「辞めていた可能性もある」 沢村賞2度・斉藤和巳氏を投手に導いた恩師の言葉

Full-Count / 2020年5月23日 11時31分

元ソフトバンクの斉藤和巳氏【写真:荒川祐史】

■2つ年上の兄につれられ、小学1年生から野球チームに入団

【私が野球を好きになった日20】
 本来ならば大好きな野球にファンも選手も没頭しているはずだった。しかし、各カテゴリーで開幕の延期や大会の中止が相次ぎ、見られない日々が続く。Full-Countでは選手や文化人、タレントら野球を心から愛し、一日でも早く蔓延する新型コロナウイルス感染の事態の収束を願う方々を取材。野球愛、原点の思い出をファンの皆さんと共感してもらう企画をスタート。題して「私が野球を好きになった日」――。第20回は元ソフトバンクの斉藤和巳氏だ。

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 京都で生まれ育った斉藤氏が野球を始めたのは、2歳年上の兄の影響が大きかったという。「兄の真似をして始めた頃から、ずっと野球が好きですね」と当時を振り返る。

「野球チームには小学3年生からしか入れなかったんですけど、兄が入って僕も一緒についていってたんでしょうね。特別に1年生から入れてもらって、ずっと年上の先輩とプレーしてました。5年生まで1つ上の学年のチームでやっていたんですよ」

 小学生にとって学年1つの差は大きい。体格でも勝るお兄さんたちに混じりながら、追いつけ追い越せと切磋琢磨した。当時のポジションは、というと「基本的にずっとキャッチャーでしたね」。自分から望んで選んだポジションというわけではなく「肩が強いというだけでキャッチャーですよ(笑)」となかば強制的だった。

 この頃、大好きだったのは巨人だった。関西圏とは言え、京都には意外と巨人ファンが多かったという。斉藤氏が巨人ファンになったのは、父の好みを受け継いだからだ。

「父親がずっとジャイアンツファンで、そのまま僕もジャイアンツファンになりました。幼い頃からジャイアンツ戦は毎日見ていましたね。KBS京都というテレビ局で6時から近鉄戦か阪神戦を見て、7時になるとジャイアンツ戦に変えるというのが日課でした。

 僕は中畑(清)さんが大好きで、ずっとファンでしたね。多分、子どもながらに自分にないガッツ溢れるプレーだったり、いつも絶好調っていう元気な感じだったりに惹かれたんでしょう。当時のジャイアンツは強くて、原(辰徳)さんが4番で、吉村(禎章)さんがいて。吉村さんが怪我をされる前とか『うわっ、この選手すごい選手になるんだろうな』って思ったのを覚えてます」

■本当は好きではなかったキャッチャー、監督の一言に感謝「本当はどこが守りたいんだ?」

 中学生になるとボーイズリーグの京都スターズに入団。ここでも捕手をしていたが、3年生になるタイミングで本格的に投手を始めた。

「僕、キャッチャーが好きじゃなかったんです。全然やりたくなかったんですよ(笑)。でも、運がいいというか、新チームになる時に当時の山崎監督に『お前、本当はどこが守りたいんだ?』って聞かれたんです。そこで『ピッチャー』と答えて以来、ずっとピッチャー。小学6年生になる時も、監督かコーチに『本当はどこが守りたいんだ?』と聞かれて、その時は1年間だけショートを守りました。小中とも一番上の学年になるタイミングで、本当の気持ちを聞いてもらえたんですよ。当時、子どもに聞く指導者はなかなかいないですから、僕は運が良かったと思います」

 特に、中学3年生で投手転向のきっかけを作ってくれた山崎監督には、感謝してもしきれないという。

「そこで聞いてもらえなかったら、僕はピッチャーをやっていなかった可能性もある。高校で野球をやる選択をしていなかったかもしれないですからね。辞めていた可能性もあるかもしれません。山崎監督はもう亡くなられているんですが、今になると本当に親身になってもらっていたんやな、と思いますね」

 もし山崎監督が斉藤氏の本音を聞き出していなければ、沢村賞に2度輝き、プロ野球史上7人目となる投手5冠を達成したエースは、この世に誕生していなかった。何がきっかけで人生が大きく変わるのか、本当に分からないものだ。

 野球に出会わなかった人生を想像すると「ゾッとしますね。とんでもない人生を送っているはずなんで。野球に人生を救われました」と苦笑する斉藤氏。「引退セレモニーの時にも言わせてもらったんですけど、きっかけを作ってくれた兄、子どもの時に続けさせてくれた両親には、本当に感謝です」と話す。

 現在はコロナ禍で野球との距離が遠くなってしまった子どもたちも多いが、こんな時だからこそイメージトレーニングに励むことを勧めるという。

「いろいろな映像を見て、自分でプレーする姿をイメージするといいと思います。そして、外に出て思いきり野球ができるようになったら、イメージしていたものを試してみる。何か工夫する、考える、イメージすることを大事にしながら、野球を身近な存在にしておいてほしいですね」

 もしかしたら、このアドバイスをきっかけに野球を続け、将来プロの門を叩く子どもたちが誕生するかもしれない。人生、何がきっかけになるか分からないのだから。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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