20年先を見越したトヨタFCV「MIRAI」インタビューまとめ

FUTURUS / 2014年12月18日 16時45分

トヨタは燃料電池車FCVを20年以上前から開発、このたび初の量産モデルとなる MIRAIを発表、12月15日から発売を開始した。

燃料電池車は燃料として水素を利用、空気中の酸素と化学反応させ電気を生み出す次世代テクノロジーを使った究極のエコカーだ。排出するのは水のみ、という地球環境に優しい点が特徴。しかしこれまで燃料電池の価格が1億円ともいわれ、普及へのハードルは高かった。

トヨタは20年に渡る開発期間を経て、燃料電池を大幅にコストダウン、安全にかかわる水素タンクを自社開発するなどして、量産化への糸口をつかんだ。

しかしガソリンスタンドと違い、まだ水素ステーションの設置個所は少ない。鶏が先か、卵が先かという論争があるように、FCVの普及が先か、水素ステーションの設置が先かという状況であるが、どちらも踏み出さなければ始まらない。

今回、トヨタFCVについて、過去にFUTURUSで行った開発責任者へのインタビューから気になる要点をまとめつつ、このクルマの実力、未来に対してどんな可能性を秘めているのか、考えてみよう。


■ FCV MIRAI 開発責任者:田中義和氏

・所属:製品企画本部 ZF 主査

略歴:1961年生まれ。大学院で機械工学を修め、1987年、トヨタ自動車に入社。オートマチックトランスミッションのハード開発、制御開発を担当。初代vitzの新型4AT開発、FR用多段A/Tの開発を担当。2006年3月、製品企画部門に異動。プラグインハイブリッド車の開発を担当する。2007年よりプリウスPHVの開発責任者を経て、2011年よりFCVの開発責任者。


■ トヨタFCV開発の歴史

トヨタは1992年からFCVの開発に取り組み、これはプリウスよりも早い。これまでもいくつかFCVを世に出してきたが、それと今回の量産車MIRAIとの違いはなにか。

今まではSUVベースのクルマで、言葉は不適切かも知れませんがある意味「燃料電池になったこと」だけが売りでした。燃料電池自動車はモーター走行なので、力強い、気持ちいい走りができますが、これまでコストが相当高かったです。それを今回量産化することで結果として価格を下げることに繋がっています。

また、改めて燃料電池であることのメリットを生かし、本来クルマがもつクルマの魅力、デザイン、乗り味、乗り心地、ハンドリング、fun to driveを新しい形で実現することで、商品性を付加しています。

つまりこれまではベースの自動車があり、その中へ燃料電池をはじめとするパーツを組み込んだ、ある意味ありあわせの設計だった。今回の量産車は新設計、燃料電池車に最適化したことが流麗なデザインや低重心でハンドリングが良いなど様々なメリットを生んでいる(「究極のエコカー」開発の裏側とは?トヨタFCV開発者インタビューvol.1)。

しかし新設計と一口でいってもそうたやすいわけではない。実際にどんな困難があったのか、開発責任者の苦労を聞かせてくれた。


■ 開発の苦労と困難

燃料電池のメリットはたくさんあるが、開発、特に一般ユーザーに販売する量産車では技術面だけではなく苦労があったようだ。

開発の苦労といえば、技術面と体制面の両方あります。

技術面ではHVも新しいものだったけど、結構今までの自動車の枠組みで作れました。ところが今回は水素を使うことで、サービス体制の整備から法規、基準などまったく手探りの状態から新しいものを作る必要があったので、面白いけど、難しい部分が多かったです。

体制面でいえば僕は製品企画の部署で、技術部なんだけど全部とりまとめる立場です。デザインからコストにいたるまで責任があります。そのためマーケティング、営業とも議論しながら決めていきます。

特に水素なんて自動車会社が頑張っても、いつどのように普及していくか、インフラがどうなるかわかんないんです。ですが、泣きつくのではなく、しっかりと社内を説得、理解してもらって進めていくのが僕の大事な役目です。

これまでの自動車であれば、燃料であるガソリンはいつでもどこでも手に入れることができるのでインフラについて気にすることはなかった。現在水素ステーションは限られた数しかなく、トヨタは自動車メーカーなので、水素ステーションを作れるわけではない。はじめてづくしの中で手探りでやっていく苦労が伺える(「FCV開発の苦労と困難」トヨタFCV開発者インタビューvol.2  )。

特に水素の安全性については、誤解を解くところから始めなければならないほどで、その啓蒙活動も大切な役割である。


■ 水素の危険性と安全対策

水素だから危ない、という意見があるが、実際の危険性、そして安全対策は。

水素が危ないと思われるのは自然な反応で、これまであまり使ってこなかったから経験がない上、「水爆」という言葉や原発事故では「水素爆発」が記憶に新しいです。とにかく水素にはデンジャラスなイメージがあります。

危険なイメージなものは普通は敬遠されがち。700気圧水素タンクは「爆弾背負って走っているのか!」と怒られることもあります。

まず身内、販売店のセールスマンやマーケティングにどう説明するかが大事。こういう対策をしているから安全なんだ、という生きた説明をしなきゃならない。もしお客様の質問に答えられないようだとかえっていらぬ心配をあおってしまうので、これまでの取り組みよりも踏み込んでやっていきます。

技術面では水素漏れセンサーの装備、耐衝撃性の高い水素タンク、さらに車両火災の際には安全に水素を出しつくす溶栓弁など安全対策は万全だ。

また物質の特性上ガソリンは爆発する危険性があるが、銃で撃たれても水素は抜けるだけで爆発しないという。この他、FCVは燃料電池車と二次電池車のハイブリッドであるため、プリウスのハイブリッド技術、コンポーネントをうまく使うことができるのがトヨタの強みだという(「水素の危険性と安全対策」トヨタFCV開発者インタビューvol.3 )。

車両が出るとはいえインフラ整備に社会の理解というのは一朝一夕にできるものではない。ハイブリッドがここまで普及するのに17年かかったことを考えると、20年先を見越した長い長い戦いになりそうだ。

■ インフラ整備と水素社会の展望

一般ユーザーとして気になるのは水素ステーションの整備展望であるが、田中氏はまずは数よりも立地だと言う。

充電スタンドは全国にすでに何千箇所も設置されていますが、水素ステーションは最初は数十か所くらいしかありません。不便を感じながら使わざるを得ないのは正直なところです。

航続距離が電気自動車と違って長いので、都心であれば40箇所もあればだいたいのエリアをカバーできます。数よりも大事なのは、いかに利便性のいい場所に作れるかどうか、です。

買い物に行く場所の側にあれば、その途中で補給できます。月2回補給すると航続距離は月あたり1,000km、年間走行距離は1.2万キロですね。これは平均的な自動車の走行距離です。

確かに水素ステーションがたくさんあるに越したことないけど、都市部からはじめ、関東、中部、北九州エリアにそれぞれ40箇所もあれば、黎明期としてはなんとかなります。あとはニワトリ・タマゴの問題、相乗効果で普及していくのではないでしょうか。

まずは利便性が高く集中した大都市を中心に整備、普及していくとみている。ユーザーとして気になる水素の価格は現在はガソリン車と同等の1,100円/kg、2020年以降は半分以下の500円/kgになると予測されており、ランニングコストはハイブリッド車以上となる見込み。

ただエコだけの乗りものではない、というのがFCV。その理由はぜひ記事で確かめて欲しい(「インフラ整備と水素社会の展望」トヨタFCV開発者インタビューvol.4 )。


■ FCV MIRAIの開く未来

インタビューを通して、FCVのメリットや課題、水素の安全対策などが以前よりも理解できた。水素は電気が苦手な貯蔵・運搬が可能であり、化石燃料に依存しない。水素が果たす社会的意義は大きい。

FCV MIRAIは、ただ燃料電池にしただけではなく、新しい水素社会を開くためのまったく新しい乗り物。そして自動車を作るだけではなく、社会と協調しながら進めなければならない。はじめなければはじまらない、という言葉どおり、今まさにスタートを切ったばかりだ。

インタビューの後しばらくして市販車 MIRAIが正式発表された。詳細は「トヨタ 燃料電池車「MIRAI」発表会レポート」、「発表会レビュー続編」を参考にしてほしい。

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