『GLOW』勇気をくれる人種差別プロレス(辰巳JUNKエリア)

ガジェット通信 / 2018年8月29日 15時0分

今回は辰巳JUNKさんのブログ『辰巳JUNKエリア』からご寄稿いただきました。

『GLOW』勇気をくれる人種差別プロレス(辰巳JUNKエリア)

 実在女子プロレス団体をモデルにしたコメディ『GLOW』は、リスキーな選択をとった。80年代に活躍した現実のGLOWは、今見るとかなり人種差別的なステージを放映していたのである。では、そんな問題あるショーをどのように“魅力的”に描くのだろう?

【※ネタバレを含みます】

有色人種は「悪役」な80s人種差別ショー

 80年代女子プロレス番組を描いた『GLOW』は奇妙なフィクションだ。『OITNB』製作陣がつくっただけあり、女性差別をウィットに富んだかたちで描いている※1。しかしそれだけではない。80年代中盤レーガン政権期を舞台にした本作のプロレスは、かなり人種差別的なのである。

司会「レバノンの過酷な砂漠からやってきた──恐ろしいテロリストのベイルート! 彼女は汚い砂漠のネズミ! 殺しのためなら手段をいとわない女です! 試合がハイジャックされるかも!」

観客「テロリストめ! ターバン野郎! クソ野郎! 中東に帰りやがれ!」

 TV番組企画として発足した女子プロ団体GLOWの配役は白人を「正義」、有色人種を「悪」とする設定が目立つ。インド系は「おそろしい中東テロリスト」役に任命される。カンボジア系に与えられたのは「中国の共産主義者」。黒人も勿論ヒールで「社会をむしばむ寄生虫」役。これら「アメリカの敵」を倒すヒーローはブロンド白人、そして才色兼備の白人、白人老婆、つまりは白人ばかり。すべての有色人種が「悪」役、すべての白人が「正義」役というわけではないが、製作側は意図的にショーの人種差別性を描いている。

 『GLOW』は実在のプロレス団体をモチーフにしているものの、脚色を加えたフィクション作品だ。しかし、劇中の差別的パフォーマンスに近いものは現実のGLOWやWWEでも行われていたという※2。ドラマ版の「悪役」には、80年代アメリカで需要が高そうなステレオタイプが並んでいる。例えば、ロシア人や中国人を「反米の共産主義者」とする設定。80年代は冷戦まっただ中だった。そして「レバノンのおそろしい中東テロリスト」*3。1982年、レーガン政権はレバノン内戦にアメリカ海兵隊を派遣した。同隊兵舎は自爆トラック攻撃を受け200人以上が死亡している。そして、作中、1985年トランスワールド航空847便テロ事件が登場する。テロリストが「イスラエルに捕らえられたレバノン人の解放」を訴えた事件で、乗客のアメリカ海軍が射殺された。

司会「ウェルフェア・クイーンは社会の寄生虫です!(中略)胸元から何かを引っぱり出す!フード・スタンプだ!」

ウェルフェア・クイーン「政府が捨てるほどお金をくれるの! ほら!くれてやるよ!(不正受給した社会福祉を相手レスラーの口にねじ込む) レーガンの言ったことを信じる? あたしが制度を悪用してるって!!」

 黒人女性タミーが演じる悪役「ウェルフェア・クイーン」にしても、非常にレーガン政権期ライクだ。「ウェルフェア・クイーン」とは、社会福祉を不正受給し豪遊する怠惰な女性を指す。おもに黒人女性に向けられる。これはレーガンが有名にしたステレオタイプだ。選挙キャンペーン中、レーガンは「社会福祉不正受給で贅沢生活をする市民」の存在を明かし、福祉支出削減を訴えた。

(ウェルフェア・クイーンの典型像、彼女に金を貢ぐロバは民主党)

 タミーは「ウェルフェア・クイーン役は攻撃的すぎる」と監督に訴える。彼女は息子を心配する。TV番組で黒人差別的ステレオタイプを演じる母を見たら、あの子はどう思うか……。しかし、差別を促進する酷い役を演じなければお金は貰えない。役柄変更の申し出を断られた彼女は、リング上で「不正受給による豪遊」を堂々自慢するヒールになりきるのだった。今見るとかなり酷いステレオタイプ表現なわけだが……『GLOW』はショーの差別性を“燃える展開”につなげてみせる。

差別的エンタメを魅力的に描く方法

 「悪役」にされたタミーに転機が訪れる。なんとリングにKKKが登場したのだ。これは団体側が意図したものではなく「正義」役の白人レスラーが勝手にやったサプライズ。白装束を見た「悪役」黒人レスラーたちは、怒って方向転換。脚本にそむき「悪の討伐」を宣言するのである。観客も黒人たちを応援し、もともとの「正義と悪」設定が反転するショーができあがった。このステージでは、黒人が「正義の味方」なのだ! まさしく燃える展開。もともとは差別的ステージだったからこそのハイライトだ。また、これ以降もショーの差別性は変わらない点もポイントだ。タミーのポジションが変化したわけではなく、彼女はこの次の試合も「社会の寄生虫」の悪役。S1最終話では「レバノンのテロリスト」を演じたインド系医学生が観客に罵倒され傷心する痛ましいシーンが入る。劇的なハイライトが入ったからといって、全てが「めでたしめでたし」になるわけではない。ちなみに「KKKと黒人のプロレス」は実際に90年代にNWC*1が行ったもの。

*1:「Remembering That Time Virgil Wrestled a KKK Member」2015年11月10日 『Complex』

https://www.complex.com/sports/2015/11/virgil-wrestling-klansman

「エンパワーメントと搾取。その両方がGLOWにはあった。そこが興味深いのです」

(『GLOW』共同制作者リズ・フラハイブ、Vanity Fair*2)

*2:「The Fierce, Not-So-Feminist Women’s Wrestling League That Inspired Netflix’s G.L.O.W.」2017年06月19日 『Vanity Fair』

https://www.vanityfair.com/hollywood/2017/06/glow-netflix-womens-wrestling-80s-alison-brie

 「差別的表現をしていたエンターテインメント」を脚色し、その魅力を肯定するコメディ……そう聞くといろいろ危うい気がするが、アメリカ周辺での評価は非常に高い(Rotten Tomatoes*3 批評家支持率95%)。高評価の理由は巧みなバランスにあるだろう。『GLOW』は、実在した番組の差別性や搾取を“無かったこと”にしていない。その一方で、女子レスラーたちが発したエンパワーメント性も“無かったこと”にしていないのだ。不平等な環境を描いているからこそ、カタルシスが強力になっている。まさに王道の作劇だが、エンパワーメントと搾取両方にスポットライトをあてたところが面白い。「差別的表現をしていたエンターテインメント」を“魅力的に”描くフィクションの好例と言える。

*3:「GLOW: SEASON 1 (2017)」 『Rotten Tomatoes』

https://www.rottentomatoes.com/tv/g_l_o_w_/s01/

「GLOW: ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」『NETFLIX』

https://www.netflix.com/jp/title/80114988

関連記事

「『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』レイシストもレイピストもいいやつ」2016年10月18日 『辰巳JUNKエリア』

http://outception.hateblo.jp/entry/OITNB

※1:例えば、プロレスと昼ドラの共通点を発見する流れは面白い。「男のもの」とされたプロレスが好む物語は、「女のもの」とされる昼ドラと似通っている(正確には昼ドラではなくソープオペラ)

※2: The real story of Netflix’s GLOW | When wrestling, comedy and Cold War politics collide – Radio Times, 5 Stereotypes Portrayed In Netflix’s ‘GLOW’ That Are Still Prevalent In WWE

※3:現実のGLOWに出てきた「テロリスト」役はパレスチナ人の設定だった模様

執筆: この記事は辰巳JUNKさんのブログ『辰巳JUNKエリア』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2018年08月28日時点のものです。

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