「5千円で100人でなく、5万円で10人」というサステナブル思考

Forbes JAPAN / 2019年1月24日 12時30分

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日本酒蔵の多様性を引き継ぐことを目的に事業展開を進めるナオライのメンバーが、これからの社会を創るキーパーソンに迫る連載「醸し人」。目に見える成果が求められる中、独自の時間軸を持って事業に取り組む「醸された経営者」はどのように世界を見ているのでしょうか。

第2回のゲストは、2017年から英字新聞ジャパンタイムズの会長を務めながら、新しい資本主義の在り方を提唱するsatoyama推進コンソーシアムを主催する末松弥奈子さん。

自然由来の資源に新たな価値を加えることで、将来性のある地域社会を目指す「里山資本主義」。その実現に向けて活動する同コンソーシアムの描く未来とは──。自然と「ちょうど良い付き合い」をしたいという末松さんに、これからの地域のあり方について聞きました。

──日本の地方創生の活動を「里山」という視点を通して発信するsatoyama推進コンソーシアムですが、参加してみると事業者への愛情やリスペクトの深さに驚きます。この活動で大切にしていることは何ですか?

私たちは事業者の皆さんを”実践者さん”と呼んでいるのですが、その人たちが向き合っているものが「自然」なのです。みなさん、自然と共生するためにとても大切な昔ながらの自然との付き合い方について経験と知識をお持ちです。

20世紀以降、世界の大きな流れとして、グローバリゼーションや大量生産・大量消費によって、ひたすら右肩上がりの成長を追い求めてきた時代がありました。ところが自然と向き合うと、いつも右肩上がりではありません。良い時もあれば悪い時もあり、その時々に合わせることが必要です。

大量生産・大量販売の中で出す利益と、自然と向き合いながらその年にできたものをきちんと理解してくれる人に販売をして出す利益とでは、同じお塩一つ取っても、捉え方が全く変わります。

作り手が、生活や事業を続けられる環境を整えることがとても大切です。だからこそ、商品はそれに見合った価格にすべきだと思います。私たちが生産者と事業を守っていかなければいけません。

消費者である私たちは、良いものを安く手に入れることだけではなく、生産者と消費者、そして自然がWIN-WIN-WINであることを考える必要があるのではないでしょうか。

人と自然の「ちょうど良い付き合い」を



──普通は、生産者と消費者(または需要と供給)の二者間で価格が決まっていくように思いますが、そこに「自然」が入るところに、弥奈子さん独自の視点を感じます。

持続可能な地域社会を考えた時、そこまできちんと向き合う必要があるのではないでしょうか。

地球温暖化とか海面上昇とか、そういう大きな話ではなくて、「目の前にあるこの食べ物はどこから来たのか?」と、生産者が向き合っている自然に目を向けてみることが大切なのです。商品の背景を知ることができるようになった今であればなおさら、そうすべきだと思います。

──昔だったら、消費者側はそれを知ることができなかった。

そうですよね。今の時代は、どこで、誰が、どのように作っているかを知ることができます。だからこそ、それら一つ一つを大切に扱っていきたいです。

──人と自然の共生について感じていることを教えて頂けませんか。

人間がきちんと慈しんで手をかけてこそ、自然の中で安心して生活することができるのだと思います。例えば農作物を作るときに草刈りをしたり、里山を守るために植林や伐採をしたりするように、人の手がほどこされてはじめて、自然と人間の共生と言えるのだと思います。放置し、手をかけないことは自然ではないのです。

私たちは安全に暮らすために、自然との付き合い方について長い時間かけて学んできました。人と自然、お互いにとってちょうど良いバランスが大事なのではないでしょうか。

ズバリ言うと、「自然は、自然のままで、人が手をつけちゃいけない」というような考え方が人と自然の共生を妨げてしまうのです。昨今、自然災害の被害が大きくなってしまった原因の一つでもあると思います。自然と丁寧に付き合い、向き合うことが重要であり、それなしでは様々なことが成り立たないのではないでしょうか。

──僕自身、「MIKADO LEMON」という酒のためのレモン畑をやって4年になりますが、まさに人為の天然の間を彷徨っている感じです。何も手を加えないと雑草に覆われ、逆に農薬を撒くと生物は死んでしまう。だから、「手間」が人の役割だし、営みなんだと感じます。

そして私たちは自然からの恵みで生きています。二毛作や二期作でより多くの収穫を得るための工夫をしたりすると同時に、土地を休ませる知恵も持っています。

自分たちだけが搾取するのではなく、土地も休ませてあげ、長く付き合っていくという姿勢は、これまでも当たり前にやってきたことなのです。


「スーパーでは、いつでもどんな野菜も手に入る一方で、道の駅に行くと地元で採れた旬のものを売っている。四季折々の楽しみ方がある。それって、すごく大事なことな気がします」と話す末松さん。

──自然と人の営みについて、海外から見た日本らしさはどんなところにあると思いますか?

国土や風土の持つ特性に向き合うということは、どこの国でも一緒だと思います。それは、普遍的なものではないでしょうか。課題先進国と言われている日本で、「里山資本主義」のような考え方で、地域のことは地域でできるだけ賄うことができるような社会が増えていったら面白いですよね。

太平洋を渡った食べ物は物流コストがかかるうえ、輸送時にはCO2が発生しています。流通を全く介さないのは難しいですが、地産地消のメリットは、新鮮なまま食べられることはもちろん、実は輸送コストが加算されず、地球にも優しい。そういった面もあります。

地域でできたものをその場で食べたり、あるいは収穫の体験をするために、人々が里山を訪れるようになると、外貨が稼げるようになります。しかし、一方で、自分たちの身の丈にあった規模をしっかり認識しておくことも大事です。

わざわざ自然を壊し、大きなホテルを作ったり、生産量を拡大するために大規模な投資をしたりすると、これまでのバランスが壊れてしまいます。「この町で受け入れられる人数はここまで」と、自分たちの地域のことをきちんと理解しておく必要があると思います。

ナオライさんが所在する三角島(広島県)でも、寝袋持参みたいな体験をしてもらうのはどうですか? 島に立派なホテルが必要なのではなくて、来てくださる方を、ここでしか体験できないホスピタリティでおもてなしするのも素敵だと思います。50年後、100年後の地域に責任を果たせるかを意識することが大切です。

皆で未来へ向かっていきたいですね



──そうした企画においても、いかに多くの人を呼び、流動させ、お金を儲けて……というところが価値とされているように感じます。これについてはどうお考えでしょう?

一人5000円で100人に来てもらうのではなくて、一人5万円で10人来てもらう、みたいな発想です。自分たちが継続できること、そして自分たちの守っていくものを明確にし、マスマーケティングに引っ張られないことが大事だと思います。

──それがポイントかもしれません。自分たちの軸をちゃんと持っておけば、「これだけできれば良いんだ」と頭の使い方が柔らかくなる気がします。

誰もがそうですが、我々は次世代の人たちへ、前の世代から引き継いだバトンを渡す橋渡しの役を担っています。そう考えると、自分を評価してくれるのは、今目の前にいる人だけではなく、次世代の人たちでもあるのです。

次の世代から見た時に「あぁ、この自然を守ってくれてありがとう」と言われるか、「まったくひどいことをしてくれたよね」と言われるか。次世代に対して恥ずかしいことをしていないかを常に考えている気がします。

──次世代への責任感のような感覚は、いつ頃から持たれていますか?

歴史とはそういうものではないでしょうか? 私の父はよく、「お前のためにやっているんじゃない。孫のためにやっているんだ」みたいな言い方をします。時間軸が10年、30年、50年という感覚があるのかもしれません。

人生100年時代になってくるわけですから、今みたいに企業が四半期で成果を求め、それを達成しているというのは、未来の利益の先取りをしている部分もあるわけです。今数字が上がっているから良いという考え方は、私はあまり好ましく思いません。そうではなく、みんなで未来に向かっていく感覚を持っていたいと思っています。

末松弥奈子◎広島県出身。1993年学習院大学大学院修士課程修了後、インターネット関連ビジネスで起業。ウェブサイト制作やオンラインマーケティングに携わる。2001 年ネットPRを提唱する株式会社ニューズ・ツー・ユーを設立。2013年より広島で船/海運/リゾートなどを手がける家業のツネイシホールディングスの経営に関わる。2017年6月より、「世界に開く日本の窓」として日本の現状と世界の動向を120年以上にわたって報道してきたジャパンタイムズの代表取締役会長・発行人。

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