋落のせいだろう。

もはや、日本がものづくりの高品質が保証された国ではないということが次々と明らかになるこういった過程は、マクドナルドが値段をじわじわと下げていった過程にダブって見える。

先ほども書いたが、国のブランドイメージは、海外における日本企業それぞれのブランドイメージと切っても切り離せない。ゴーン氏の事件を生かすも殺すも、まずは当事者の対応次第であろう。まずは日産と三菱自動車、それに日本の司法には早急に世界の消費者が納得する説明と対応をお願いしたい。ことは対日本ではなく対世界なのだ。

そして、今や日本のものづくりの象徴となっているトヨタは、同じ自動車産業界にいる会社として優良企業であり続けることはとても大事だろう。

同時に、すべての日本のメーカーにもできることがある。今こそ「あれは日産といういち会社の事件で、日本企業はやっぱり世界で高品質な商品を提供するものづくり日本なのだ」と思わせなくてはいけない。ピンチは、チャンスでもある。日産の今回の事件を、ジャパン・ブランドのLast Strawにしてはいけない。

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