日本一おいしいお米とは? “ごはん同盟”しらいのりこさんに聞いてみた!
ガジェット通信 / 2017年6月30日 13時30分
糖質ダイエット、朝のパン派増加など、ご飯離れが加速している。家計に占める消費額で、小麦粉がお米を上回る状況が続いている。『FAO CAST』2011年統計を基に『TripAdvisor』が発表したインフォグラフィックによると、お米を食べる国ランキングでなんと日本は50位。1人の1日あたりのお米の消費量をコンビニのおにぎりで換算すると、1位のバングラデシュでは10個以上食べているのに対し、日本では2個半強ほどだ。このようなご飯離れの状況について、“炊飯系フードユニット”として活動する“ごはん同盟”代表のしらいのりこさんにお話を聞いてみた。
炊飯系フードユニット『ごはん同盟』
――『ごはん同盟』を結成したきっかけや活動内容を教えてください。
しらいさん:新潟県出身の夫と結婚し、新潟県で働き、暮らしていたのですが、私は料理の仕事を、夫はウェブの仕事を東京でしたいと考え、10年ほど前に上京してきました。料理の仕事といっても何をするか悩んでいた時に、米農家長男の夫が、親孝行をしたいという想いから、実家の米をマルシェで売り始めました。家業を継がずに東京にでてきた罪滅ぼしの気持ちもあったのかもしれません。
マルシェでのお米の売れ行きがぼちぼちだったこともあり、ただお米を売るだけではない次の展開として考えたのが、『オンザライス』というイベントでした。ご飯にあうおかずをたくさん用意して、ご飯を好きなだけ食べてもらう、おかわり自由のイベントです。品種や銘柄違いの食べ比べや土鍋や羽釜、鉄鍋など道具違いの炊き比べなど、毎回趣向を凝らして開催をしました。
私自身、新潟の実家から送ってもらっていたコシヒカリ以外のお米を食べたことは、ほとんどなかったのですが、食べ比べの会を通じて、多種多様な品種があること、味の違い、料理によっての向き不向きなどを知り驚きました。こうした食べ比べの会がきっかけで“ごはん同盟”を結成しました。おいしいご飯について日々研究し、ご飯・お米に関連したレシピ開発、料理教室、ワークショップ、イベントなどさまざまな活動をしています。
ご飯をいかに楽しく、おいしく食べてもらえるか
――ご飯を食べる人が減っていることについてどう思われますか?
しらいさん:ご飯を食べる人が減ったのは、日本の食の豊かさの表れでもあります。いまやご飯は、数ある主食の選択肢の一つとなっているので、無理強いして食べてもらうものではないので、いかに楽しく、おいしく食べてもらえるかをいつも考えています。だから、ご飯とパンがライバルだとは思っていません。
日本一おいしいお米はない
――しらいさんが思うおいしいお米を教えていただけますか?
しらいさん:こういう仕事をしていると、驚くほどいろんな方から同じ質問をいただきます。手間暇かけたおいしいお米はたくさんありますが、育った環境によって、食べ慣れた味が無意識に刷り込まれているもので、人それぞれおいしいと思うお米って違うんです。だから、“誰にとっても日本一おいしいお米”というのは存在しないと思っています。それから、料理は、作り手の気持ちや性格が不思議と表れるものです。怒りながら作った料理はしょっぱくなったり、苦くなったりします。自分自身を含め、食べる相手への思いやりをこめて作ることがテクニックよりも大事なことです。お母さんの料理がおいしいのは、やはり家族への愛情がこもっているからなのでしょうね。
食べる人と炊ける人を増やしていきたい
――“ごはん同盟”の活動を通じて一番伝えていきたいことは何ですか?
しらいさん:炊飯器など機械はどんどん進化している一方、ご飯の研ぎ方や炊き方を何となく思い込みでやっている人が意外と多いんです。私たちが得た知識を少しでも多くの人に伝えて、ご飯をおいしく食べる人・炊ける人を増やしていきたいです。こういう話をすると、まじめに難しく考えてしまう人が多いのですが、構える必要はありません。ご飯はやさしいので、ガチガチに頑張らなくてもおいしくできます。
味を次の世代へ引き継いでいくこと
――この仕事をやっていてよかったなと思う瞬間はどんな時ですか。
しらいさん:深川東京モダン館で行っていた、『モダン食堂』という明治から昭和のレシピを再現する食イベントでの出来事です。このイベントは、明治から昭和の料理本を参考に、当時食べられていた味を再現するというものです。
毎月参加してくださっていた80歳くらいの女性から、ある日の講義終わりで突然声をかけられました。娘さんの住む長崎に引っ越してしまうので、もう講義に参加できなくなるとのことでした。彼女から「あなたの作ってくれた料理は、私の母の味と同じで、食べると母のことを思い出せて嬉しかった。」と言っていただきました。音楽(聴覚)や香り(嗅覚)と同じように、料理(味覚)にも、人を、人生のある瞬間に揺り戻す力があるのだと気づかされました。
こういう瞬間があるから、食・料理の仕事はやめられないのです。料理をする上で、味のおいしさはもちろん大事ですが、“味を引き継いでいく”ということがとても大切で、今の時代に求められていることだと考えています。みなさんも、母の味、家庭の味を一つでもよいので、次の世代へ引き継いでいってください。
“ごはん”という軸ができて、世界が広がった
――最後に、しらいさんにとって“ごはん”とは?これから挑戦していきたいことがあれば教えてください。
しらいさん:“ごはん”は、自分の軸です。活動を始めた頃は、“ごはん”に絞ることで、活動の幅が狭くなるのではないかという迷いがありましたが、一旦範囲を狭めて自分の軸を作ったことで、逆に活動の幅が広がりました。“ごはん”は、お米のことですが、食事そのものを指す言葉でもあります。“ごはん”の定義は、実はとても広いと思っています。
ありがたいことに、最近はメディアに出て多くの方に発信できる機会が増えてきましたが、料理教室や講義、イベントなど、料理を通じ、直に人と触れ合う機会も大切にしています。生徒さんから学ぶことが本当に多いのです。多くの人に伝えること、直接相手に伝えることのバランスをうまく保ちながらこれからも活動を続けていきたいです。
イベントレポート『山崎文具店』
しらいさんにお誘いいただき、ヤマザキデザインワークスの企画展『山崎文具店』へ足を運んできた。6月16日(金)から6月20日(火)までの5日間、神楽坂 フラスコで文具の販売を行うイベントだ。6月17日(土)から6月19日(月)の3日間は、料理家3名が日替わり女将としてランチとツマミを用意してくれるのだが、3日目の女将がしらいさんだった。
この日のお弁当テーマは、“韓国のり弁”。イベント前日の夜に作った試作品は、一つ一つの料理の主張が強すぎて愕然としたそうだ。そこから、のり弁としての一体感を出せるよう改良するのに苦労したという。一つ一つのお弁当箱に、一品一品を丁寧に詰めていくしらいさんの様子を見ながら、作り手の顔が見える料理のおいしさを改めて実感した一日だった。
ごはん同盟
執筆:licoma
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